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執事の館帰宅帳

はじめに

この記事は、Twitterでも大変話題になった、「執事の館・名古屋の仮住まい」への帰宅レポートです。

料理の写真など、詳細な内容を含みますので、まだ帰宅したことのない方、ネタばれを嫌う方はご注意ください

帰宅帳 2015年01月25日

いよいよ帰宅

2015年1月某日。ひょんなことから、名古屋駅近辺に知人と外出する用事ができた私は、密かに心を躍らせました。「やっと、『執事の館』に帰宅するチャンスが来た…と。しかし、その予定が確定したのは予定日のわずか数日前のこと、しかも予定日は日曜日。ダメもとで主の手帳を開いてみたところ、驚いたことに、自分たちの予定にぴったりの時間に空きがあるではありませんか!すぐさま予約を入れました。

当日は午前中から18時頃まで用事があったので、19時14分からの時間に予約。用事を済ませたあと、コインロッカーに大荷物を入れて(館に荷物は預けられるけれど、あまりにも大きい荷物だったので)名古屋某所の(主の手帳を持つ人と、その招待を受けた人以外に場所は秘密)館を目指します。

19時過ぎに『執事の館』へ到着。いささか緊張しながら門をくぐると、その先に見える建物の扉はまだ閉じています。歩いて扉に近づくと、タイミングを合わせて、入り口脇の小部屋から家事係の若宮さんがお出迎え。「お帰りなさいませ」という挨拶に「ただいま戻りました」と返答すると「すばらしい挨拶でございます」と褒められました。予定の時間まで少し時間があるので、少しお待ちくださいと、入り口脇の椅子に案内され、しばらくお話し。「呼び方は旦那様とお坊ちゃまのどちらがよろしいですか?」と聞かれ、少し悩んでお坊ちゃまを希望。その他にも細々と話を聞いては、若宮さんは要点を執事の手帳に記していきます。

途中、若宮さんが中座したと思ったら、すぐ裏から鞄を持ってきて扉の脇に立っていました。先に帰宅していたお嬢様方が館を出発するとのこと。若宮さんが待機してから1分と経たない間に、扉の奥から楽しそうなお嬢様方の話し声が聞こえてきました。(さすがの手際の良さが垣間見えました。)お見送りの後、もうしばらく待ちます。待合いスペースは屋外ですが、当日は幸いにしてそれほど寒くなく、また目の前では小さなダルマ石油ストーブがとろとろと足下を暖めていてくれました。

いざ、館の中へ ~ 1st Order

ほどなくして時間になると、若宮さんの誘導で扉の前へ。扉の中では、給仕係の伏見さんがお出迎え。事前に見ていた写真と違い、髭を蓄えていらして、とても素敵なお方でした。ホールの調度品を説明してくれました。玄関ホールにに入ってまず目に付く、大きく美しいシャンデリア。手を伸ばせば触れられる高さに吊されています。本来は天井のもっと高い場所に吊すものですが、間近でデザインを楽しんでもらうため、あえて低く吊しているそう。その奥には立派な飾り棚が置かれていました。これは英国製の手彫り家具とのこと。飾り棚の中央、一番目立つところにはなんと羊のぬいぐるみが。周囲のきらびやかな雰囲気に比べると不思議な取り合わせですが、かわいらしくてこれはこれで遊び心があって素敵な演出です。

ホールを抜けて前室に入ると。介添係の矢田さんがお出迎え。ここで身につけていたコートとマフラーを外し、鞄と共に預けます。携帯電話やデジカメを始めとする電子機器類はここで預けなければなりません。

いよいよ「白の部屋」に案内されます。真っ白の壁紙、カーテン、椅子を基調として、アクセントにパステルカラーがあしらわれた部屋です。6卓あるテーブルでは他のお嬢様方が食事とお話を楽しんでいらっしゃいました。同行人はテーブル奥のソファ席へ、私はテーブル手前の椅子席に着席します。椅子の前に立つと伏見さんがすっと椅子を押し、介助してくれます。ここまでは予想の範囲内でしたが、まさかそれに続いて「椅子の加減はよろしかったでしょうか」という質問まで来るとは思わなかった。

