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TPS-Extended-for-Jazz
TPS-ExJのページ
このページは,私が大学院修士課程で研究した研究成果について,解説と作成したプログラムの配布を行うページです.
概要解説
技術的な詳細は,拙著論文等を参照してください.
TPSとは
TPS(Tonal Pitch Space)はFred Lerdahlによって提唱された計算論的音楽理論です。 (F.Lerdahlは,このほかに大変有名な計算論的音楽理論 GTTMも開発しています)
計算論的音楽理論については音楽情報科学、計算機音楽理論とは?も参照してください.
(クラシック)音楽理論の中でも重要な役割を果たす「和声学」の知識を数学的モデルによって捉え直したもので,次のような特徴があります.
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ベーシックスペース
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TPSは1つの和音を,ベーシックスペースという12次元ベクトルで表現します.
- ベーシックスペースは,オクターブを構成する12個の音(平均律上で)が,それぞれ和音の中でどの程度重要な役割を果たしているか(一種のヒエラルキー)を5段階のレベルで表します.
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TPSは1つの和音を,ベーシックスペースという12次元ベクトルで表現します.
ベーシックスペース |
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和音間距離
- TPSは和音進行x→yが,どの程度音楽的に自然な和音進行であるかを,和音間距離という指標で表します.
- 和音間距離は値が小さければ小さいほど,より「自然な進行である」と解釈されます.
- 和音間距離δ(x->y)は,region(x,y), chord(x,y), basicspace(x,y) という3つのサブ関数の和で定義されます.
TPS 和音間距離 |
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TPS region関数 |
TPS chord関数 |
TPS basicspace関数 |
TPS-ExJとは
TPS-ExJ(TPS EXtended for Jazz)は,TPSが和声を扱う数少ない計算論的音楽理論であることに着目し,これをジャズ音楽理論に応用することを目的に考案されました.
TPSそのものはクラシック音楽理論がベースとなっており,そのままではジャズ音楽理論に適応することはできません.ジャズ音楽理論への適応については,主に以下の問題点があります.
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ベーシックスペースの定義
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レベル不足
- TPSでは,主音・第3音・第5音以外の和音構成音(7度音程など)は,第3音と同じレベルとされています.しかし,両者の重要度には差があり,これを等レベルとする妥当性に疑問がある.特に和音構成音が増えるジャズ音楽理論においてはその差が顕著になる可能性がある
- 和音構成音の制限
- TPSでは,「和音構成音は調構成音でなくてはならない」という制限があり,この制限によって,例えばハ長調上でIの和音(Cメジャー)の代わりにI7(Cセブンス)の和音を使うことができない.
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レベル不足
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chord関数の定義
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ノン・ダイアトニックコードに非対応
- chord関数は,ダイアトニックコードにしか対応しておらず,ジャズ音楽理論で用いられるノン・ダイアトニックコードに対応できない.
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ノン・ダイアトニックコードに非対応
そこで,TPS-ExJでは,可能な限り少ない定義修正で上記の問題に対応するため,TPSに以下の拡張を施しました.
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ベーシックスペースの定義
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レベル不足への対応
- レベルを1段増やして6段階で音の重要度を表し,3度音と(主音・第3音・第5音以外の)和音構成音との間に,レベル差が生じるようにした.
- 和音構成音の制限
- 非調構成音が和音構成音となる場合,一時的に当該音を調構成音と等価と見なすこととした.
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レベル不足への対応
TPS-ExJ ベーシックスペースの改定 |
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chord関数の定義
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ノン・ダイアトニックコードに非対応
- ノン・ダイアトニックコードが与えられた場合,和音構成音が最も近いダイアトニックコード(ピヴォット・コード)を通して,chord関数が働くようにした
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ノン・ダイアトニックコードに非対応
TPS-ExJ chord関数の改定 |
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関連論文・資料
拙著論文
- 「非調構成音を含む和音への対応を目的としたTPSの拡張-ジャズ音楽理論への適用を目指して-」(山口直彦 他、2010年3月10日、情報処理学会創立50周年記念 (第72回)全国大会)
- 「非調構成音を含む和音への対応を目的としたTPS(Tonal Pitch Space)の拡張 ―ジャズ音楽理論への適用を目指して―」(山口直彦 他,2011年2月11日,第87回音楽情報科学研究会及び音楽音響研究会の共催)
- 「非調構成音を含む和音への対応を目的としたTPS(Tonal Pitch Space)の拡張- ジャズ音楽理論に基づく計算論的音楽理論の提案」(山口直彦 他, 2011年3月15日, 2011年電子情報通信学会総合大会 ISS特別規格「学生ポスターセッション」)
- 「非調構成音を含む和音への対応を目的としたTonal Pitch Spaceの拡張」(山口直彦, 2011年3月, 工学院大学大学院 修士論文)
その他論文
- 「Tonal Pitch Spaceを用いた楽曲の和声解析」(坂本鐘期,東条 敏(北陸先端大), 2009年5月22日, 第80回音楽情報科学研究会)
- 「Tonal Pitch Spaceを用いた楽曲の和声解析」(坂本鐘期, 2010年, 北陸先端大学修士論文)
配布物
ライブラリの配布
Ruby言語で構築された,実験用プログラム,及びRdocにより生成したドキュメントを配布します.
(構築環境:Windows上にインストールしたRuby 1.9で動作確認済み)
本ライブラリは修正BSDライセンス(New BSD License)を採用しています。本ライブラリを利用された場合には、使用された旨を作者までご連絡いただければ幸いです。(あくまでお願いであり、強制ではありません)また、ライブラリそのものの改造も歓迎いたします。
TPS,ひいては計算論的音楽理論,音楽情報科学の発展に寄与するべく, 本パッケージを使用した研究を歓迎します.
参考論文
本研究について,詳細に解説した拙著修士論文「非調構成音を含む和音への対応を目的としたTonal Pitch Spaceの拡張」は,次の方法で手に入れることができます.
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工学院大学図書館に問い合わせる方法
- 論文は,工学院大学図書館に所蔵されています.しかるべき方法で図書館に申請を出すことで,論文の閲覧及び複写の送付を申請できます.(参考:工学院大学図書館内 学外・卒業生の方のご利用について,図書館サービス案内)
- 直接問い合わせる方法
- メールなどの手段で直接山口へお問い合わせ下さい.PDF版修士論文をダウンロードする方法をお知らせいたします.
現在ご覧のページの最終更新日時は2020/09/27 23:52:07です。
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