遠山啓のコペルニクスからニュートンまで

このブログでは、自分の持っている本の紹介もしようと思っていたのですが、私の蔵書はあまりにも専門的だったり、逆にとても俗っぽかったりして、変わり種の本を選ぼうとすると案外難しいことに気付きました。今回紹介するのは、専門書でありながらデザインの美しい一冊。

高円寺で行われた、中小の出版社が集まって掘り出し物を並べるイベントにて、ひとめぼれして購入しました。実は私の買ったの本は、もう製本が崩壊しかかっていて、背張りがはがれてしまっています。(だからこそ格安で買えたのですが)

全く同じ内容でデザインの違うものもあり、そちらは壊れておらずしっかりしていました。ところがデザインが単なる教科書のような地味なデザインだったため、悩んだ結果、デザインを重視してこちらを選びました。

表紙は絵本のようですが、中身は本格的なのにわかりやすい。数学・物理歴史を丁寧に説明し、最後は相対性理論の解説までたどり着きます。図版も、貴重な史料が多数収められている他、温かみあるタッチで描かれた手書きの図解があったり、過去の偉人の肖像写真があったりと、絵を追うだけでも楽しい本です。

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4623820275_4f0b9a073f_zここでいう小型書店を明確に定義するのは難しいのですが、店舗面積が数畳程度、あるいは数棚しかないお店をイメージしています。具体的には駅ナカなどにある売店スタイルの書店、ローカル駅前のロータリーや商店街に紛れている、個人経営の小さな書店などを指します。また、純粋な書店とはちょっと違いますが、スーパーのレジ脇などにある書籍コーナーや、コンビニの雑誌・書籍棚を入れても良いでしょう。

基本的な特徴は、「中・中・タコかいな?~中型書店の特徴~」で書いた中型書店のそれと変わりません。ただ、中型書店よりさらに棚が少なく、扱える書籍数が極端に少ないため、並ぶ本のジャンルは限定され、店の特徴が極端に現れます。

コンビニであれば多くのお店で雑誌が最優先で揃えられます。マンガ(通常のコミックスだけでなく、いわゆるコンビニコミックと呼ばれる安価な本を含む)を置く店も多いですが、棚一つ確保されていたり、雑誌コーナーの片隅に数冊おいてあるだけだったり、配分は様々です。加えて文庫本やビジネス新書などを置く店もあります。中には相当書籍に力を入れるお店もあり、私の職場近くにあるコンビニは平置きの選書棚が常設されていて、最新のベストセラー書籍が揃えられています。

駅ナカの書店になると、やはり電車の中で読まれることを意識して、小さいお店であっても文庫本や新書の比率が高くなります。どういうわけか高確率で官能小説文庫が扱われていることが多く、店によっては異様に目立つほど品ぞろえが充実しています。フランス書院(官能小説の大手レーベル)は揃って表紙が黒いので、棚一つが真っ黒で、よくよく見ると妖しい文言がその上に踊っている…なんて光景もしばしば目にします。

棚数も面積も小さいので、ごくごく短い時間でチェックできます。自分の生活圏内あるいは出先で見つけたら、まずは一度入って眺めてみる。自分の趣味に合うラインナップかどうかを見極めて、趣味に合うお店ならば、定点チェック対象のお店にするのが良いです。



Leaves, Japanese pepper 山椒 / nekonomania

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6743831443_8aa84be590_z大学時代、とある書店でアルバイトをしている後輩がいました。
彼の勤めていた書店はチェーン店ではあるものの、駅の地下街の片隅にある、
フロア面積の小さな、目立たない書店でした。

アルバイトを始めてしばらくして、彼はアルバイトながら、「ライトノベル」の棚担当者に
任命され、ライトノベル棚に入れる商品の選定・注文を任されるようになりました。
ライトノベル棚と言っても、与えられたのは本棚のうち2列だけ。文庫本50~60冊くらいを収めるともういっぱいになってしまいます。ライトノベルは月に100冊以上の新作が発売され、しかも人気作になると10巻、20巻以上のシリーズになります。60冊が入る棚では、最新刊の
ライトノベルを紹介することすら難しいのです。全国的にライトノベルブームになったとはいえ、立地の関係であまり若い人が立ち寄るお店でなく、しかも近所にはコミック・サブカル専門店もあることから、あまり力を入れていなかったのでしょう。

さて、そんな小さなライトノベル棚を任された彼はどうしたか。なんとその貴重な棚のうち1/5くらいを、自分の趣味であるTRPG(Table talk Roll Playing Game)の本(リプレイ本&ルールブック)に割り当て、常設しました。TRPGの本は今でも、かなりニッチジャンルの本(一般論として話しています。TRPG好きな方、見ていたらごめんなさい…)で、アニメ・マンガ・ライトノベルなどを専門に扱う書店でもあまり多くは見かけません。

