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home-made acoustic volumeter

自作「音響式体積計」の提案

背景

2010年に電気通信大学において行われた、日本音響学会 春の研究発表会 において、リオン社製の音響式容積計・体積計(以下体積計)に触れる機会があった。

体積計の詳しい原理解説は[1]に詳しい。もちろん測定器として非常に需要が高く、また興味深いものであるが、音響の実験としても非常に面白いものではないか、と直感した。 機械的な構造も計測方法も(当然ながら精度を度外視すれば)比較的簡単で、これならば自作が可能なのでは…?と思い至ったので、以下に提案する。(残念ながら、今のところ私自身の手で実際に制作してみる余力はない。)

設計・制作

測定回路の設計

スライド1.PNG
体積計の模式図

図は可能な限り単純化した体積計の模式図であり、密封された2つの空間の間にスピーカーを配置した構造をしている。スピーカーを正弦波駆動した時の、上下2つの空間に生じる音圧変化-ΔP1とΔP2*1をマイクロホンを用いて計測し、音圧比を算出する。実際にはマイクロホンは大気圧に対する音圧変化を電圧E1,E2に置き換えて出力するから、その比を求めればよい。この時、下空間の容積は、上空間の正確な容積を既知としたとき、音圧比から求めることができる。

下空間の容積が未知の場合は下空間の容積が計算によって求まるので「容積計」として機能する。また、下空間を容積既知の容器としておき、非測定物をその中に入れた状態で計測すると、既知の下空間容積と実測された下空間容積の差をとることで、非測定物の体積を計測する「体積計」として機能する。

スライド2.PNG 容積計として用いる場合
スライド3.PNG 体積計として用いる場合

さて、音圧測定については市販のコンデンサマイクロホンユニットで測定可能であろう。 音圧比がわかれば良いわけだから、2つのマイクロホンの感度特性が同じであれば、実際の音圧とマイクロホンが出力する電圧の関係は未知でも構わないはずである。2つのマイクロホンをそれぞれ動作状態で近接させて、両方のマイクが同じような電圧を出力するかどうかを確かめておけば、(また、必要に応じて同じ電圧を出力するようにアンプのゲインを微調整すれば)実験用のマイク校正としては十分ではないか、と思う。 どうしても、実際の音圧との対応を取りたい場合は、同時に騒音計で騒音レベルを測定すると換算可能(のはず)。

スライド4.PNG
マイクの校正

スピーカーやそれを駆動するアンプ回路は、測定に用いる周波数において、安定した音圧を供給できれば良い。 正弦波音源は実験室に所蔵している低周波発振器で十分だろう。

マイクロホンの駆動回路はデータシートを元に自作し、出力電圧比の計測はコンピュータ等を用いてデジタル化しても良いし、電圧計を並べて値を読み取って計測することも可能。(追記:良く考えたら、目視で値を読み取れるほどの、あるいは計器誤差を越えて検知できるほどの電圧差が発生するのか?という疑問がある。差が微小な場合は差動増幅回路が必要かもしれない。)

筺体の制作

筺体の制作には厄介な点がいくつか考えられる。

  • 容器内の音圧変化を安定させるためと、圧力変動に伴う空気の温度変化を伝えない(断熱変化)ため、容器はかなり頑丈にできている必要がある。実際の体積計は分厚い金属でできている。
  • 空気の逃げ道があると正しい圧力変動が起きないので、わずかな隙間も許されない。ケーブルの取り出し口などは密封し、上容器と下容器の結合部にはパッキンなどの工夫が必要になる。

この条件を満たすために、筺体はおそらくかなり太い(例えばφ=200mm)金属丸棒を旋盤などで加工することになるのではないだろうか。(市販のパイプではおそらく肉厚が薄い)容積計ではなく体積計を作るとすれば、上容器と下容器の結合部はねじ結合するようにすると、手軽に十分な密閉性が保てるのではないかと思う。マイク・スピーカーは筺体に必要なサイズの穴をあけて装填し、周囲をホットボンドなどで固め、隙間ができないようにする。

提案設計図…が描けたらいいんですが、とりあえず保留。

既知であるべき容積の測定

筺体が制作できたとしても、まだ大きな問題が残っている。既知であるべき容積、すなわちV1,V2(体積計の場合)をどのように知るかが問題となる。 一番良いのは、このV1,V2自体を容積計で計測することであるが、これはまず不可能でであろう。下容器に関しては水を一杯に入れて質量を測ることである程度容積を実測することが可能だが、上容器はマイクやスピーカーがあるため、水を入れることはできない。

ここは潔く、今作ろうとしているのはあくまでも「実験用」であって「計測用」ではないということで、設計図や実測値から計算して容積を求めて良いと思われる。もちろん、できるだけ良い結果を得るためにも、筺体加工の際、容器内側の加工はできるだけ工作精度に気を配って作り、綿密な寸法計測を行いたい。

参考資料

[1]小林理研ニュース 音響式体積計
http://www.kobayasi-riken.or.jp/news/No56/56_1.htm
リオン社の母体である小林理研によるかなり読みやすい解説。
[2]リオン株式会社 - 音響・振動計測器
http://www.rion.co.jp/asp/product/sound/ProC.asp?pos=C9&no=10&div=0
リオン社が市販する音響式容積計・体積計

*1符号が異なるのは圧力変化が常に逆相(下空間が圧縮されれば上空間は膨張し、逆もまたしかり)であるため。


現在ご覧のページの最終更新日時は2015/03/15 01:06:44です。

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