着席してすぐ、伏見さんがウェルカムドリンクとして、水出しのアイスティーと、お茶菓子に小降りのクッキーを持ってきてくれました。そのすぐ後ろを追うように、矢田さんがおしぼりを持ってきたのですが、それを見て伏見さん驚いたようで、思わず『あれ、いつ追い越した?!』と。どうやらおしぼりが先に届いているはずだったらしい。その反応を見て、こちらも思わずくすりと笑ってしまいました。ハーブで香りつけられた暖かいおしぼりで手を清め、アイスティーを手に取ります。色は薄いのに紅茶の香りはしっかり感じられるのがちょっと不思議。氷はなく、ほんのり冷たく感じられる程度に冷やされていたのは、香りを立てるためでしょうか(聞いてみればよかった)。

ウェルカムドリンクをいただいている間に、テーブルの脇にテーブルワゴンが2台並べられます。ワゴンの上には、その日供されている軽食、お菓子がすべて並んでいて、圧巻。

まずはお飲物の注文をということで、執事の手帳を見ながら、伏見さんがドリンクメニューを読み上げてくれます。『すいません、私はメガネをかけないと手帳が読めないもので…』といいながら伏見さんがメガネをかけますが、メガネ姿も素敵。私はハーブティー「代謝の根」を頼みました。今度は伏見さん『メガネを外さないと料理が見えないもので…』と言いながらメガネを外し、お勧めの品の紹介を挟みつつ、すべての料理名を教えてくれます。食べたいものをお好きなだけ、というしくみにはなっていますが、滞在時間を鑑みた目安として、オーダーできるのは3回、1回のオーダーにつき一人5皿が限度であろうとのこと。一つ一つは会席料理のように小皿に盛られていますが、それでも5皿×3回=15皿頼むと、男性でも食べきるのは結構大変とのこと(実際私も、最終的に14皿頼んだが、結構満足な量だった)。私のオーダーは「洋風お雑煮」「牛ほほ肉の赤ワイン煮」「ラザニア」「きのことベーコンのキッシュ」「洋風栗きんとん」の5品。

「代謝の根」はエルダーフラワーやローズマリー、フェンネルなどが入っているということだったので、お花の軽やかな香りがするのかと思ったら、ピリッとスパイシーな香りと味だった。体は温まるし、口の中はさっぱりするし、食前酒ならぬ食前茶としてはこの方が胃にも良さそう。

「洋風お雑煮」は、コンソメスープに、さらに鰹節で出汁をとった和洋折衷のスープで、鴨肉やお餅、野菜を炊いたもの。スープをスプーンですくって口にすると、ベースはコンソメのしっかりした味ながら、鰹節の旨味が感じられてとても味のしっかりしたものでした。おいしいけれど、あくまでも一緒に炊いた具を楽しむソースであって、お澄ましのように飲みきるには少し濃いかなと思いました(私が薄味好きということもあるとは思いますが)。

「牛ほほ肉の赤ワイン煮」は、伏見さんのいうとおり、スプーンを当てるだけですっと皿まで通ってしまうくらい柔らかい。上品に食べても二口ほどで食べ終えてしまう大きさなので、もっと食べたい…とも思いましたが、他の料理がたくさんあるので我慢。

「ラザニア」は、ココット皿にみっしりとラザニア生地と挽き肉、ソース、チーズが詰まっていて、見た印象よりボリュームがあって、男性の目で見ても満足感があります。

「きのことベーコンのキッシュ」も絶品。市販のキッシュだと、たまにタルト生地が分厚すぎて、切りにくい上に口に入れるとモソモソしたりしますが、このキッシュは切り分けたときに崩れない程度の強度は維持できる程度までタルト生地が薄くしてありました。「申しつけの品」でおなじみの大変おいしいベーコンが良い香りと味を出しています。それを包む卵が、あくまでも崩れない程度に、柔らかく、口当たりよく作ってあって、口に運んで噛んだ瞬間にそれらがふわっと崩れて、幸せな気分になります。

「洋風栗きんとん」は、芋栗南京の好きな私には外せないメニューです。ふつうの栗きんとんよりもなめらかな口当たりで、スプーンですくって口に運ぶと、舌に触れた瞬間に溶けて消えていくような気がします。生クリームを入れて練っているのかな?と思いました。

