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Jew's Harp

究極にアナログな(?)アナログシンセサイザ(??)「口琴」

はじめに

先日(2012/02/04)、ストリングラフィと口琴がコラボするライブに行き、口琴(こうきん)というものに初めて触れてきました。(知識としては知っていたが、現物を目にするのは初めて)

私は、口琴の音色、そして発音方法を知った時「これはアナログシンセサイザだ!」と直感しました。ライブのあと、演奏行っていた「P口琴ラボ」の皆さんにその話をした所、『まさにその通りです!』『究極にアナログなアナログシンセサイザかもしれません』というお墨付きを頂いたので、ここでちょっと紹介したいと思います。

口琴とはどういう楽器か

ここでは口琴について簡単に説明します。詳しくは、文献等を御調べ下さい。

口琴は、文字通り口(くち)を利用する楽器です。材質や形は多種多様で、長い歴史をもつ民族楽器です。日本でも伝統的に用いられていましたが、途中で廃れてしまいました。(北海道のアイヌ民族には、ムックリという口琴が伝えられています)材質は主に竹・鉄・真鍮などが使用されます。

今回、私がライブのお土産として手に入れたのは、真鍮製の小形なものです。

DSC_0139.JPG

左上の、金属でできたのが口琴の本体、糸でつながれた先の色鮮やかな筒がケースになっています。

演奏するときには、(右利きの場合)左手で口琴の糸の付いた方を持ち、中央部を唇にくわえて(種類によっては歯に押し当てるものも)、反対の端部を指ではじきます。

DSC_0140.JPG

すると、スリット(切れ目)によって作られた弁が振動し、その振動が口の中に共鳴して増幅され、音が発信されます。

P口琴ラボの皆さんは、P、すなわち「プリペアード」口琴を演奏するユニットですので、指ではじかずに、小さな扇風機の羽ではじいたりしていました。

なぜアナログシンセ?

ここまでの説明で、音響や物理の知識がある方ならピンと来ると思いますが、この楽器は、弁の振動が発振器となり、その振動に口腔という「共振器」が結合してできています。この共振器は単純に弁の振動を増幅するのではなく、固有の共振特性を持っていますから、弁の振動は口腔内の形・容積によって周波数変調されて出てきます。

まさに、VCO(電圧制御発振器)の出す波形にアナログフィルタをかけて音作りをしていたアナログシンセに似た形式です。

口腔内の容積を変化させた、口琴の音質変化を、サンプル音源(私の演奏)でお聞きください。全て同じ楽器で演奏しています。

通常(口腔内容積小).MP3 「つ」と言う直前くらいの、舌先が歯の裏近くに位置する状態
通常(口腔内容積中).MP3 「く」という時のように、舌の奥が上あごについている状態
通常(口腔内容積大).MP3 あくびをするように、口からのどまで広くあけた状態

勿論、人の口は自由に動かせるので、まるでアナログシンセのフィルターを、LFO(Low Frequency Oscillator)で制御するかのような演奏ができます。

口腔内容積変化.MP3
舌の奥を上あごにつけたまま、舌先を動かして容積を変化させています

音がなっている時に息を吹きかけると、オーバーブローしてまた音色が変わります。音量も少し大きくなります。

オーバーブロー.MP3
通常→オーバーブロー.MP3 通常通り音を鳴らし、途中から息を吹きかけた。変化がわかりやすい。

喋るシンセ

口琴を鳴らしながら、口を「声を出すときのように」動かすと、まるでロボットが喋っているかのような音が出ます。口琴を演奏する時は、そうやって音色を複雑に変化させます。

おあえい.MP3 o-a-e-iと連続的に口の形を変化させた
こんにちは.MP3 しゃべれます。

これは、初期の「ボコーダー[トーキング・モジュレーターまたはトークボックス]*1」というシンセサイザと同じ原理です。人間の声、特に母音(日本語の場合「あえいおう」)は、声帯から唇まで、声が通る道「声道」の形が決める周波数特性によって決まります。特に、周波数の低い方から1つ目、2つ目の共振点(第一フォルマント・第2フォルマント)の変化が大きく作用することがわかっています。

ボコーダー[トーキング・モジュレーター]は、発振器が生成した音をビニルチューブのなかに伝えるもので、演奏者はそのチューブの先端を口にくわえて演奏します。チューブに伝える音の高さを変化させながら、口を動かすと、ロボット・ボイスが生まれます。(つまり、声帯の代わりにチューブに導かれた音が発信源となっている)

これは、楽器として用いられただけでなく(有名なのは、Earth Wind and Fireの「Let's Groove」:http://www.youtube.com/watch?v=_XOY7lsBVpo)音声合成の基本的な考え方(の一つ)として、研究されました。

*1ボコーダーという名称がつかわれる事もあるが、誤った用法であるという指摘を受け、訂正します。


現在ご覧のページの最終更新日時は2015/03/15 00:55:51です。

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