JR西日本脱線事故についての検討。


JRの歴史はおろか、日本鉄道史から言ってもかなり重大な部類に入る
鉄道事故が、2005/04/25、JR宝塚線(福知山線)塚口〜尼崎駅間で発生しました。
まずは、この事故で犠牲になられた幾多の方々のご冥福をお祈りし、
また、ご遺族他、さまざまな形で被害を受けた方に、深く同情の念を申し上げます。
事故調査委員会の調査結果他から、どうやらこの事故の原因は置石などにはよらない、
純粋なオーバースピードによる脱線との結論に達しつつあるようです。
当初、置石が引き金になった可能性があるなどといった情報も一時流れましたが、
どうやら、それは否定されたようです。

さて、この重大な事故が発生した要因のひとつとして、福知山線にATS-Pが導入
されていなかったことが、各メディアで盛んに取りざたされており、物議をかもしています。
ATS(Auto Train Stop)は、その名の通り、安全圏外のスピードで列車が走行するのを
感知した時に、自動的に列車を停車させる装置のことです。
今回の事故において、福知山線には旧式のATS-SWが導入されているのみでした。
ATS-SWは、赤信号にもかかわらず列車が停止せずに走行を続けようとしたときのみ列車に
非常ブレーキをかける仕組みになっており、信号によらない速度制限に関しては、
警告音は発するものの、自動で列車を停止させる機能は備えていません。
最新のATS-Pでは、各区間の速度制限に応じて自動的にブレーキをかけるようになって
いますので、もし福知山線にATS-Pが導入されていれば、この事故はおこりえなかった事に
なります。そのため、JRはかなり前から、このATS-Pの導入を全国に至急広げようと
していました。(新幹線、および首都圏在来線などでは、ATSをさらに強化した
ATO、ATCなどが導入されています。)

もちろん、この事実に関しては、メディアは正しく報道していますし、重大な事故要因の
ひとつであると、私も思います。 しかし、この要因の扱いが、間違っている気がするのです。
各メディアの報道を見ると、揃ってこのATS-SWを悪者のように扱っています。

ちょっと、突飛ですが、こんな事を考えてください。
今回と同じように、ATS-P未導入(もちろん、ATO,ATCも。)の路線で、脱線事故が起きたとします。
脱線の原因は、やはりオーバースピード。しかし、
後ろから、暴走した大型トラックが突っ込んできそうになっていたため、やむを得ず
スピードを上げて回避しなくてはならなかった、としたら。(実際にはほとんどありえませんが。)
この場合でも、ATS-Pが導入されていない事がこれほど槍玉に挙げられるでしょうか。
おそらく、そうではないでしょう。 この場合、責められるべきはトラックのほうであって、
回避行動をとった運転手には、少なくとも情状酌量の余地が大いにあるでしょう。

結果には、必ず原因があります。 同様に、人間の行動にも、必ず要因があります。
すなわち、人間の行動を刺激→反応 というように単純化する説で、
これを心理学のS-R[Stimulus-Responce]モデルといいます。
この場合、トラックが近づくという原因があって、運転手はスピードを上げて、
結果的に、脱線しました。 この、単純化した一連の流れの中で、ATSはどこに作用するか
といえば、運転手が速度を上げることを"可能たらしめていた"ものでしかありません。
たとえ、ATS-Pが導入されていなくても、例えば列車の性能が70km/hが限界で、
どうがんばってもこれ以上は速度が上がらないとすれば、この事故は起こりません。
しかも、"事故の本質"は変わっていないのです。(当たり前ですが、速度が上がらないことに
よって、トラックが突っ込んでくるという事故は、まったく別の事故として切り分けて
考えています。)

今回の福知山線の事故でも、同じことが言えるのではないでしょうか。
ダイヤの遅れ(しかも、ゆくゆくは自分にとって圧倒的に不利な状況が待っている)が原因
となって、運転士は回復運転のつもりで速度を上げて、結果脱線してしまった。
ATS-P導入の如何は、やはり速度を上げることを"可能たらしめている"ことでしかありません。
責めるべきは、JR西日本の対応の甘さ、縦割りな人間関係、でしょう。

事故当日、事故を起こした列車にたまたま同乗していた2名の車掌が、救出活動に
参加しないまま、上司の命令どおり出社していた、という事はまだ許せるにしろ、
これほどの重大事故が起きたと認識していながらも、平然と親睦会に出かけていったという
報道には、怒りを通り越して呆れすら感じます。

人員面だけでなく、技術面から言っても、かなり路線の設計に無理があるように見えます。
総じて、JR西日本の安全意識の低さが明るみに出た、と考えます。


では、なぜマスコミはこれほどまでにATSにこだわるのでしょうか。原因は二つ見えます。

理由1:
鉄道に詳しい人でない限り、ATSなどの保安装置に関する知識は皆無と思ってよいため、
スクープとして報じやすく、視聴率をとりやすい。

ここが、マスコミ報道の怖さです。 マスコミの都合如何で視聴者に伝えられる内容は
簡単に捻じ曲がってしまいますから。 しかし、むしろ重要なのは次の理由です。

理由2:
理由1にかこつけて、JR西日本は"ATS-Pがいまだ導入できていなかったこと"に責任を
転化すべく、記者会見などの発表内容に誘導をかけようとしている。

事故の原因はJR西日本がATS-Pを導入していなかったことにある! との世論が広まれば、
JR西日本としては、「ATS-Pを早急に導入する」ことで、一応必要最低限の責任を
果たした事になります。 しかも、ATS-P導入工事はもう半分以上が完了していて、
JR西日本サイドとしては、運用の問題であるとか、社内教育方法の問題であるとかを
とりざたされて、是正していくよりはよっぽど楽な方法です。 極端な話、
金さえあればできます。

会社の都合に振り回されて、精神的に大きな負担を負っていたであろう運転士は、
この事故においても、立派な被害者のような気がしてなりません。

黙祷。


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