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ドアを音も高く開けて、喜色満面の少年が息を弾ませて飛び込んできた。
「ハリー、ちょっと来いよ!!ハーマイオニーも!!」
クリスマスと年末の休暇をホグワーツ城で過ごすことになったポッター一味の残りの二人が、
顔を見合わせて、同時に飛び込んできた三人目を見つめる。
「…どうしたの?ロン。」
「姿が見えないと思ったら。」
なかなか息のあったコンビネーションを見せつける二人に近づき、
そのそれぞれ片腕を掴んでロンが引っ張って立たせようとする。
「いいから、とりあえず来てって!」
「うわ、ちょっと待ってよ、コートとマフラー…。」
「そうよ、外は雪でしょう?風邪引いちゃう…。」
「そんなの後、後!」
寒いだろ外!とじたばたもがく黒髪の少年を半ば担ぐように、栗色の髪の少女を小脇に抱えるようにしながら、
赤毛の台風は他に人気もない獅子寮の談話室を後にした。
*:*:*:*
「もう、やっぱり寒いじゃないのー!」
ハーマイオニーが、連れてこられた吹きさらしの中庭に苦情を告げる。
息ははっきりと跡まで見えるほど白く、発せられた言葉そのままの形で立ち上る。
ふわんと赤毛の少年の前で消えるその言葉に、ロンが目を細めてただ、微笑んだ。
時刻は既に深夜に近く、暖炉の炎から引き離されたのはハリーもハーマイオニーもかなり不満げだ。
自身は重装備のロンが、ゴメンゴメンと笑いながら首にかけたマフラーを外し、ふわっと彼女の首にかけた。
「まぁ、気休めでこれでも巻いててよ。」
思いもよらない行動に、ハーマイオニーが一瞬固まって、次いで真っ赤になる。
続いてさらりと脱ぎ捨てられたコートは、横合いからハリーが奪い取った。
はーあ、と盛大に真っ白なため息を吐き、ちらりと親友二人を見比べる。
「君たち、もう十分熱くなったからコートまで要らないでしょ?」
「な、なんでだよ!」
奪い返そうとする腕から逃げて足首まで届きそうな長めのコートを素早く羽織ったハリーが、
で?とロンの顔を見上げる。
「僕達を無理矢理引っ張り出した理由は?」
ロンが一瞬きょとんとした後にっこりと微笑み、ついと腕を上げて空の一角を指差した。
「君たちに教えてあげようと思って。あのさ、魔法使いの一番星って知ってる?」
ハリーはきょとんとし、ハーマイオニーは首を傾げた。
「…一番星?」
「天文学でそんなのやったかしら?」
いや、覚えてないし、とハリーが答え、どうせあなた達は聞いてても覚えていないでしょうけど、
とハーマイオニーがきつい釘を刺した。
二人のやりとりを聞き流し、ロンがいそいそと説明を始める。
「うん、北極星なんかは旅をする目印なんだけど、そういうのじゃなくて、新年を迎えるときに見上げる星があるんだ。」
ここ何年か、あまり空の調子が良くなくて、見たかったけど見られなかったんだよね、と息を弾ませ、気負い込んでロンは言う。
「だから、今夜見つけられて、物凄く嬉しかったんだ。…絶対に、君たちに一緒に見て貰いたいと思った。」
君たちの知らない魔法使いの言い伝えを教えてあげる、
と一番年嵩の癖に三人の中で最も子供っぽい赤毛が得意げに二人を前に講義を始める。
「新しい年の初めを、この星を見上げながら迎えたらね、ずっと離れないで済む、っていう言い伝えがあるんだ。
だから僕達魔法使いはこの星を毎年、家族と一緒に見られることを願いながら新年の訪れを迎える。」
言いながら、ぽん、とハリーとハーマイオニーの肩を両腕を回して叩く。
「いつか君たちとこの星を見ようって決めていたんだ。
"I wish you a happy New Year, mate."…これからも宜しく。」
この言葉に、ハーマイオニーが嬉しそうに微笑みながら腕の中から長身の彼の青い瞳を見上げる。
