青い光が見えたから 16歳のフィンランド留学記

羽海野チカさんが読んだ感想をTwitterで見つけて、とてもとても興味深かったのでポチった一冊。
丁度積読本が増えていた時期で、なかなか読めずにいたのですが、出張に向かう車中で一気に読みました。

著者の高橋さんは、小学生時代に出会った「ムーミン」のお話しに心惹かれ、小学生にしてフィンランド留学を決意。その後、窮屈で辛い中学時代を過ごすも、どうにかそれを乗り越え、まだフィンランド語もろくに話せない状態で、単身フィンランドの高校に入学します。短~中期留学ではなく、フィンランドの高校を卒業することを目標とし、言葉も文化も違う異国の地で自分らしさを取り戻し、奮闘するお話し。

小学生にして留学を思い立ち、苦節を乗り越えながらもそれを実現する高橋さんのバイタリティに痺れました。また、それを馬鹿にするでもなく、引き留めるでもなく、そっと背中を押してあげた両親が素晴らしいと思います。そしてフィンランドの、のびのびとした文化のすばらしいこと。

異文化交流に興味がある人、北欧の暮らしに興味がある人はもちろん、教育に携わる人にもぜひ読んでもらいたい一冊です。衝動買いしてよかった!

ライトノベル・フロントライン1: 特集 第1回ライトノベル・フロントライン大賞発表!

遅くなりましたが、ついに刊行されました。

前著『ライトノベル・スタディーズ』から早2年、ライトノベル研究会から待望の新刊がお目見えします。その名も『ライトノベル・フロントライン1』。ナンバーが振ってあることからお分かり頂ける通り、ライトノベル研究会から定期刊行物としてお送りします。(年2回刊行を予定)

創刊号の特集では、今回創設された第1回ライトノベル・フロントライン大賞を発表します。

小特集では、氷室冴子や新井素子らが活躍した1980年代の少女小説に注目。各分野の研究者が集まるライトノベル研究会だからこそ提供できる、充実した内容でお送りします。

私はライトノベル・フロントライン大賞およびコミック化作品のレビュアーとして参加しています。
ご興味のある方はぜひご覧ください。

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読書の腕前 (光文社知恵の森文庫)

作者の岡崎氏は本を読むことが趣味であり、フリーライター・書評家を生業としているから、読むことが仕事でもあります。その冊数、年間三千冊というからすごい。その岡崎さんが、普段からどのように書籍に接し、出会い、愛でているかを書き連ねた本がこちら。といっても難しい指南書ではありません。文体はやわらかく、読みやすく、エッセイ集と言っていいと思います。作品紹介があちこちに散りばめられ、その全てに岡崎さんの思い出や思い入れが記されていて、興味をかき立てられること必須。

紹介される本も多岐にわたりますが、基本的には文学作品を好んでいるようです。私は知識を目当てに本を読むことが多いので、ちょっと考え方が異なる所もあるけれども、読んでいて共感したり、驚いたり、勉強になる話が山ほど詰まっていました。つい先ほど通読を終えたので、これからもう一度頭からさらい直して、紹介されている作品の中から、気になるものを抜き出して、次に読む一冊にしたい。


注:本書は、光文社新書から出ていた『読書の腕前』を加筆修正して文庫化したものです。

多数決を疑う――社会的選択理論とは何か (岩波新書)

私は新書が好き(そもそもこのブログを書き始めたきっかけの一つは、大学の後輩に「せめて新書ぐらいは読む習慣を持とうや」と文句を垂れたいのをぐっと我慢し続けてきたフラストレーションである)ですが、岩波新書はちょっと雰囲気が固く(テーマ選びも、文体も)、レーベルのカラーとしてやや文系に偏っていることもあって、あまり手に取っていません。そんな私が、書店で見かけて久しぶりに手に取った岩波新書の一冊がこれ。

