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Notice_for_Graduation_thesis

卒業論文に関する注意

以前、So Takamotoさんのツイート(https://twitter.com/tkmtSo/status/1167415883204943873)にあった、「卒業論文に関する注意」が大変良い内容だったので、紹介します。

東京大学工学部で明治時代に掲示されていた注意書きのようです。

原文書き起こし

卒業論文に關する注意

 工學部が學生に卒業論文を提出せしむる趣旨は、各學生自らが撰擇せる事項に就き、
各自に廣く参考書及び雑誌類を熟讀するの機會を興へ、以て現今世界に於ける知識の程
度を自覚せしむるに在り、故に卒業論文の内容は必ずしも自己の創意若くは研究に成る
獨創的のものたるを要せず。
 各種の参考書及び雑誌類に就き取調べを了へし後、尚ほ時間の餘裕ありて、未だ他人
が爲さゞる研究若くは實験を行ひ之を提出する事は誠に喜ぶべき次第なり。然れども其
事項に關し、世の進歩の現状を取調べずして、始めより獨創的の研究又は實験を行はん
とするは、最も忌むべき事にして、世の無學なる發明家等に往々見るの弊害なり。
 工學部は、學生に参考書又は雑誌類を読み得べき學力を興へ、且つ將來の研究と實驗
とに必要な素養を授くる所なり。故に學生は其卒業論文の起草に當り前述の如く自ら
各種の參考書を涉獵し、其取調べの事項に關し現今世界に於ける知識の程度を自ら調査
すべきなり。始めより何等の取調べを爲さずして、全然教員に依頼し其示のみに基き、
之を知らんと欲するが如きは大なる誤りなり。卒業論文に關し教員は必要と認むる事柄
の外はこれを示せざるべし、これ學生の取調べの方法を自覚しめんと欲するが故なり。
 學生は博く知識を世界に求むるの趣旨を體し、先づ参考書、雑誌類、又は修學旅行中
實地見學せる事柄等に就き卒業論文に關する調査を取纏め、自己の意見を附して提出す
るを要旨とすべし。而して此調査の取纏めには相當の時日を要することを知らざるべか
らず。
 更に進んで、獨創の研究又は實験を行はんとするものは、其際教員に自己の調査せる
程度及び以後の方針を述べ其承諾を受くべし。又た研究若くは實験の爲め費用を要する
場合には其支出に關し教員と協議すべし
 論文中参考書又は雑誌類より轉録せる部分は其書名、著者。發行の月日及びページを
明記し自己の意見と見易く區別すべし。實地見學により得し事項は其場所、年月、狀況
等を記入するを要す。其出所不明なる記事は價値尠なきものなり。
 教員に指導を受けし部分は其教員の氏名と共に指導を受けし範圍を明記するを要す。
 論文は必ず二月十五日までに提出すべし。期日に至るも尚ほ之を提出せざる時は論文
無きものと認めらるゝ事あるべし。期日を前の如く制限せる理由は教員が學生の論文を
審査するには相當の時日を要するものにして、若し時日無きときは其審査は自然粗洩に
了るべきが故なり。

現代語訳

卒業論文に関する注意

 工学部が学生に卒業論文を提出させる趣旨は、各学生自らが選択した事項について
各自が広く参考書や雑誌類を熟読する機会を作り、それによって現在世界における
知識の程度を自覚してもらうことにある。従って卒業論文の内容は必ずしも自ら
作ったものであったり、独創的な研究である事を必要としない。
 各種の参考書及び雑誌類を調べた後、さらに時間の余裕があって、他人がまだ
行った事のない研究や実験を行って提出することは誠に喜ばしい事です。しかし
その事項について世の進歩の現状を調べず、最初から独創的研究または実験を行おうと
することは最も避けねばならぬことであり、世の無学な発明家などにしばしばみられる害です。
 工学部は、学生に参考書または雑誌類を読み解く学力を育て、かつ将来の研究と実験
とに必要な素養を授けるところです。従って学生はその卒業論文を書くにあたり、前述のように
自ら各種の参考書を調べつくし、その事項に関して現在世界における知識の程度を自ら
調査するべきです。最初から何も調べずに、教員に頼み指示をもらって教わろうと
することは大きな誤りです。卒業論文に関して教員は必要と認める事の他は示しません。
これは学生に、調査の方法を自ら学んでもらいたいためです。
 学生は世界に広く目を向けて知識を集める事を知り、まず参考書、雑誌類又は修学旅行 *1
中に実地見学した事などについて卒業論文に関する調査をとりまとめ、自分の意見をつけて
提出することを基礎とするべきです。そしてこの調査のとりまとめには相当の時間が必要で
あることを知っておいて下さい。
 さらに進んで、独創的な研究または実験を行おうとする人は、教員に自分がどこまで調査
したかと、これからの方針を伝えて承諾を受けて下さい。研究もしくは実験のために費用が
必要な場合は、その支出について教員と協議して下さい。
 論文の中で参考書や雑誌類から引用する部分はその署名、著者、発行月日及びページを
明記して、自分の意見と明確に区別すべきです。実地見学により知った事項はその場所、年月、
状況などを記入する必要があります。出所の不明な記事は価値のないものです。
 教員に指導を受けた部分は、その教員の氏名と共に、指導を受けた範囲を明記して下さい。
 論文は必ず2月15日までに提出してください。期日になっても提出されない時は、論文が
無いと判断されることがあります。このように期日を制限する理由は、教員が学生の論文を
審査するために相当な時間が必要なものであって、(審査の)時間がなければ、雑な審査に
なってしまうためです。

*1訳注:ここでいう修学旅行とは、現地に赴いて調査見学するという意味


現在ご覧のページの最終更新日時は2023/10/24 15:58:39です。

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