Painful medicine
ドアチャイムの音で鈴凛は読んでいた本から顔を上げた。
その本がよくある漫画雑誌などではなく、人工知能プログラムの研究書なのは
鈴凛らしいというかなんというか。とにかく本を置いて、鈴凛は玄関に向かった。
「はーい? あっれぇ、四葉ちゃんじゃないかぁ!どうしたの突然」
「とっ、突然ご、ごめんなさいデス。あの..兄チャマの事でちょっと..。」
「ん?いいよいいよ姉妹なんだし。上がって適当に座ってて。お茶入れてくるから。」
四葉が何か言う暇もなく、鈴凛はキッチンへと小走りに行ってしまった。
仕方なく四葉は入ってすぐの所にあるダイニングへと座った。
ほどなくして鈴凛が紅茶のポットをもってやってきた。
「たしか四葉ちゃんはイギリスから来たんだよね。ってな訳で今日は紅茶にしたんだ。」
「わぁっ!ありがとうデス!へへ、ちょうどミッディーティーが欲しいと思ってたんデス!」
「ミッディーティー?」
あまり聞きなれない言葉に鈴凛は首をかしげた。
「あ、ハイ。えっと、日本ではアフタヌーンティーが有名みたいですけど、イギリスではもっと
たくさんたくさん紅茶を飲むんデス。普通一日5回くらいは飲むケド、その中のお昼の後に飲むのを
ミッディーティーっていうんデス!あ....そうじゃなかった。あの、ちょっと鈴凛チャンにお願いがあるんデスけど。」
途中まで陽気に話していた四葉だったが、途中で本題を思い出したらしく、真面目な顔になって言った。
「ん?私にできること?なら協力するよ。」
「ありがとうデス!あのですね、最近兄チャマをチェキしていたらなんかカゼ気味みたいで、
メディソンをあげようかな..って思ったんデス。飛びっきりのを作ってくれますか?」
「メディソン..薬か。でも薬については千影ちゃんのほうが詳しいんじゃないの?」
「あ、はい。そう思って先に千影チャンの方に行ったんですけど..。」
「うん。それで?」
「『それじゃ...この間聞いた薬を...試してみよう。...きっと...良く効く...はずだから...。ちょっと...強すぎるかもね...。』
って言って、その場で作り始めたんデス。その時出来たのがこれデスけど..。」
そういって四葉はポケットから小さなガラス瓶を出した。
鈴凛が手にとって見ると中の液体は緑がかった褐色をしており、所々に黒っぽいものが沈殿していた。
「どう作ったの?これ。なんか匂いも...強烈だね。」
「たしか材料が..あ、メモしたんでした。干したハブ1匹とイモリをすり潰した粉を10g。
これを焼酎100ccに入れてから...」
「ちょ、ちょっと待って。勘弁して。なんかこれ以上聞くと気分わるくなりそう。で?」
「あ、ハイ。それでちょぉっとだけ、なんか心配なんで鈴凛チャンにも作ってもらおうと思って..。」
「いいよ。でもなー、ウチの専門は工学で薬学の道具はあまり置いてないんだけど...。」
鈴凛はしばらく腕組みをして考えていたが、突然顔をあげるとちょっと待っててと言い残して
キッチンに駆けて行った。
鈴凛はキッチンにつくとすぐに冷蔵庫から何かぶつぶつと言いながら野菜を取り出し、
棚から缶詰をいくつか取り出すと鈴凛は鍋を出して来てスープを作り始めた。
色とりどりの野菜を見ると、どうやら鈴凛は栄養の事を十分考えて食材を選んだらしい。
少々ぎこちないが無難な手つきでスープを手早く仕上げると、そのスープを保温瓶に移した。
そしてぱたぱたと実験室に駆けて行くと、何か無色透明な液体の入った薬瓶をもってきて、
保温瓶と共に四葉に渡した。
「はい。こっちが鈴凛ちゃん特製野菜スープ!と、こっちが秘密の薬ね。
私の心のこもった温かいスープを味わってから、こっちの薬を飲んでね。
50ccくらい一気に飲んで。」
「ありがとうデス!...でもいったいどんな薬ですか?」
「ふふっ、それはねー。飲めばわかるよ。ほら、冷めないうちに渡してあげて。」
「あ、そっか。じゃ、ありがとうデス!」
四葉は急いで家を飛び出して行った。
それから数時間後、また例の本を読んでいた鈴凛の家に電話のベルが鳴り響いた。
「はーい、あれ四葉ちゃん、どうだった?」
...「あ、鈴凛チャン、あ..兄チャマが、兄チャマが...」
尋常でない切迫した声に鈴凛は思わず受話器をもち直した。
「ど、どうしたの?」
「は、ハイ。あの..鈴凛チャンの薬を飲んだんですけど、飲んだとたんに兄チャマが真っ赤な顔して
倒れたんデス!」
「え?たった50ccでそんな即効性は...ちょっと待って。」
鈴凛は受話器を横に置くと実験室の薬品棚に行くと一つ二つ瓶を確かめるように手にとって、
蒼白な顔で電話に舞い戻った。
「すぐ行く!!待ってて!」
鈴凛は四葉の返事も聞かないうちに受話器を置いて家を飛び出した。
鈴凛の蒼白な表情とは裏腹に兄は家のベッドで真っ赤な顔を寝ていた。
その横で四葉はタオルを探し出してせめてもと、必死に汗を拭いてあげていた。