小学校でも大学でも、会社に入った後でさえ、多人数で物事を決める時は多数決をとるのが一般的です(出来レースになってしまっている場合も多々ありましょうが…)。
もっとも規模の大きな多数決は、やはり選挙でしょう。自らの意見を代弁してくれる(はずの)人を選出する選挙は、民主主義にとって、とりわけ大切なイベントです。そのことを重々承知しつつ、国会議員のスキャンダル話やら、議論とは名ばかりの、子どもじみた喧嘩のようなやりとりを見ると、自分の投じた一票に、本当に意味はあるのかと思ってしまうことがあります。(もちろん、それでも私は選挙に行きますが)

そしてこの本は痛快に、多数決は決して民意を問うのにベストな方法ではなく、むしろ不公平な方法だと説きます。多人数の意見を集約させる方法として多数決を用いるのは、単なる歴史的な習慣にすぎず、(まさにこの本のタイトル通り)多数決を疑う必要がある、といいます。しかも「多数決の不公平さ」や、「よりベターな意見集約方法」が、足し算引き算程度の、とても簡単な計算で数学的に証明されてしまうのです。(これを扱うのが、副題にある「社会的選択理論」)久しぶりに目から鱗が落ちた感覚を味わいました。

数学や数理工学に興味のある人はもちろんのこと、数学や算数なんて大嫌いだけど、選挙・政治に興味のあるという人も、容易に読めると思うのでぜひ手にとってみて欲しい本です。


※残念ながら、まだ書影が出来上がっておりません。あしからず…

時間をかけて準備しておりましたが、やっと皆様にご案内できます。

前著『ライトノベル・スタディーズ』から早2年、ライトノベル研究会から待望の新刊がお目見えします。その名も『ライトノベル・フロントライン1』。ナンバーが振ってあることからお分かり頂ける通り、ライトノベル研究会から定期刊行物としてお送りします。(年2回刊行を予定)

創刊号の特集では、第1回ライトノベル・フロントライン大賞を発表します。2014年の1年間に刊行された新人作家の新作の中から、作品の「質」を重視した選考を行い、大賞および特別賞を発表します。

小特集では、氷室冴子や新井素子らが活躍した1980年代の少女小説に注目。各分野の研究者が集まるライトノベル研究会だからこそ提供できる、充実した内容でお送りします。

2015年9月末刊行予定です。興味を持った方は、忘れないうちにぜひ予約を。

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境界の皇女

位置づけとしては、歴史物の雰囲気をまとわせた異世界ファンタジーになるのでしょうか。表紙の絵は、風にたなびく極細の絹糸のような髪が印象的です。Amazonではライトノベルに区分されていますが、少し判型の大きいノベルス版の本ですので、書店でお探しの際はご注意下さい。

古の呪術を受け継ぐ野椎国第一位皇位継承者である姫 伊古那が、継母の言いつけで5年もの間書庫に幽閉された上、突如火遠理国の王に嫁ぐことを言い渡される。政略結婚と知りつつ向かった火遠理国で運命的な出会いを果たすと共に、陰謀に巻き込まれ…というお話し。

アクションシーンもありますが、派手なリアクションや立ち回りといった視覚的要素に頼らず、登場人物(特に伊古那)の心理を丁寧に描写し、繊細な人間関係を作りこんでいることに好感が持てます。その一方で、情景描写や世界観描写はかなりあっさりしています。読みやすいという意味では良いのですが、せっかく人物描写が魅力的で、伏線になりそうな興味深い設定もたくさんあるので、もっと背景を書き込んで描写すると、映画のように壮大な想像の広がる作品になりそうです。今後も続刊して、壮大な世界が構築されていくことを期待します。

下読み男子と投稿女子 -優しい空が見た、内気な海の話。 (ファミ通文庫)

Twitterなどでも話題になっていたので、知っている方も多いのでは。

野村美月先生と言えば「“文学少女”シリーズ」の作者として知られる、大変有名なライトノベル作家の一人です。また、数々の新人賞選考に関わっている事でも知られます。

その経験を存分に活かして書かれた作品と言えるでしょう。読書好きが高じて、新人賞の下読み(一次選考)を多数手掛ける男子高校生、青。そんな彼の元に、周囲から”氷の淑女”と呼ばれるクラスメイト、氷ノ宮氷雪が書いた作品が届く。その内容は驚いたことにフォント替えや顔文字だらけのライトノベル…というお話し。