「モチのロンよ、こちらこそ、だわ。ね、ハリー?」
黒髪の少年も、緑色の瞳を煌めかせながら大きく頷く。
「嬉しいよ、僕だって同じ気持ちさ。」
やった、と誰かが小さく呟き、ハーマイオニーが腕を伸ばしてぎゅうっと二人の腰に抱きつく。
顔を上げて、代わる代わるハリーとロンの顔を見比べながら言った。
「また、来年もこうやって三人で見たいわ。」
「そうだね。」
「約束だからな。」
異口同音に答えて二人は微笑み、ハーマイオニーが大きな鳶色の瞳を少し潤ませる。
あの星みたいだね、とハリーが言いながらロンを振り向き、
ロンがそんな綺麗な例えかよ、といつもの軽口を叩いてハーマイオニーに睨まれた。
*:*:*:*
清冽に凍る空気の中、体を寄せ合ってお互いの体温で暖を取りながら、
星を見上げて歳神の通り過ぎるその時を待つ。
寒くないか、とロンが問えばロンの腕の中に収まっているハーマイオニーが少しハリー側に身体を寄せ、
ハリーはロンから借りたコートを広げる。
こんなにお互いの近くにいるのは三人が三人とも初めてで、
わくわくしながら年に一度の筈が今までで初めてになってしまった特別な時を待つ。
冴え渡った星空の下で闇にも関わらず綺麗に透ける赤い髪の毛を上空までの視界に見つけて、
ふとハリーは寂しい思いに捕らわれる。
熟して、実を全て取りきってしまった柿の木に、ひとつ残す実を、木守柿というのだという。
そうすれば、来年もまた、たわわに実が実るのだと信じて。
目の前の、紅く熟し切った最早青年期に掛かろうとする親友を見つめる。
自分と同じだけ、彼も自ら大人になろうとしている。
選び取った道は、決してなだらかとは言い難い…等というと、奥歯にものを挟みすぎだ、と怒られてしまうだろうか。
日に日に、心の安まる場所は減り、時間は短くなっている。
彼を、ここに残していった方がいいのだろうか。
寄り添うように側にいる、栗色の髪の少女も。
いっそ、一人で行って帰ってこようか。
彼等をここに置いて。
そうすれば、僕の人生に訪れる幸せは、年毎に豊かになっていくのだろうか。
―――木守とするのか、摘み取って行ってしまうのか。
ハリーは胸の内で自問自答する。
ふと、ロンが夜空を見上げていた視線をハリーに移した。
青い瞳に見つめられ、どきん、とハリーの心臓が波打つ。
ロンが少し躊躇いがちに口を開く。
「ハリー、なんか今、寂しいこと考えなかったか?」
「……え?」
ぼそりとロンが囁く。
「いや、心臓の音が…さ。急に小さくなったから。」
どきりとしたハリーが身体を強張らせる前に、そうよ、と今度は下から鳶色の瞳に責められる。
こちらは拗ねたように、ハーマイオニーが呟いた。
「これだけ近くにいたら嫌でも分かっちゃうんだから。独りで辛いこと、考えないでね。」
ハリーが珍しく狼狽えて、親友達の名前を呼ぶ。
「ロン、ハーマイオニー……。」
―――君たち、どうして。
その、瞬間。
城内の時計が午前零時を告げたらしく、残る生徒は少ないと言いながら、
ホグワーツに一斉に明かりが灯り、あちらこちらの部屋から新年の言祝ぎやクラッカーの破裂音が響く。
ハリーへの答えも勿論見つからないまま、カウントダウンと新年を祝う喧噪に消えていった。
*:*:*:*
残り少ない最終学年の、新年が明ける。
彼等の最後の決戦も、運命の分岐点も、すぐ、そこに。
二人の親友のとくとくと力強い心臓の鼓動をそれぞれに聞きながら、
心地よい暖かさに浸り、ハリーは永遠を願っていた。
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end.
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