七色の水 琥珀色の水

シューゴとレナがThe Worldにログインするなり、二人の元にメールが届いた。

『やっほー☆シューゴ!
今日はね、絶対絶対行きたいエリアがあるんだ〜!
ふふっ、レア物、レア物♪

と、いうわけですぐにミレイユちゃんのアジトに来てねっ!
すぐに、すぐにだよ!

ミレイユちゃんヨリ☆』

一緒にパーティーを組んでいるミレイユからメールが届くのはまったく
いつもの事なのだが、この文面を見る限り、まさしくレアハンターの血が
ミレイユの体の中で騒ぎまくっているのは一目瞭然だろう。
「どうする?レナ」
「どうするって...この調子じゃ何をやっても止められないでしょう」
結局、今日1日ミレイユに振り回されるのを覚悟で二人はアジトへと向かった。

〜アジト前〜
「あ、いたいた!ミレイユ!」
シューゴの視線の先に捕えたミレイユはこちらに気付くなり猛スピードでこちらに突進してきた。
「二人とも遅いっ!すぐいくよ!」
もうすでにレアハンターとしての執念をあらわにしていたミレイユは
二人に有無を言わさず走り出した。
「ちょ、ちょっと!落ち着いて!どこに行くの!」
必死にミレイユに追い付いてレナがミレイユに尋ねる。
「この間新しく出来たエリアでオープン記念イベントやるんだって!
始まるのはまだ先だけど先に行って場所とらなきゃ!」
「ミ、ミレイユ〜!待って、待って〜!」

〜エリア“美しき 魅惑の 楽園”〜

カオスゲートから抜けると、そこはいつもの荒涼としたフィールドではなく、
夜の帳が降り、鮮やかなネオンがそこかしこを彩る街。
まさに、現実世界(リアル)で言う所のラスベガスのような街が広がっていた。
酒の匂い、料理の匂い、行き交う人の香水の匂い....
伝わる筈のない情報までも人間の頭に呼び起こさせるような景色だった。
「今度、新しくできたエリアなんだ。今までみたいに戦うフィールドとしてでなく、
大きな街をエリアとして、物品の流通、情報の流通、及び娯楽として開いたエリアなんだ。」
幾分か落ち着いたミレイユだが、歩調をゆるめる様子もなく、
説明しながらも街をずんずんと進んでいく。
レナとシューゴは人の流れにミレイユを見失うまいと懸命に後を追いかけた。
飲食街の他にも、数々の品を扱う店、露店なども立ち並び、
中には闇市に近いような店もあった。
思わずシューゴはミレイユが血相変えて行こうと言って来た意味がわかった。
レアハンターにとって、こんな店は天国以外の何物でもないだろう。
そうこうしているうちに、ミレイユは煉瓦造りの落ち着いた雰囲気の建物の前に立ち、
深みある飴色の木のドアを開け、中に入って行った。

〜新エリア『Bar Eight-Dustpan』〜
「なあ、ミレイユ、ここっていわゆる“飲み屋”ってやつじゃないの?」
「まぁ、シューゴったらセンスのかけらもないわね。バーでしょ、バー。」
「どっちだって同じようなもんだろ。 でも俺達こんな所に来ていいのか?」
「別に本物のお酒は出ないもん。雰囲気を楽しむだけだよ。
あ、みんなも呼んであるからあっちに席を予約してあるよ。」
確かにミレイユの指差した先には“Reserved”と書かれた席があった。
そしてその席に座っていたのは白い服を着た子と...あれ?どこかでみたような...?
「あぁ!HOTARUに凰花!」
「シューゴさん、お久しぶりデス」「シューゴ、久しぶりだね。」...