ラブコメでありながら、ラノベ執筆のノウハウも学べる。ミステリーの要素もあり、人情話の要素もありと、大変盛りだくさんなエンターテインメント小説。ちょっと展開がご都合主義すぎないか…と思わせておいて、意外なところでおっ?と思わせる演出が出てくる、下世話とわかりやすさと面白さの匙加減はさすが、の一言。

個人的には、作中作(氷ノ宮氷雪の作品)のフルバージョンが読みたいです。野村先生、お願いします。

音楽の科学---音楽の何に魅せられるのか?

我が家の近所に西友があり、その中にテナントとしてLIBROが入っています。規模としては典型的な中型書店で、面積はそれほど広くないのですが、ここは店舗規模の割に、妙に音楽の棚が充実しています。音楽の好きな店員さんがいるのか、武蔵野音大が沿線にあるからか、理由は定かではありませんが。

この本はそこで偶然見つけたものです。ハードカバーでページ数はなんと649ページ。一見すると国語辞典に見えそうな、ヴォリュームのある本です。(Amazonの書影だと厚みが伝わらないのが残念。)分厚くて、文字が多くて、手を出すのにちょっと勇気が必要でしたが、音楽情報学研究をかじった端くれとしては必見だろうと思い、思い切って購入しました。

主に聴覚心理や脳機能科学の観点から見た、音楽の最新研究成果が多数紹介されています。あくまでもサイエンスライターによる科学読み物として書かれているので、内容がきれいに整理されておらず、話のまとまりがあいまいだったり、わかりやすく書こうとして却って説明が不明確だったり(これは訳の問題もあるかもしれません)しますが、興味深い内容が多く含まれていました。楽典、特に和声について、少し踏み込んで学びたい人にも参考になる本かもしれません。

音楽認知について興味があるけれど、さすがに649ページ読むのはしんどい。もう少し気軽に学びたいという人には、オリヴァーサックスの『音楽嗜好症』がおすすめ。

音楽嗜好症: 脳神経科医と音楽に憑かれた人々 (ハヤカワ・ノンフィクション文庫)

現役の脳神経科医であり、世界的に著名な作家であるオリヴァー・サックスが、文字通り「病的」に音楽を摂取する(好むと好まざるとに関わらず)人々を紹介した本。

人間の脳は大変複雑なシステムを構成している。この脳を構成する各部分を、極めて繊細なバランスで協調動作させて、初めて音楽は音楽として認識され、楽しみ、消費できている。この本に登場する人物の多くは、その協調動作が―ほんの少しだけ―狂ってしまった人々である。そのほんの些細な狂いが、音楽の受容・認識を大きく変えてしまう。その症状を詳細に観察することで、人間の脳がどうやって音楽を音楽として処理し、認識するかを逆照射することができる。大変興味深い事例がたくさん掲載されている本。

夜想曲集:音楽と夕暮れをめぐる五つの物語

先日、古澤由貴さんのアルバム制作を手伝いました。いくつかあったタイトル案の中に「夜想曲集」というタイトルがあり、このタイトルをGoogleで検索し、偶然見つけた本です。(結局、アルバムのタイトルは「夜想曲集」となりました。アルバムの情報はこちら

普段純文学はあまり読まないのですが、タイトルに惹かれ、表紙のデザインも素敵なので、読んでみることにしました。(文庫版もあるのですが、ハードカバー版の表紙の方が素敵で、古書価格も安かったのでハードカバー版を買いました。)

男と女、老いも若きも、成功者も落伍者もペーペーも。色々な立場と人生を背負い、どこか影と憂いを抱えた人たちが、時にドラマティックに、時にひっそりと出会い、別れ、交錯する様を描いた小品が5編。いずれの話にも、人々を繋ぐ絆の象徴として、音楽が現れます。

著者は日系イギリス人のカズオ・イシグロ氏。霧のロンドンを首都とするお国柄か、発色を抑えてわずかに灰色がかった、古いフィルム映画のような景色を想像しました。