N.Y.Cityのまちかど
I wouldn't like to get Time machine!
「タイムマシンなんていらない」 コード分析
はじめに
ある日、車の中でラジオを聴いていたら、前田敦子の「タイムマシンなんていらない」という曲が聞こえてきた。この曲を聴くのは初めてだったが、よく聞いてみると、教科書のサンプル曲か!と思うようなコード進行の曲だった。基本の進行は単純ながら、ポイントポイントにアクセントをつけて仕上げてある。(こういうのを、バークリーっぽいと言うのかもしれない、と思った。)勉強になりそうだったので、自分なりに分析をしてみた結果をまとめておく。
著作権の都合上、完全な歌詞を掲載できないので、歌詞が必要な人は各自歌詞情報検索サイト等を参照されたし。
分析
コード進行
【イントロ】
I (non-code) B ┠────────┼────────┤ Beep -- Yeah! VIm I G#m B ├────────┼────────┤ Beep -- Yeah! VIm IIm G#m C#m ├────────┼────────┤ Beep -- Yeah! V F# ├────────┤ Beep --
コードの対比がわかりやすいので、ここだけあえて2小節単位で改行した。
主要三和音 トニック(I)、サブドミナント(IV)、ドミナント(V)に対して、6度マイナー(VIm)はトニックの代理コード。つまり、I-VIm-I-VImは、機能上はずっとトニックが続いている。
そして、イントロの最後でトニックがドミナント(V)に進む間に、IImが挟まっている。ドミナントの手前にIImを入れる進行はツーファイヴと言われ、非常によく使われる重要な動き。機能的にはIImはサブドミナントまたはドミナントの代理コードとなる。ルート(根音)の進みII→V(4度上昇)が強進行となるため、スムーズな進行に聞こえる。
6度マイナーとツーファイヴを組み合わせた I-VIm-IIm-V という進行は通称「イチロクニーゴー」と言われる、大変有名な定番コード進行である。VImはツーファイヴのIImに対するセカンダリードミナントとして働く。セカンダリードミナントは、続くコード(ここではIIm)を仮にトニックとみなしたとき、そのドミナントに相当するコードを指す。これにより、セカンダリードミナントは自然にIImを引き出す役割を持つ。このイントロは、「イチロクニーゴー」の「イチロク」を2回繰り返して引き延ばした形をしている。
【Aメロ】
I V VIm IIm B F# G#m C#m ├────────┼────────┼────────┼────────┤ 知らない~ IV I IIm V E B C#m F# ├────────┼────────┼────────┼────────┤ 時計を~
最初はトニック(I)->ドミナント(V)ときて、次はトニックではなく、トニックの代理コード(VIm)に進む。
イントロがイチロクニーゴーだったので、VImの次にIImが来て、同じように進むと思いきや、サブドミナント(IV)からトニックに向かう。IImはサブドミナント(IV)の代理コードであり、代理コードから「元」のコードに戻る動きは「禁則進行」と呼ばれ、避けたほうが良いと言われるが、IIm→IVは気にせずよく利用される進行である。
そのあとは通常のツーファイヴでAメロ'に進行をつないでいる。
【Aメロ’】
I V III7 VIm IIm B F# D#7 G#m D#m ├────────┼────────┼────────┼────────┤ テーブル~ IV I VIm IIm V I E B G#m C#m F# B ├────────┼────────┼────────┼────────┤ 眺めて~
基本的な構造はAメロと同じだが、コードが増えている。挿入されたIII7は続くVImのセカンダリードミナント。VImをトニックとみなすということは、平行調(元が長調なら短調、短調なら長調の中で、調号が同じもの)の世界に移ってドミナントモーションするのに、ドミナント(III7)がメジャーコードになっているのは、自然的短音階ではなくて和声的短音階または旋律的短音階を使用しているとみなせば説明できる。
後半にはVImを挟み、Bメロに向けて駆け足でイチロクニーゴーからトニックへ解決し、一段落する。
【Bメロ~サビ頭】
IV IVdim IIIm VI E Edim D#m G# ├────────┼────────┼────────┼────────┤ どんな~ IIm IIIm IV II V V C#m D#m E C#/F F# F# ├────────┼────────┼────────┼────────┤ 私って~ タイムマシ
Bメロでずいぶんコード進行の雰囲気が変わる。前半で特徴的なのはディミニッシュコードをパッシングディミニッシュとして使用している点で、第2転回してG#/D#として演奏すると、ルートがE→E→D#→D#という半音降下になる。
後半は対照的に、ルートがC#→D#→E→F→F#→F#と順次上昇し、一気に駆け上がる。また、ここまでずっとIIの和音はIImであったのに、C#/Fという形で、突如メジャーになる。このC#は、続くVをトニックとみなしたセカンダリードミナントである。II→Vの関係は、IIがドミナントのドミナントになることから、ドッペル・ドミナント(ドイツ語読み。英語ではダブルドミナント)という。
【サビ前半】
V F# ┼……………………┤ タイムマシ I V VIm IIIm B F# G#m D#m ├────────┼────────┼────────┼────────┤ ンなんて~ かこも きょうみない い IVm I VIm II7 V Em B G#m C#7 F# ├────────┼────────┼────────┼────────┤ つだって~ たら そんなじゆ
まずI→Vという基本のドミナントモーションから、それを代理和音に置き換えたVIm→IIImを繰り返す。
耳に残るのはこの次の瞬間、突如としてメジャーコードであったはずのサブドミナントがマイナーに代わっている。短調に移旋したような気分になるが、次のコードが今まで同様のI→VIなので、これは同主調(Bマイナー)からの借用和音と考えられる。
借用和音のあとは、I→VIm→IIm→V(イチロクニーゴー)ではなく(!)またもドッペルドミナントが出現する。しかもII7と、ドミナントセブンスになることで、より一層、Vへ向かおうとするドミナント・モーションの働きが強くなる。
【サビ後半】
V F# ┼……………………┤ そんなじゆ I V V#dim VIm IIIm B F# Gdim G#m D#m ├────────┼────────┼────────┼────────┤ うなんて~ うんめい せ IVm I VIm IIm IIm Em B G#m C#m C#m ├────────┼────────┼────────┼────────┤ っかく~ だから めのまえ IVm IIm V I Em C#m F# B ├────────┼────────┼────────┤ の~
基本構造は【サビ前半】と同じだが、VとVImの間にパッシングディミニッシュV#dimが挿入され、より滑らかに上昇する。
また、IIの和音は元通りのマイナーになっており、また定番のI→VIm→IIm→V(イチロクニーゴー)に行く…と思わせておきながら、IImで2小節引っ張った挙句にVではなくまたIVmで短調の世界に引き戻しておいて、定番のII→V→I(ツーファイヴからトニックに移動することが多いため、これを特にツー・ファイヴ・ワンと呼ぶことがある)。
さらにこの後、同じ構造で2番に飛び、終わりに半音移調するが、基本構造は同じなので以下は割愛する。
現在ご覧のページの最終更新日時は2015/03/15 00:50:49です。
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