N.Y.Cityのまちかど

Is Miku a professional singer?

「初音ミク」はプロ歌手か?

注:この記事は暫定版です。

  今後加筆修正される可能性があります。

2009年3月8日と12日にかけて、

さっきamazonのCDランキングを見たが、本当に唖然とした
http://anond.hatelabo.jp/20090308152436
お詫びしたい
http://anond.hatelabo.jp/20090312233645

という記事が話題になりました。

音楽情報を学ぶものとして、また一初音ミクファンとして、また、ベーシストである父親の姿を通して、常々プロフェッショナルという存在について考えていた人間として、とても興味深い内容でしたので、自分なりの見解を述べたいと思います。この記事を書いた方の名前がありませんので、以下執筆者で統一します。

この記事の骨子は

  • ニコ二コ動画にアップされた初音ミクの楽曲が商業CDとしてリリースされ、しかもそのCDをこぞって買い求める状況が理解できない
  • 初音ミクそのものは否定しない、それを使った楽曲がニコニコ動画で公開されて楽しまれるのも理解する。しかし安易に商業ベースで展開するようなものではない

ということだと思います。

執筆者の意図を尊重するためにも、細かい内容、ニュアンスはぜひ原文を読んでいただきたいと思います。

以下、原文を一部引用しながら、私の感想と意見をまとめます。

シンセ音楽の是非、ニコニコ動画の是非

俺は、シンセ等機械のみで構成されている音楽を否定するものでは全くない。むしろ好きと言っても良い。
そして、初音ミクを使って音楽を作り、ニコニコ動画などで発表することも、全く悪いことではないと思っている。アマチュアの方で、かつボーカルが見つからない人が曲を発表するのには最適な場所だろう。

執筆者はシンセミュージックや初音ミク、そしてニコニコ動画をメディアとしてアマチュアが作品を発表することについては肯定していることがわかります。

趣味の如何はあるとは思いますが、概ね私も同意します。

音楽の評価

では俺が何を問題にしているかと言うと、音楽そのもの以外の部分で初音ミクのCDを売ろうとしている(と俺が感じた)こと、そして実際に売れてしまっていることだ。
まず、自分の根本的な考え方として、CDは、そこに入っている音のみで評価されて売れるべきものだと思っている。つまり、楽曲、歌唱、演奏などだ。そしてその楽曲を良くしよう、歌唱力を高めようとして毎日頑張っているアーティストは言うまでもなく沢山存在する。
それなのに最近は何か変なブームが多い。羞恥心とか、おしりかじりとか、ポニョとか、そんなのばかりが注目される。まさか音楽性や歌唱力で売れたとは考えられない。正直腹が立っていた。

音楽が芸術としてある以上、そのクオリティのみを基準として評価されるべきという考えはよくわかります。私もどちらかと言うと最近の音楽は質が良くないと思う方です。しかしそれはあくまでも私の趣味に合わないだけであって、その価値観を他人に押し付けるのは傲慢にすぎます。また、クラシック音楽など、一般にハイソサエティな印象を持たれている音楽ならともかく、商売として成立しているJ-POPでは、クオリティを追及するだけでは不十分です。

商業ベースでCDが流通している以上、製作側は売れるCDを作らなくてはならない。製作スタッフはボランティアではありません。どれほど心血を注いで作ったとしても売れなければ誰も幸せにはなれないという現実があります。

芸術性を追求するのがプロフェッショナルならば、市場のニーズを感じ、より売れる商品を作るのもまたプロフェッショナルです。自らの目指す芸術性と市場が欲する芸術性が一致すれば幸せですが、実際にはむしろそうならないことの方が多いかもしれません。

売れれば中身はどうでも良いと考えてしまっている制作者もいるかもしれません。それは非常に残念なことですが、現実には芸術性と商業性のジレンマに挟まれている制作者が多くいる事を理解していただきたいと思います。

良い音楽と良いボーカルとは

ネットでの評判を見ると、楽曲が良いから買っているという人もいたが、そんなに楽曲が良いなら、良いボーカルを合わせれば、もっと良い音楽に仕上がるはずだ。あの声が音楽性を高めているとは、申し訳ないが俺にはどうしても思えない。
そしてアマチュアならともかく、メジャーレーベルと契約している時点で、歌い手が見つからないという状況は、俺には想像できない。

一転して、この2つの記述に私は大いに反論します。

良い楽曲とは何か、そして良いボーカルとは何か。残念ながら、両者を客観的に評価する尺度はありませんし、そもそも統一尺度で評価できるものではない。

良い楽曲には良いボーカルを合わせればもっと良い音楽に仕上がるという発想は非常に乱暴な論理展開と言わざるを得ません。楽曲には楽曲の個性があり、ボーカルにはボーカルの個性があります。両者を組み合わせた作品の評価は、楽曲の評価とボーカルの評価の足し算には絶対になりません。