とても貴重な棚の一部を、TRPGというニッチジャンルの本に割り当てた結果、どうなったと思いますか。TRPGファンの中でじわじわと「あの店にはTRPGの本が常にある」という噂が広まり、TRPGファンが本を求めにやってくるようになりました。そして、TRPGの本の「ついで」に、その横に並ぶライトノベルもセットで買ってくれるようになったのです。おかげでこのお店は、TRPGファンという固定客を取り込むことに成功し、結果としてライトノベルの売り上げも急上昇。あれよあれよと言う間に、ライトノベル棚は拡張され、最終的には棚2つ全てがライトノベルに割り当てられるようになり、ライトノベル最大手「電撃文庫」の優先配本を受けられるまでに成長しました。(電撃文庫は、売り上げ実績の多い書店から優先的に商品を卸す方式を採用しており、優先配本を受けられるか否かで、確保できる商品数が大きく異なる)

お店自体は小規模でも、ジャンルを限れば(今回の場合はTRPGというジャンル)専門店顔負けの品揃えがある場合がある…という、一つの実例でした。



Gaming Dice / Skakerman

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3628914910_06c1ee6db0_zここでいう中型書店とは、平屋建て~2階建て程度のビル、またはスーパーや商業施設の中にテナントとして入っている書店をイメージしています。大型書店は新宿、池袋、渋谷、東京(丸の内)…といった大きなターミナル駅に集中していますが、この規模の書店はチェーン店として全国のあちこちに存在する、とても身近な書店です。

大型書店ほど棚数は多くありませんから、必然的に商品の「取捨選択」が厳しく行われます。その分店やスタッフの特徴が出やすく、お気に入りのお店を「発掘」する楽しみがあります。
チュウ型書店はタコなんかじゃありません。とても魅力的なお店です。

 

👍メリット

  • 大型書店がある町は限られるが、中型書店は全国のあちこちに展開している
    • チェーン店だけでなく個人店も多い。身近な書店。
  • 棚数が限られているため、商品の取捨選択が厳しい
    だがそのおかげで、商品の新陳代謝がよく、通うたびに新しい発見がある
    また、取捨選択の仕方に、お店の特徴が出やすい
  • 商品数が絞られているので、じっくり一冊ずつ棚を眺めて吟味できる

👎デメリット

  • マイナージャンルの本は探しにくい
  • 似た内容の本を比較検討しながら探したい場合、比較候補が少なくなる
  • 専門的な知識をもったスタッフは少ない(いないわけではないが必ずいるとは限らない)

 💡賢い使い方

  • 街の身近な本屋さんとして、近所のお店なら通りがかりや時間のある時、
    マメに通う習慣をつけると良い
  • 特にこれと言って目当ての本があるわけではない時、
    新たな本との出会いを求める書店として最適
  • 棚数が少ないからといって、中型書店は決して大型書店の劣化版ではない
    商品の取捨選択が厳しい分、書店の特徴、スタッフ(棚担当者)の特徴が出やすい。
    そのためお店によっては、ある特定分野に限れば、大型書店よりも品揃えが良い
    ことすらある。(例えば小さな棚でも立派な専門店~あるアルバイトのお話~

    • 入ったことのないお店を見つけたら、どんどん入ってみて、お気に入りのお店を
      探しておく習慣をつけよう
    • チェーン店にはチェーン店の特徴がある。
      チェーン店でも、店ごとに担当者の特徴がある。

      • いかにお気に入りのお店を見つけるか、お店の特徴をつかむか、については
        また後日。


Honesty bookstand, Marianne / AnneCN

106570454_bd10de8f83_zここでいう大型書店とは、例えば池袋の「ジュンク堂書店」、新宿東口の「紀伊国屋書店 新宿本店」や南口の「紀伊國屋書店 新宿南店」、新宿西口の「ブックファースト 新宿店」、代官山の「蔦谷書店」などのように、ビル一つが丸ごと書店であったり、3フロア以上に展開されているようなお店をイメージしています。

フロア面積が大きい分、棚数が多く、保有冊数も多いのが大きな特徴です。便利なのですが、これが却って、「これぞ!」という本が埋もれてしまってなかなか見つけられないという事態を引き起こします。書店選びにおいて「大が小を兼ねる」とは限らないのです。