皆が久しぶりの再会を喜んでいるのと時を同じくして、
偶然にもその5人のすぐ後ろの席で、二人の男がウイスキーグラスを傾けていた。
「室長もまた随分と凝ったエリア作りますねぇ。」
「ま、面白いんだからいいだろ。こういう息抜きのエリアもあっていいじゃないか。
そのうちここは情報交換のメッカになるぞ。待ち合わせにも最適の場所だ。」
もちろんこの二人はただのユーザではない。
このヴァーチャル世界The Worldの管理をしているCC社の第3開発室長のローライと
同じく第3開発室プログラミング部長、リヨンドの仮想の姿だった。
「これじゃ、バルムンクさんと張り合えるんじゃないですか?わざわざ世界中の酒のデータまで
取り込んで。さっきカウンターの方に寄りましたけど、あのバーテンダーも1級の知識と腕ですよ。」
バルムンクとは同じCC社で開発に従事している男で、
常々妙に細かい所に凝ったエリアをを創る事で有名な男だ。しばしばその凝ったイベントのせいで
自分で自分の首を絞める事もある。
明らかにリヨンドは皮肉をこめて会話をしているが、当の本人は慣れたものでさらりとかわした。
「あぁ。普段はあのバーテンダーはNPCなんだが、今日は特別に本物のバーテンダーを呼んでいる。」
「これで実際に酒に酔えるなら最高の場所なんですがね。」
「一応アルコール度数に応じて一時的に素早さ等のパラメータは下げるようにしているが?」
リヨンドは思わず苦笑いした。
「そういう所にこだわるからバルムンクさんと似ているって言っているんですよ。」
ローライはカラカラと少しだけグラスの氷を回すと一口琥珀色の液体を口に運んで言った。
「俺とあいつは決定的に違う所があるぞ。あいつは金と己の保身にしか興味のないオペレータ(管理者)
だが、俺は金にしか興味がないマネージャ(経営者)だからな。」
とうとうリヨンドはこらえ切れずに笑いだした。
「金にしか興味のない経営者がこんな手間と人件費のかかるエリアを創りますか?
どう見たって室長もバルムンクさんも道楽まじりにやっているとしか思えませんよ!」
つられてローライもまったくだと言いながら笑った。
「道楽、か。核心をついた言葉かもな。確かにこんなに手間のかかる仕事は楽しまないとやってられんな。」
と、先ほど話題に登っていたバーテンダーが横からついと登場してきた。
「ローライ様、リヨンド様。私からの差し入れでございます。」
そう言ってトレイから美しい七色のグラスをテーブルに置いた。
リヨンドはためらわずに、そのグラスに手を伸ばしたが、ローライはすぐには手をつけず、
バーテンダーの態度をうかがうようにして見た。しかし口の端に笑いが浮かんでいた。
バーテンダーは言った。
「大丈夫。いくら私が世界に名を馳せたハッカーでもウィルスを混ぜたりしませんよ。」
思わずリヨンドはもっていたグラスをこぼしそうになったが、2人はまったく意に介していない。
バーテンダーは笑った。
「お二人とも、お久しぶりです。私ですよ。ノックスです。」
ローライはいよいよ笑い始め、リヨンドは驚いて顔を見た。
「ノックス(Nox:ラテン語で闇の意)!そうか、そうか。うん、君なら
この夜の街は似合うな。なんせ繁華街の表も裏も知っているし。」
そう、このバーテンダーはリアルでの共通の友人だった。と、同時に自負していた通り、
世界に名を馳せたハッカーであることも確かだ。 もっとも、質の悪い「クラッカー」ではなく、
それほど壊滅的なダメージを与えたことはない。
「ノックス、カウンターは大丈夫か?油売っていて。」
「さっき、断わって出てきましたから。 しばらく飲んでいられます。」
突然、ローライへメールが届いた。
「あ、ちょっと失礼。仕事のメールだ。」
リヨンドが顔を出す。
「え、仕事?じゃあ僕も見たほうが...」
「いや、君には関係ない。ちょっとした仕事がらみの、な。MW社から...」
リヨンドとノックスが同時に首をかしげた。
「MW社?聞いた事のない社ですねぇ...」

さて、その頃レナとシューゴ達もつもる話に花を咲かせていた。
「しぃかぁし、みんら(な)ぁ、ひさぁしぶりだぁなぁ!」
シューゴは調子に乗って酒を一気に飲みすぎたため、ローライの小細工の餌食になっていた。
「なに?シューゴ。さっきからなんか話し方がおかしいわよ? なんで?」
あと少しでシューゴの素早さが尽きる、といったところでミレイユがやっと気がついた。
「あぁぁ!! 駄目!レナ、シューゴからグラスを取って!!!」
レナがジャストのタイミングでスクリュードライバーの入ったグラスを持ち上げたため、
グラスを取ろうとしたシューゴの手はすっ、と空を切った。
凰花が半ば呆れて言った。
「本当に酔っ払っているみたいだな。 リアルでも飲んでいるんじゃないか?」
ミレイユが断定的に答えた。
「...どうもこのお酒、酔えない代わりに素早さが下がるみたい。待って。今治すから」
レナもほとほと呆れて、すでに眠り切ってしまっているシューゴを支えようとはしなかった。
「まぁまぁ。こんな所で魔法使うのもおかしいし、寝ちゃったし、このまま放っておこうよ。」
もっともこの時、リアルの世界のシューゴは寝ている訳ではないが、どうやら素早さのステータスが
下がりすぎたために、制御が不能になっているようだった。 もはや今のシューゴはNPCと変わらない。
いや、シューゴと違って動いてくれる分、NPCの方が良いのかもしれない。