代謝の根
洋風お雑煮 牛ほほ肉のワイン煮
ラザニア きのことベーコンのキッシュ 洋風栗きんとん

料理を運んで来るときや、時々様子をうかがいに来るとき、伏見さんは色々お話をしてくれます。ただついつい、お話に聞き入って食事の手が止まってしまうので、伏見さんはかえって恐縮してテーブルに足を運ぶのを控えめにしてしまった様子。申し訳ない。

2nd Order

2回目のオーダーは、「フォアグラのフラン」「スイートポテト」「ゴールデンキウイのフルーツタルト」「ゴルゴンゾーラのレアチーズケーキ」。

本当は先の洋風栗きんとんからデザートの部に突入しようかと思っていたのですが、は最初のオーダーで同行人が頼んでいたのがおいしそうだったので注文した「フォアグラのフラン」。コクがある(でもくどくない)茶碗蒸しのような、パテのような。それほど大きくないのですが、スプーンで口に運ぶ度に旨味を主張してきます。

「スイートポテト」はその見た目から、通称「卵焼き」と言われている有名な一品なので、芋栗南京好きとしては外せない一品。市販品だと口の中がべたついたり、逆に水分が足りなくてモゴモゴするものもありますが、これはしっとりとしていて、すっとのどに落ちていきます。それにしても噂通り、大根おろしを乗せたら騙されてしまいそうな見た目です。

「ゴールデンキウイのフルーツタルト」は、見た目が非常に鮮やかで目を引きます。若いキウイにあるようなピリピリするような酸味やえぐみ、渋みは一切感じられず、こんなに甘いキウイは食べたことがない、と思いました。同行人いわく、キウイは水分が多くてお菓子に使うのが難しいとのこと。さすがの技なのでしょう。

「ゴルゴンゾーラのレアチーズケーキ」はオーダー前に『少しでもチーズが苦手な方は控えておいた方が良いでしょう』と言われていました。ゴルゴンゾーラには青かびが入っており、チーズが好きな人でも好き嫌いが分かれるチーズですから、納得の注意です。かく言う私もチーズは好きですが、ゴルゴンゾーラばかり大量に持ってこられるとさすがに閉口するタイプです。その代わり、チーズが好きな人はどっぷりハマるとか。届いたケーキは一見すると真っ白でゴルゴンゾーラの存在が感じられません。スプーンを入れると中からたっぷりのベリーソースがこぼれ落ちます。そのソースごと思い切って口に運ぶと、ベリーとレアチーズケーキの甘酸っぱさの中に、時折独特な青かびの香りが混じります。最初は青かびとベリーの香り、まったく質の違う香りのように思うのですが、不思議なことにゴルゴンゾーラの香りが入ることで、ベリーの香りと味がぐっと濃厚に感じられます。これはおいしい。

フォアグラのフラン スイートポテト
ゴールデンキウイのフルーツタルト ゴルゴンゾーラのレアチーズケーキ

二回目のオーダーを頂いている途中、カップの中が空になったことに気づいた伏見さんが、飲み物のオーダーを促してくれました。コーヒーも紅茶も好きな私ですが、ここはぜひとも紅茶を頂かねばと思い、ホットの紅茶を頂くことに。伏見さんから「銘柄は何に致しますか?」と尋ねられました。説明を聞かずとも、主要な銘柄は揃っていることは知っていましたので、しばらく悩んで、ラプサンスーチョンをお願いしました。紅茶にこだわりのあるお店でも、ラプサンスーチョンを置いている所は少ないのです。

ラプサンスーチョン

ラプサンスーチョンは紅茶の葉を松のチップで薫製にした中国発祥の紅茶で、もっとも古い歴史を持つフレーバーティーと言われます。もっとも名のしれたフレーバーティーであるアールグレイ(紅茶にベルガモットという柑橘類の香りを付したもの)も、このラプサンスーチョンがあってこそ生まれたという一品(この歴史は伏見さんに教えてもらいました)。ただラプサンスーチョンはその一番の特徴である薫製香(日本人なら誰でも知っている「正露丸」を思い起こす香りです)がとても強いために、かえって好き嫌いがはっきり分かれます。私が以前頼んだお店ではオーダー時に「香りが独特で強烈ですが、大丈夫ですか?」と確認されましたし、この日伏見さんにも「これはまた珍しいものを…!」と驚かれました。

