N.Y.Cityのまちかど

Where will film camera go to?

「カメラ業界の行く末やいかに。」

2006/01/20 執筆

カメラ・オブスキュラの時代から続くこと数百年。 写真にまつわる技術は進歩の一途をたどってきた。 ニエプスはアスファルトに像を焼き付けることに成功し、それが改良されて ガラス湿板、ガラス乾板、セルロイドフィルム、カラーフィルム、と フィルムもまた進歩の一途をたどり、写真は記録の道具としてだけでなく それ単体で芸術となるまでに高められた。

ディジタルカメラの勃興もまた、そのようなカメラの歴史の一つなのかもしれないが、 ただ一つ私が危惧するのは、この「ディジタルカメラ」は旧来の写真という概念や歴史を ことごとく食いつぶしている事である。

ディジタルカメラ全盛期となってしまった今、その波に出遅れたメーカーは どんどん勢力を落としてしまっている。 代わって今までカメラとはほとんどなんの 縁もなかったメーカーがディジタルカメラ業界に参入している。

高級なカメラというと、Leica、カメラで有名な国といえばドイツと答える人が 世の中(カメラに詳しくない人)の大半だと思う。 しかし、その認識はいささか古い物になっている。 確かにLeicaはすばらしいカメラで、 軍用に用いられたのもうなずける頑丈な作りと、精緻な作り。にもかかわらず フォルムは美しく、デザインに気品があふれている。機能面でも、やはりレンズや ファインダーに定評があり、レンズが優れていれば当然描写力も優れる。

ちょっと知っている人であれば、2眼レフの大御所として、Rolleiをあげるかもしれない。 Rolleiもまた、ドイツのメーカーであり、Rolleifrexは2眼レフの人気機種になっている。

日本のカメラメーカーはこぞってドイツカメラのまねをして国産カメラの技術を高めていった。 従って、ドイツのカメラに関する技術は高い。しかしながら、近年ではカメラのレンズは プラスチックレンズが主流となっている。 マイスター制度のあるドイツでは、 高いクオリティの商品を、手作業ででも少しづつじっくり作っていく気風があるが、 日本は高度経済成長に伴って、商品は大量生産するものという気風が強くなっている。 加工しにくく、デリケートなガラスレンズは大量生産に不向きであったが、 プラスチックの性能が向上し、加工しやすく、全自動化しやすいプラスチックレンズが できると、カメラも量産できるものとして作られるようになった。そしてそこには、 ドイツカメラから培った技術があったため、日本はのカメラメーカーは一気に 力をつけた。 性能のいいカメラを、大量に、安く、安定して供給するという点で見れば、 日本のカメラメーカーはすでに確固たる地位を獲得している。こと、プラスチックレンズの クォリティには定評がある。日本のカメラメーカーは独自のノウハウに基づき、 極めて個性的なカメラを自社の力でどんどん開発するに至った。

また、大手メーカーでありながら頑なにドイツの技術を受け継ぎ、ドイツカメラの雰囲気を 残したカメラを作っていたメーカーがあるのをご存じだろうか。 意外に思うかもしれないが、"京セラ"である。 京セラの発売していたCONTAXシリーズは、ドイツのCarl Zeiss社の確固たるレンズ設計技術と 国産メーカーの持つボディ設計の技術をあわせた、極めてクォリティの高いカメラを 数多く発売している。 カラーフィルムを入れると、驚くほどくっきりとした発色を してくれるのは、驚嘆に値する。レンズの性能で、ここまで描写はかわるものかと 思い知らされる。 そんなすばらしい技術を詰め込まれたカメラだ。

しかし、そのCONTAXシリーズも、今はすでに生産されていない。 デジタルカメラ全盛の 昨今、その波に乗れなかった京セラは2005年4月、CONTAX事業の撤退を発表し、 30年間の歴史に幕を閉じた。 LeicaやRolleiが未だに生き残り、愛されている事を 考えると、CONTAXの歴史はあまりにも短い。

国産メーカーとして名高いNikonも、ディジタルカメラブームの煽りを受けた。 2006年1月、Nikonは銀塩カメラ事業の大幅縮小を発表。カメラだけでなくそれに 付随するカメラ用レンズ、大判カメラ用レンズ、引き延ばし用レンズなどの生産は 中止され、あまりにも突然かつ、あまりにも大きな規模縮小に、私は愕然とした。 戦慄したと言っても良いかもしれない。

この他、コニカ・ミノルタは驚いたことにディジタルカメラも含めてカメラ&フォト事業から 完全撤退を発表した。 システマチックな国産1眼レフとして有名だったOLYMPASのOMシリーズも生産終了。 タムロンは中判カメラで定評のあったブロニカ事業から撤退。 ....長い間培われてきたカメラの技術が今急速になくなりつつある。