👍メリット

  • 棚数が多く、必然的に保有冊数も多い
  • 在庫を多くストックできるので、売切れやすいベストセラー書も十分な在庫を持っている事が多い
  • マイナージャンルの本も見つけやすい
  • 店舗が大きい分、働くスタッフも多い。そのため、自分が探している本を得意とするスタッフを見つけやすい
    • 大抵の書店では、本のジャンルや棚エリアごとに担当が別れていて、各エリア・ジャンル毎に詳しいスタッフがいます。

👎デメリット

  • 棚数が多いので、漠然と棚を眺めながら本を探すには時間がかかるし、疲れる
    • 1時間でも2時間でもじっくり時間をかけて探すことが出来る時なら問題ありません。
      喫茶室を併設している書店も多いので、途中で休むこともできます。
      また最近は、座ってじっくり本を選ぶことが出来る書店も増えています。
  • 棚数に余裕がある分、ラインナップの新陳代謝が遅い。そのため、マイナージャンルになると、通っても通ってもあまり変わり映えしないように感じることがある
  • 広く浅くになりがち
  • 休日などお客さんが多い時は、レジが混む。ひたすら混む。
    • 日曜日夕方ごろのジュンク堂書店池袋本店の1階レジなんて、1Fがほとんどレジ待ちの人で埋まってしまう!

 💡賢い使い方

  • 目当ての本が絞り込まれている場合「この本」が欲しい)は、目当ての本がすぐ手に入る可能性が高いので、便利
  • 目当ての「ジャンル」「内容」がはっきりしていて、手元で比べながら探したい(たとえば、「線形代数学の参考書を探したい」)時には、比較できる本が多くて便利
  • 小さなお店ではすぐ売り切れそうなベストセラー書をいち早く購入したい時、在庫数の多い大型書店が有利
  • 専門書やニッチな内容の本を探す時には、ラインナップ豊富な大型書店が有利
  • 書店員に相談したい時は、専門スタッフの多い大型書店が便利
  • ふらっと眺めながら本を探したいときには、注意が必要。
    • 十分な時間(と体力)をかけられる時はご自由にどうぞ。
    • ある程度、眺める分野、エリアを絞っておく。
    • 選書棚を活用する
  • 大型書店のラインナップはどうしても「広く浅く」になりがちだが、それでも書店によって
    得意な分野やラインナップの傾向はあるので、趣味(または目的)にあった書店を選ぶのが良い


bernal heights park II / striatic

6752600849_e19d394973_z今や本に限らず、様々な物がネットショップで手に入る時代です。しかしネットショップは、すでに狙いを付けている本を購入するにはとても便利なものですが、未知の本に出会ったり、なんとなくぼんやりとしたイメージで本を探す(和食のレシピ本を探したいが、好みに合いそうな料理が掲載されている本がわからない、とか)には不向きです。書店に行けば、沢山の本を一度に眺めて、手にとって中身を確認しながら探すことができます。お買いものはネットで済ます派の人も、新たな本と出会うためには、書店を活用する技術を知ることが必要です。

さて、皆さんの生活圏内には、いったい何軒の書店があるでしょうか?地域差はあるでしょうが、電車やバスで多少足を延ばすことも厭わなければ、数軒はあるのではないでしょうか。そして、それらの身近にある複数の書店を、あなたはどうやって「使い分けて」いますか?

ちょっと古い情報ですが、さっと確認できた統計情報として、総務省統計局サイトで公開されている情報(日本の長期統計系列 第26章 文化・レジャー)を見てみると、日本において、新刊書籍は年間約77,031冊の新刊書籍が刊行されています(2004年実績値)。つまり平均すると、1日に200冊以上の新刊書籍(しかもこれは雑誌を除いた数字です)が全国の書店に並ぶことになります。人気の本がお客さんの手に渡っていく一方で、売れない本は容赦なく出版社に返本され、空いたスペースに次の本を詰めていく。無限に大きな書店など存在しませんから、書店に並ぶ本は毎日が淘汰、淘汰の連続です。

その中で、皆さんが次に出会うべき"運命の本"を的確に探し当てるためには、書店を正しく活用して、「"運命の本"と出会う確率を上げる」ことが大切です。

世の中に本屋さんはたくさんありますが、どれもみんな違うのです。「大きい本屋があれば、小さい本屋はいらない」「チェーン店の本屋ならどこも品ぞろえは似たようなもの」「駅前にある高々数畳しかないような本屋なんて、見る価値ない」などなど、これ皆間違った考えです。本屋の違いを正しく見極めて活用する方法を身につけましょう。具体的な内容はまた別の日に。



Queensland Book Depot, Brisbane, ca. 1940 / State Library of Queensland, Australia