3rd Order

せっかく温かい紅茶が届いたので、3回目のオーダーでは「スコーン」を頼まないわけにいきません。スコーンは数をいくつでも頂けると言うことで、欲張って2つ(といっても、マカロンくらいの小振りなスコーンです)頼み、ブルーベリージャムを添えてもらいます。そして、同行人が先に頼んでいて気になっていた「いちごの大あん巻き」と「ほうじ茶のシフォンケーキ」を注文。

「あん巻き」は愛知発祥の和菓子で、薄く焼いたどらやきのような生地で小豆あんをくるんだもの。「いちごの大あん巻き」はその名の通り、大粒のイチゴがあんと一緒に、ごく薄い生地の中にくるまれています。そしてイチゴと共に巻かれた小豆あんにはどうやらクリームを合わせて練ってあるようで、口に入れた瞬間に溶けてなくなってしまいました。粒あんのはずなのに、皮の1枚すら残らず溶けてしまった…!『これ一本丸かじりしたい』というお嬢様がいるのも納得できます。

「ほうじ茶のシフォンケーキ」は深い茶色のシフォンケーキにホイップクリームが添えられていて、見た目こそあまり華やかではないが、口に入れるとしっとりしたシフォンからしっかりとほうじ茶の香りがする。オーダー時カットの大きさを尋ねられた際に「ご希望とあればホールでお持ちしますが」という伏見さんの冗談があったが、この味と食感なら、ホールで食べられるかもしれない。(さすがにこれだけ食べた後では無理ですけども…)

スコーン いちごの大あん巻き
ほうじ茶のシフォンケーキ ゴルゴンゾーラのレアチーズケーキ

そして肝心の「スコーン」。持ってきて頂いたときに、伏見さんから一通りアドバイスを頂きました。

スコーンは元々「クロテッドクリーム(牛乳の乳脂肪分を抽出したクリームで、ちょうど生クリームとバターの中間に位置します)」をおいしく食べるために作られたお菓子なので、クロテッドクリームを乗せる量に遠慮はいらないとのこと。スコーンは側面に割れ目が入っているので、スコーンの上下を左右の手で持って、瓶のふたを開けるように左右逆にひねると、簡単に分割できます。分割した後、好きな方を手にとり、割れ目にジャムをたっぷりつける。その上に、クロテッドクリームをたっぷりとつける。ジャムやクリームが足りなくなるなんて心配は無用。館ではジャムやクロテッドクリームのお代わりという贅沢がもちろん許される。それを口に入れてから、すかさず温かい紅茶を口に入れると、紅茶の熱でクロテッドクリームが溶けて、ミルクの香りが口の中いっぱいに広がります。至福の時。

伏見さん直伝の方法でスコーンを楽しんでいると、伏見さんがやってきました。「この食べ方、お気に召しましたか?」と聞かれて「もちろんです」と即答。伏見さんには料理の話だけでなく、テーブルマナーについても教わりました。「名古屋の仮住まいに初めて帰宅する人は、皆さん緊張していらっしゃいますが、ここでは失敗しても大丈夫。むしろここで正しい作法を身につけて、いざ必要な時に備えて頂きたい」とのことでした。今回学んだのはナプキンの扱いについて。二つ折りにして、輪を手前にして食事中膝に置き(ただし仮住まいでは小さなティーナプキンなので折り畳まない)、折り返したナプキンの内側を使って口を拭う…という程度は知っていましたが、さらに私の知らない作法やその理由も教わりました。ナプキンは席に案内されたときにはテーブルの上にきちんと畳まれて置かれていますが、これをすぐに広げるのはNG。なぜなら「何でも良いから早く料理を持ってこい」という意味になってしまためという。正しくはそのままにしておいて、最初の料理が運ばれてきたときに初めて膝に広げるのが良いとのこと。そしてナプキンは食事中ずっと膝の上に広げておき、必要に応じて二つ折りのナプキンの端を持ち上げて、内側で口を拭う。これを元通りに戻すと、表から汚れは見えず、また汚れが内側に来るので服も汚さない。また、中座するときは膝からナプキンをつまみ上げて、そのまま座席の上にそっと置く。また、最終的に席を立つ時には、膝から取り上げたナプキンをそのまま丸めるようにして机の上に置く。特に女性で丸めて置くことに抵抗がある場合は、あくまでも「ラフに」畳んでテーブルに置く。きっちり畳んで離席すると、「お代も払いたくない」という意思表示になるということです。