そんな風に各々がそれぞれなりに楽しんでいた時、突然奥からわあっと歓声が上がった。
「あ!イベントが始まる!行くよっ!」
ミレイユが猛スピードで席を立ち、後から(シューゴを除いた)メンバーがついて行った。
奥の壇上にタキシードを着た男がスポットを浴びて一人立った所だった。
「皆さん、ようこそエイト・ダストパンへ。そしてようこそ『美しき魅惑の楽園』へ。
それではこれより、新エリアオープン記念イベントを行います。
魅惑の楽園限定のアイテム狙って、皆さんがんばって下さい。
それではイベントに先だって、このエリアの主任、第3開発室長のローライ氏に一言いただきます。」
早速、壇上に一人の男が現れた。しかし実はその男はローライではなく、リヨンドだった。
「えぇ。皆様、申し訳ありません。第3開発室プログラミング部長のリヨンドです
ローライ氏は今ちょっとまずい状態....あぁ!ちょっと、室長、無理に上がっちゃ駄目ですって!」
一人、見るからに酔っ払った男が舞台に上がろうとしていた。
「いや何、大丈夫。うん。 あー、私が室...@★#%■?●$&▲○◎*」
「わぁ!!室長!!」
酔っ払った男はその場でへたりこんでしまい、そのまま寝てしまった。
まさに、自分の小細工で自分の首を絞めてしまったのである。
『そこがバルムンクさんに似ているんです』とは後のローライの言葉だ。
こうして、少々のアクシデントこそあったものの、イベントが始まった。
「それでは今回の目玉景品。1等を当てた方にはCC社公認でセミ・オーダーメイドの
防具をプレゼントいたします!」
会場が歓声に沸いた。ミレイユとて例外でなく、今にも貧血を起こしそうなほど目を血走らせ、
アイテムを狙おうとしている。
「では始めましょう。皆様お手元にカードが届きます。お判りですね、ビンゴを開始させていただきます。」

十数分後、ミレイユの興奮は頂点に達しようとしていた。
カードを見ればトリプルリーチ、一発来れば1位確定目指すは景品唯一つ。
「次の番号は、13番!」
「!!!!!ビンゴ!!!!!!!」
間発入れずミレイユが叫んだ。
「出ました!当たりです!!」
横にいたレナ、HOTARUや凰花までも倒しそうな勢いでミレイユは喜びいさんで
景品を取りに行った。

「ね、ね、いったいどんなのがもらえるの?」
席に戻るなりレナが聞いてきた。やっと酔いが冷めてきて動けるようになったシューゴも加わり
皆で商品を見る。
「えっとね...『次の12種類の中から好みのデザインを選んでください
No.1  ワンピース
No.2  チアリーディング衣装
No.3  ボーダー系ファッション
No.4  制服(ブレザー)
No.5  ツーピース
No.6  チェック柄スカート、ストール
No.7  メイド服(白エプロン付)
No.8  作業服
No.9  魔術装束
No.10 和服
No.11 トレンチコート
No.12 ドレス
』だって。なんでこんなデザイン何だろう」
「責任者の趣味じゃないの?」
レナが答えた。
「いや、ちょっと待て...この数といいデザインといい順番といいもしかして.......」
「え、何?お兄ちゃん知ってるの??」
シューゴは慌てて答えた。
「え?あぁ、いや。何でもない。はは、ははははは....」
「シューゴの趣味か?」
凰花がぼける。
「ソレは イヤです。」
思わずHOTARUが突っ込む。
「ははは...はは.....(言えない、絶対に言えないよな、これは....)」
シューゴはただただ、笑ってごまかすだけだった。

次の日、CC社第3開発室長オフィス
ローライが頭を抱えていた。
「あー。調子が悪い。すこぶる調子が悪い。ここまで持続するようなプログラムは組んでいないはずだが...」
あれから一晩たつのに一向に素早さのパラメータが回復する兆しはない。
そのせいでドアのノック音に反応を示すのにも随分手間取ってしまった。
「リヨンドか。入れ。」
「室長、随分調子悪そうですねぇ。」
「いいから。何の用だ。」
「三つあります。一つは今朝室長当てにプログラムが届きました。ノックスさんから。」
「なんの用だ?」
「『昨晩のカクテルはどうだった?ちょっと数字を書き換えておいたんだが。
今ごろ苦しんでいるだろうが、言ったとおり、ウィルスではないから俺の言ったことは
間違っていないよな。回復用のプログラムを送るからステータスファイルを開きなさい』と。」
ローライは舌打ちして机の上に崩れた。
「あの、馬鹿。どうせならもっと早くに送ってくれれば良いものを....」
ひとまず、送られたプログラムで治療し、ステータスが正常に戻ったところでリヨンドが切りだした。
「それから、MW社から著作権料の支払請求書が来ています。」
「うん。それで?」
「最後の一つ。私が担当した景品のプログラムを書き換えたのは誰ですか??」
ローライが少しだけ笑った。
「誰だと思う?」
リヨンドが歩み寄って言った。
「あなたしかいないでしょう?私のもらった計画書では著作権料をとられるような計画はどこにもない!」
ローライが思わず吹き出して大笑いした。
「その通り。じゃあ私から最後の質問だ。私の考えた景品を君はどう思う?」
リヨンドがふてくされたように少し考えて答えた。
「非常に、面白い企画だと思います。」
第3開発室には今日もまた友達同士の会話が広がっていく。

リアルでのシューゴ
「言えない....俺がこのゲームを知っていることなど誰にも...言えない....。」

七色の水、琥珀色の水Fin.

後書き
えぇっと、まず純粋なる.hackファンの方、ごめんなさい。
おもいっきりギャグにまとめてしまいました。
とはいえ、私が知っているのは殆ど 腕輪伝説の方ですので、
これからもギャグにまとまっていくのではないかと...。

ちなみにこの小説に出てくるローライは私自身がモデルです。
リヨンドとノックスにもモデルがいるのですけれどね。

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