国産カメラの技術を礎にしたはずのディジタルカメラが、自らその礎を食いつぶそうとしている。 国産カメラの技術を礎にしたものであるはずなのに、今までカメラ事業にまったく手を 出していなかった電機メーカーが、ディジタルカメラ事業で次々と成功している。 当然、そこにあるのは単なる電気機器でしかなく、カメラとして精錬された、見えざる技術は かけらもない。 これはかなり異常な事態ではなかろうか。

フィルム業界もしかりだ。 世界ではじめてパーフォレーション(フィルムの上下にある四角い穴)付きの セルロイドフィルムを発表したKodak社ですら、フィルム事業から撤退するのでは というユーザーの不安に対し、事業継続を改めて表明しなければならないほど、 写真業界の不安は大きい。もしかしたら白黒フィルムの定番であるTri-Xもなくなり、 同じく白黒フィルムの現像液として定番だったD-76もなくなるという考えるだに 寂しい結末も想像しうるのだ。 国産フィルムのコニカ(現コニカミノルタ)も、フィルム生産を止めた。 現在、国内のフィルム、印画紙、処理薬品分野は、ほぼ富士フイルムの独壇場となっている。

名刺サイズのカメラ?くそくらえである。 ディジタルカメラの技術進歩により、ここまで小さくすることが出来ましたなどと うたっている広告を見るたび、腹立たしさがこみ上げてくる。 ショートタイプのタバコケースに収まるフィルムカメラがあることを知らないのだろうか。 懐中時計サイズのフィルムカメラがあることを知らないのだろうか。 親指サイズの一眼レフカメラが作られていたことを知らないのだろうか。 それらはみな、スパイカメラと呼ばれる偵察用のカメラであったり、趣味として楽しむための カメラである。 そんな小さいカメラを使って、まともに構図を決めて、まともに写真を 楽しめるものではない。 手ぶれ補正機構がついた、と宣伝するカメラもあるが、 そんなものは、手ぶれの影響が大きい超望遠レンズにはとうの昔についている。 スタビライザーと呼ばれるその機構は、1000mmというスポーツ写真に使うような超望遠レンズでも 手持ちでほぼ問題ないくらいにまで手ぶれを落ち着けてくれる。

ディジタルカメラの撮像素子であるCMOSのは、画質こそ昔より格段に向上しているものの、 その感度はフィルムに比べてまだまだ低い。 ということは、同じシーンを撮るのに ディジタルカメラのほうがより長いシャッタースピードを設定しなくてはならないということだ。 従って、手ぶれの危険も大きい。 ならばなおのこと、カメラの設計はちょっと大きめに、 ちょっと厚みをもたせ、手になじむようなグリップをつけ、腋をしめてしっかりと ホールディング出来るような設計にしなくてはならないのに。 ディジタルカメラは小さいことはいいことだと言わんばかりにコンパクトに作られ、 しかもファインダーがついていないと、腋をしめることすら許されないのだ。

ディジタルカメラが最高だとおもっているあなた。 一度シベリアに行ってみてください。 シベリアの夜景を撮って、ぜひ私に見せてください。 おそらく、まともな写真は撮れないでしょう。 寒冷地では電池の持ちが非常に悪くなる上、 電子回路の働きもおかしくなることが多い。 では、電池を使わない、まったくのアナログカメラを持って行くとどうなるか。 適切な露出設定さえできれば、あとは機械的に凍り付いたりしない限り、 写真はちゃんと撮れるのである。

私はディジタルカメラが嫌いだと言うと、友人のほとんどは私を「アナクロ」な頑固じじい とでも言わんばかりの反応を返してくる。 しかし、私の考えの本質はそうでない。 ディジタルカメラとアナログカメラは本来平行して存在すべきものであり、 アナログカメラの培った技術が衰退してしまうことを憂いているだけである。 私が、これなら使っていいかもと思ったディジタルカメラは二つある。 これはつまり、きちんとアナログカメラの技術が継承され、カメラとして使いやすい 作りをしていたカメラだ。それは「Nikon D100」と、「コニカミノルタ α-7Digital」。 後者はもうなくなってしまうことが決定したし、Nikonもアナログカメラ事業から撤退 した以上、これ以上「カメラとしての成長」を続けてくれるかどうかは 微妙なところである。

アナログカメラという教師があって初めて、ディジタルカメラという生徒は 成長するはずであるのに、生徒が教師を排斥しては、本末転倒もいいところなのだ。 今一度、カメラ業界の行く末はどうなるのか、今一度、問いたい。


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