出発の時

さて、本当に名残惜しいのですが、90分経つと別宅へ帰宅する時間となってしまいます。「そろそろ出発のお時間が近づいております」と伏見さんに告げられたときは、名残惜しい気がしました。

出発の前に…ということでテーブルのベルを鳴らして伏見さんに来ていただき、お手洗いをお借りしたいと同行人(女性です)が言うと、「かしこまりました。矢田を呼びましょうか?」と。これもなかなかお目にかからない配慮だなと思いました。「いえ、(伏見さんで)大丈夫です」と伝えると、伏見さんの先導でお手洗いへ向かっていきました。続いて私も借りようと思って待っていると、案内を終えた伏見さんが戻ってきて「お坊ちゃまもお行きになりますか?」と。ありがたくお願いして、椅子を引いてもらい、早速先ほどの学んだ知識を使って立ち上がってから膝の上のナプキンを椅子の上に置くと、「すばらしい!」とほめられました。

案内されたお手洗い(男性用)は、蓋の開閉まで全自動で行う最新型でした。とてもきれいに掃除されています。洗面台はお手洗いの中にはなく、廊下にあります。洗面台も鏡もきれいに磨かれているのはもちろんのこと、感動したのは洗った手を拭くためのタオル。もちろんペーパータオルなどという安っぽい物が置かれているはずもなく、洗面台の脇にはきれいに畳まれたふかふかのタオルハンカチが、ピラミッドのように整然と積まれています。それをてっぺんから一枚とって手を拭き、使い終わったら足下のカゴに。これはとても気分が良い。地味ですが、毎日洗濯して乾燥して畳んで、きっちり積まれた状態を維持するのはなかなか手間がかかることでしょう。

お手洗いから席にもどって一息ついたところで、伏見さんがやってきて「出発のお時間です」と。今度はナプキンを机の上に置いて、廊下を逆の方向に進み、玄関へ向かいます。前室では矢田さんが、預けて置いた荷物とコートを出してお出迎え。マフラーを受け取り、コートを羽織るのを手伝ってもらいます。姿見を開いてくれたので、鏡の前に立ちます。「お坊ちゃまの身長では見えないかもしれませんね」と伏見さんに言われ、実際確かにちょっと低かったのですが、「私がかがめば大丈夫ですよ」と言って、ありがたく鏡をチェック。そして鞄を受け取ったところで、伏見さんがくすっと笑ったのです。何かと思いきや、「今、お坊ちゃまのマフラーを直そうとしてあきらめたでしょう」と言うのです。振り返ると私の後ろに立っていた矢田さんが「いえ、私はただお坊ちゃまが、マフラーを(コートの)中に入れるのか外に入れるのか、どちらがお好みか考えていただけで…」と言ったのですが、その直後、「もう、伏見さんったら変な所ばかり見ないでください!」と。本当に恥ずかしがっているようで、4人で出発前に一笑いできました。

玄関ホールに行く直前、伏見さんが「今日の帰宅は楽しんでいただけましたか?」と言うので、「楽しかったです!」と即答すると、良かった…と、心底ほっとした様子の伏見さん。なんでもたまに「(楽しんで頂けましたか?の質問に対して)おいしかったです!」と即答するお嬢様、お坊ちゃまがいるらしく、そう言われると((シェフの)錦に負けた…!!)という気持ちになるんだそう。もちろん私たちも、「美味しかったですか?」と聞かれれば「おいしかったです!」と即答する自信がありますので、この勝負は両成敗ですね。

また帰りますと言い残して玄関を後にすると、門の外で若宮さんが待機。「若、こちらを懐にいれて温めて置きました!」といって胸ポケットから取り出したのは、2つのホッカイロでした。もちろん、織田信長の草履取りとして、草履を温めておく配慮をしたと言われる豊臣秀吉のパロディですね。歴史の苦手な私でも知っている逸話ですが、まさかこう使われるとは思わなかった。2ブロックほど歩くまで、ずっと門前で頭を下げていてくれる若宮さんに後ろ髪引かれながら、我々は別宅へ向かうため、名古屋駅へと移動することに相成ったのです。


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