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What is musical informatics?

音楽情報科学、計算機音楽理論とは?

はじめに

私が「あなたのご専門は?」と聞かれた場合、いつも「広く言えば音楽情報科学、中でも特に計算機音楽理論が専門です。」と答えるようにしているのですが、関係者以外の場合、この説明だけでは何がなんだかわからず、首を傾げられることがほとんどです。

このページでは「音楽情報科学」「計算機音楽理論(計算論的音楽理論)」の簡単な紹介をしたいと思います。

音楽情報科学って何だ?

音楽情報科学(Musical Informatics)は、一言で言えば「コンピュータを通じて音楽を研究する学問」です。

中世の頃は、音楽は現代と違い、むしろ数学に近い分野として扱われていました。その後時代を経るに従って、絵画などと同じように芸術の一分野のアカデミズムとして発達していくことになります。その結果、音楽は「芸術」であり、人間が感性を駆使して創造する営みだと思われるようになります。

音楽情報科学では、人間独自の営みとされる音楽にあえて計算機(コンピュータ)を取り入れ、コンピュータを通じて音楽を創作したり、分析したりすることで、コンピュータが真の意味で(単に指示通りに音を出すような単純なものでなく)音楽を取り扱えるようにする、またその過程を通じて音楽をより深く知ることを目的とした学問です。

音楽の持つ芸術性は勿論否定しませんが、あえてそこに計算機という異質な存在を持ち込み、その困難を乗り越えることで新たな見識を広げようとしています。

音楽情報科学はさらに多くの小分野に細分化することができます。その一例を以下に掲げます。

  • 計算機音楽理論
  • 音楽解析
  • 自動作曲・自動編曲・作曲支援・編曲支援
  • 自動演奏表情付け
  • 演奏音合成・歌声合成
  • 音楽検索・音楽レコメンド
  • 楽器音響学・創作楽器
  • 遠隔セッションシステム
  • 楽器習得支援・演奏支援
  • etc...

音楽理論って何だ?

音楽理論という言葉は、文脈によってその指し示す意味が異なりますが、簡単に言えば「音楽(と人間が感じるもの)が備えているべき特性を体系化してまとめた理論」といえます。

逆に言えば、「音楽理論を満たしている」音列は「人間にとって音楽として知覚される」ということも出来ます。

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音楽理論

一般に、単に「音楽理論」と言った場合はクラシックにおける音楽理論、特に音大等で教育される「17~18世紀頃のドイツで体系化された音楽理論」を指し、つまりは「17~18世紀のドイツにおいて好まれていた音楽」を規定する特性がまとめられたものです。主に以下の4分野の複合体となります。

  • 和声学
  • 対位法
  • 楽典
  • 楽式論

より広い意味合いで使う場合は音楽理論ではなく「音楽学」と言う場合もあります。

この他にも、ジャズ・ポップス音楽を規定する理論として「ジャズ(ポップス)理論」と呼ばれるものもあり、アメリカのバークリー音楽大学でまとめられた「バークリー・メソッド」が有名です。そもそもジャズ自体が、黒人音楽と西洋音楽の融合によって発生し、独自に発達した音楽であるため、この理論はクラシック理論と根は同じでありながらも、まったく違う考え方になっています。

計算機音楽理論(計算論的音楽理論)って何だ?

すでに示したとおり、計算機音楽理論(計算論的音楽理論とも:Computational Music Theory)は、音楽情報科学の一分野です。簡単に言えば計算機音楽理論は、先述の音楽理論を「コンピュータが理解できる形で書き直したもの」と言えます。音楽理論は「理論」と名前がついているとはいえ、実際には過去の作曲家が創作活動を重ねるなかで積み上げられてきた経験則の固まりであり、理工学的な観点から言えば全くと言っても良いくらい体系化されていません。

そこで、音楽理論をコンピュータが理解できる形にまで定量的に、理論的に扱えるようにまとめ直したものが計算機音楽理論というわけです。

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計算機音楽理論(計算論的音楽理論)

計算機音楽理論は、いわば音楽情報科学の中でも基礎部分にあたる分野であり、多くの応用分野の基盤となる理論です。特に自動作曲、自動編曲、作曲支援、編曲支援、自動演奏表情付け、音楽検索、演奏支援等の分野での利用が期待されます。

有名な計算機音楽理論としてGTTM(Generative Theory of Tonal Music)、TPS(Tonal Pitch Space)などが挙げられます。

GTTM

GTTM(Generative Theory of Tonal Music)はFred Lerdahl と Ray Jackendoff によって提唱された理論で、言語学の影響を受けています。与えられた旋律を関連性の深い音同士が束ねられるように木構造化して楽曲を解析します。関係の深い音をまとめていく過程で、楽曲の持つ根幹的な構造を見出そうとする考え方が基礎になっています。

まだ完全に計算機上で動くようになっているわけではありませんが、研究者も多く、自動作曲などに多く応用されています。

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GTTM
TPS

TPS(Tonal Pitch Space)はGTTMを提唱したFred Lerdahlによって提唱された理論です。

GTTMを旋律を解釈していく、すなわち横(時間軸)方向のアプローチとするならば、TPSは和音の進行、すなわち縦方向に積まれた音を解釈するアプローチと言えます。GTTMの下位理論として定義づけられています。

音楽理論の中でも特に和声学の知識に基づき、和音と和音の間に和音間距離という値を定式化することで、自然な和声進行、不自然な和声進行を判別できるようになっています。

詳しくはTPS-ExJ(仮)のページも参照して下さい.


現在ご覧のページの最終更新日時は2015/03/15 01:04:09です。

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