古文(いにしえのふみ)〜現代版竹取物語4
「走れ!」
………バタバタバタ………
廊下を走る騒々しい音が教室に響いてきた途端、ドアの横に据っている生徒が、
すっ、と一歩引いて身構えた。
朝のHRの最中であるにもかかわらず、である。
数週間前に、ドアに押し潰されてえらい目に会って以来、その教訓からか
人一倍廊下の足音に気を使うようになってしまった彼。
しかし、ぴたっ、と足音が止んだ事に安心し、彼は自分の席に戻った。
ドッチャン!!
その刹那。
哀れにも気を緩めた彼の体の上に、見事にドアがプレスされ、
彼は床に顔をいやというほど打ち付けられた。
「...せ、先生...。」
ドアをどかどかと踏み付けながら教室に飛び込んできたのは、薊。
下敷きにされた子は、文字通り‘ぐう’の音も出ない。
「だーめ。遅刻。 はい、あと1回遅刻したら、遅刻指導だからね。」
あくまでも冷たく、担任は薊に言い放ち、出席簿の記号を“遅刻”に書き換えた。
薊は渋々、自分の席についた。
「ね、薊ちゃん。遅刻指導って?」
ひそひそと、隣に座っていた竹美が、薊に声をかける。
「この学校、5回遅刻する毎に1回指導があるのよ。生徒手帳の校則を書き写させられるの。」
「うわぁ、やだな。」
「でしょ? 指導だけは受けたくないんだぁ。」
声をひそめての会話も、HRを中断されてちょいと虫の居所が悪くなった先生には耳ざとく聞こえる。
「そこ!静かに!!」
言ってから、竹美だと気付いたのか、担任はそれ以上なにも文句は言わなかった。
薊は舌を出しておどけてみせてから、席に座り直した。
扉の下敷きにされた生徒のことは、誰も覚えていない。
「いやー、扉の前でブレーキかけたとき、鞄が落ちちゃって。一旦止まって拾ってたのよ。」
「それで、足音が止まったわけか。」
行動には出さず、圭は心の中で被害者の少年に合掌を捧げた。
ドアに押し潰された少年は、幸いにも鼻血だけで事なきをえて、
竹美・薊・圭の3人が連れ添って、先ほど保健室に連れて行った所だ。
「でも、先生もちょっとひどいと思わない?」
「何がさ。」
「今日、私が遅刻した、って言ってもたった2分よ?」
「まぁ、そうだね。」
「ねぇ、竹美?この間竹美が遅刻したとき、何分遅れだった?」
この間、とは勿論、先ほどから話題に上っている、哀れなる少年の記念すべき第1回目の被害を出した
あの日である。
「えっと...3分だったかな。」
「でしょう??なんで3分遅れた竹美がセーフで、2分遅れの私がアウトなのよ!?」
廊下に響く荒げた声に、驚いた生徒がぎょっとして立ちすくむ。
「まぁまぁ、興奮しないで。」
「だって、納得いかないじゃない!」
なおも響く荒れた声に、廊下にいた生徒は一目散に消えていった。
「ほら、血圧上がるよ?」
圭の言葉に反応して、薊は若干落ち着きを取り戻した。
「腹が立つったら...。おかげで私はあと1回で指導よ? 差別にも程があるわ。否、区別?分別?」
「「分別??」」
きれいにそろった二人の声が薊へと向けられる。
「それくらい、ひどいって事よ。 こうなったら、一芝居打ってみますか。」
薊の顔に、どす黒い笑みが浮かび上がった。
数日の後。
………バタバタバタ………
廊下を走る騒々しい音が教室に響いてきた途端、ドアの横に据っている生徒が、
すっ、と一歩引いて身構えた。
朝のHRの最中であるにもかかわらず、である。
数日前に、ドアに押し潰されてえらい目に会って以来、その教訓からか
人一倍、ますます、これ以上ないという程に廊下の足音に気を使うようになってしまった彼。
しかし、ぴたっ、と足音が止んだ事に安心し、彼は自分の席に戻った。
ガタン!!
その刹那。
開いたのは自分の隣にあるドアではなく、もう片方の扉。
しかも、ドアもはずれなかった。
「せ、先生!ごめんなさい...」
肩で息をして飛び込んできたのは、竹美。
「い、急いで来たんですけど...間に合いませんでした...。遅刻...ですよね?」
時間は、本鈴より1分ほど。 遅刻にするには、実に微妙な時間。
担任は出席簿を前に、わずかに考えこんだ。
「...まぁ、見逃そうか。 このくらいで竹美ちゃんに嫌な思いさせる気は毛頭ないし...。」
ドアの横にいる、あの生徒は、この話に気をとられ、肝心な事を忘れていた。
次の瞬間。
グワッシャ!
言うまでもなかろうが、犯人は薊。
「せ、先生!ごめんなさい...」
薊は踏み外したドアをものともせずに前へ進んだ。
「...遅刻...です...か?」
“あたり....”まで、担任の口からは出たが、その先を告げることを、阻まれた。
ついと視線をずらすと、そこにはうるうると目に涙をためて、
某消費者金融CMで大人気のチワワさながらの表情をした竹美。
「先生、私に嫌な思いをさせる事はしないんですよね?」
竹美の言わんとする事を察知した担任は、うっ、と言葉に詰まった。
1分ほど、そのまま膠着状態が続いて。
「.....わかった。 わかった。 今日は見逃す。」
...薊の、作戦勝ち。
ちなみに。
今日の朝、寝坊することもなく二人が起き、遅れることなくいつもの待ち合わせ場所にいた事は、
圭のみが知っていること。
この担任、しばらく生徒に遅刻をつけるのが怖くて出来なかったそうな。
「....竹美ちゃん、薊ちゃん...折れた前歯の治療代が請求されているんだけど、これ...(汗)」
「「気にしないで下さい♪」」
走れ! Fin.
後書き。
ごめんなさい、バカ話で...(汗)
遅刻ネタが妙に原作者に評判よかったんでつい(笑)
某消費者金融、皆さんおわかりですね。‘どうする〜ア○フル〜♪’でお馴染み、ア○フルです。
尚さんはこの後、泣く泣くここに駆けこんだかどうかは、定かではありません。
ご想像にお任せいたします。
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