スープはなんともなかった。やはり風邪気味のようだったので、
これはありがたい、美味しいとよく食べていた。千影の薬はやはり少々遠慮したようだったが。
ところが、鈴凛の例の透明な液体を言われた通り50cc一気に飲んだとたん、倒れてしまった。
四葉の焦りがピークに達しようとしたころ、ドアを蹴飛ばすような勢いで鈴凛が飛び込んで来た。
「アニキは?」
「まだ寝てマス。ど、どうしたら...?」
鈴凛は周りをぐるっと一瞥してから言った。
「だ、大丈夫。この様子なら命には別状はない。タオルを水に浸して絞ってきて。
熱が出たときと同じ対処をすればいい。私も残るから。」
次の日になってから兄は目を覚ました。
「あ、兄チャマ!」「アニキ?」
「ん....あぁ....四葉に...鈴凛か。....イテテ、頭ががんがんする。鈴凛...おまえ...なに飲ませた?」
鈴凛はしばらくじっと兄の顔を見つめていたが、突然兄の手をとってすごい勢いであやまり始めた。
「ゴメンアニキ!あ...その...日本酒を飲ませるつもりだったんだけど...。」
兄も、ついでに横の四葉も驚いて鈴凛の顔を見た。
「あ、いや。風邪気味のときに少量のお酒は体にいいんだよ。アニキのアルコール耐性なら
日本酒50ccぐらいどうって事なかったんだ。」
自分の声も他人の声も頭に響くのか、頭を手で押さえながらゆっくり兄は起き上がった。
「たしかにその位なら平気だ...。でも...これって...明らかに....二日酔いだぞ....。
頭も....痛いし....ちょっとムカムカする...。」
「り、鈴凛チャン。その言い方ってもしかして...何か違うもの飲ませたんデスか?」
鈴凛は束の間天を仰ぎ見て決心したように言った。
「ゴメンッ!その...日本酒の瓶と間違えて、前に興味本位で合成したスピリッツの方渡しちゃったんだ..。」
「spirits?!」
四葉の素頓狂な声に兄は思わず耳を押さえ、その後に頭を押さえた。
横で慌ててあやまる四葉をなだめ、兄が鈴凛を見ると...
「うん..。その..日本酒なら50cc当たりアルコール分は12.5ccくらいなんだけど、
一気に45cc分のアルコールを飲ませちゃった...。ゴメン!」
「あ...鈴凛、わかった。わかったから話の続きはまた今度にしてくれ...。
頭....痛い....。しばらく...休まないと...ダメだ...。」
兄はゆっくりと、頭に響かないようにまたベッドに横になると、
立ち上がろうとしていた鈴凛に向かってこういった。
「鈴凛....埋め合わせの相談は....今度な...。」
鈴凛はいったいどんな埋め合わせが来るだろうとびくびくしながら四葉と共に家を出た。
「鈴凛チャン...?一つチェキして良いですか?」
「ん?」
「今日兄チャマが飲んだのはspiritsデスよね?」
「うん。」
「で、本来飲ませたかったのはsake(*日本酒)だったんデスよね?」
「そう。その通り」
「四葉がちょぉーっと気になるのはどうして鈴凛チャンの家にそんなにお酒があるか..」
「あ、いや..それは...ね。 うん。あの...」
「四葉の勘が正しければ....」
「あ、いや、だから...そ、その、そんな事は別にいいじゃあないかぁ!」
鈴凛は四葉が全てを言い終わる前に誤魔化すように笑って逃げ出した。
「あ、鈴凛チャン!Wait!待って下さい!」
慌てて四葉も追いかける。しばらくふざけあいながらしばらく走っていると
いつの間にかいつもの公園についていた。
「あ、あれ?あそこにいるのは...?」
突然鈴凛は立ち止まって公園のベンチを指差した。
そこにはなにやら古い書物を読んでいる千景の姿があった。
「やぁ...鈴凛ちゃんか...。ここにいれば...会えると....思ったよ...。
兄くんは....なんとかなったみたいだね....。でも...今度は....君に...不運が...近づいているようだよ....。
気をつけた.....ほうがいい....。 それじゃあ....また....来世.....。」
「あ、ちょ...」
鈴凛が何か聞き返す前に、千景はもうそこから姿を消していた。
この後数日間、鈴凛が兄に...ではなく、埋め合わせと称して兄が鈴凛に物をねだるという
珍しい光景を見ることができたという。
なお、その総額は、本人達と四葉のみが知っているのであった。
Fin.☆
後書き
わー。書いちゃった。 やっちゃいましたね。とうとうシスプリに手を出しちまいました。
だって小説書きやすいんだもの〜! 個性的なキャラが多くて、ギャグ物もシリアスも
書けるし。
で、ギャグ物を書いてみました。
鈴凛と四葉、です。ギャグ物としては王道...かなと。 兄の名前が決まらないので
書くとき困りました。 これからアニメ版の名前を使おうか考え中です。
どうも私のページの元ネタはマイナー所が多いですねぇ。
ギャラリーに戻る
Topに戻る