1人のボーカルに複数の楽曲が用意されたらそれぞれが異なる作品と言われるのはあたりまえですが、1つの楽曲に複数のボーカルが用意された時もまたそれぞれが異なる作品なのです。それぞれの感性や解釈が織り交ぜられたそれぞれの作品を、良い-悪いという尺度で安易に評価するのは、ボーカルの人にとってとても失礼な態度だと思います。

メジャーレーベルと契約した時点で歌い手が見つからないという状況が想像できないという指摘に関しては、「むしろそのほうが自然です」と答えます。

理由は主に2つあります。1つ目は「制作者は、初音ミクのために作られ、初音ミクが歌っている曲に価値があると判断している」こと。そこに音楽的な価値を見いだしているのか商業的な価値を見いだしているのかは当然わかりませんが、いずれにせよ、あれらの楽曲から初音ミクという存在を取り去る理由はどこにもありません。「良い曲だけど初音ミクはいらないから他の人に歌ってもらおう」という発想は初音ミクがプログラムだから一見正しいように見えるのです。これが初音ミクではなくて実在の人間だったら、大変に失礼なことです。

2つ目は「ニコニコ動画で楽曲が評価されたからと言って、プロのボーカルを用意できるほど世の中甘くない」こと。プロの作曲家と言われる人でも、ボーカルの選別に逐一意見できる人ばかりではありません。まして、趣味で作った曲が1つ評価されたからといってプロの仲間入りができるわけでもありません。執筆者は冒頭部分でプロの仕事を擁護する姿勢を示しているのに、この部分はプロという存在をむしろないがしろにしているようにも受け取れてしまいます。

プロのあり方

つまり音楽自体で勝負しようとしているわけではなく、その単なる珍しさやキャラクター性、そして現在のブームの為に初音ミクのCDは売れている、俺はそう考えた。上にも書いたが、これは俺の考えでは、CDの売れ方として、言葉は悪いが卑怯である。だ。
そのような売れ方をしてしまうと何が問題か。結論から言えば、質の高い音楽が減ってしまうことだ。理由はいくつかある。
理由の1つ目は、消費者が他のCDを買う金がなくなってしまうこと、また他の音楽への興味を失ってしまうことだ。人が娯楽に使えるお金には限度がある。初音ミクのCDを買えば、もしかして初音ミクより好きになるような良いCDが近くにあったかもしれないのに、それには目もくれず帰ってしまうことになる。そして、CDが売れずアーティストの収入にならなければ、音楽を止めるか、少なくとも活動を縮小せざるを得ない。
2つ目は、音楽の質だけで勝負しようとしているアーティストのモチベーションが下がることだ。つまり、いくら音楽の質を上げても、奇をてらったものばかりが注目されるなら、自分達のしていることが無駄だと思ってしまっても仕方がないだろう。人のモチベーションはそう簡単にはコントロールできるものではない。

1つ目の理由は明確に論理矛盾をきたしています。この論理が通用するならば、CDはおろか世の中であらゆる商品を売る事はできなくなります。(A,B,C,Dという4つのCDがあって、Aが不当に売れると残りが売れなくなるからAは排斥する。残ったうちたとえばBの売れ行きが良いとC,Dが売れなくなるからやっぱりBも排斥すべき…)

2つ目の理由はもっともで、売れなければ、評価されなければモチベーションが下がるのは仕方のないことです。しかし仮にもプロとして活動している以上は売れる作品を作る努力義務がある。売れないからといって何もかも辞めてしまうようでは、プロとしてはやっていけないし、むしろ「プロではない」。

まとめ

私事ですが、私の父親はプロベーシストとしてずっと活動しています、専門はジャズですが、今の時代はジャズだけでは仕事になりませんので、演歌を中心に様々な音楽の伴奏を仕事としています。

当然、芸術家としての父にとってはこれは不本意なことです。しかしそれでも父は、演歌でもなんでも自分が提供できる最高の演奏をクライアントに提供しています。

無報酬だからアマチュア、お金をもらっているからプロではありません。下手だからアマチュア、上手いからプロでもありません。プロ顔負けの腕を持ったアマチュアはたくさんいます。プロとは、クライアントからの要望を引き受けた以上その要望に最大限応える努力義務を負った人の事を指すのではないでしょうか。

初音ミクを筆頭とするVOCALOIDは良くも悪くも所詮、プログラムです。発音とか、声質とか、能力には限界があるかもしれません。しかし、プログラムだからこそ、ユーザーの要望には持てる能力を最大限発揮して応えてくれます。初音ミクにとっては、歌声の行き先がニコニコ動画だろうと、CDだろうと、お金があろうがなかろうが関係ありません。

その歌声が認められて、CDという新天地で最大限要求にこたえる歌声を披露しているなら、初音ミクもりっぱなプロ歌手ですし、またそうでなくてはならないと思います。


現在ご覧のページの最終更新日時は2015/03/15 00:53:20です。

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