白ふくろうが運んだ事実 後編
翌日、僕は目覚ましに頼ることなく、早くに目がさめた。
準備は前日に済ませてしまって、別段することもない。
しかしさすがに寝起きの状態で授業に挑むわけには行かないのでこの際起きてしまおうと、
重たい体を上げた。もう一度寝てしまうと時間通りに起きる自信がない。
服を着替え、鏡台の前でブラシをかけていると、隣の部屋で何やら音がする。
残りの二人もやはり目が覚めてしまったようで、客間にはコーヒーの香りがただよっていた。
「おはよう」
机にあった3つめのコーヒーカップを手に取って熱い液体を喉に流し込むと、眠気が一気に抜けた。
「授業は、なんとかなりそうかな?」
なのはな日和君が聞いた。片手に日刊予言者新聞なんて持っていて、端から見れば一丁前の魔法使いに
見える...のかもしれない。
「大丈夫。3人もいるんだし、なんとかなるさ。昨日決めた通りでいこう。」
授業開始の時間になった。僕ら3人は道具を揃え、片手を重ね合わせた。
「授業を!」
「「「成功させよう!!」」」
僕らは揃って教室に向かった。
今回授業を行うのは「闇の魔術の防衛術」で使われている教室。
マグル学の教室では少し狭い、という理由でこの部屋が選ばれた。
ロックハート先生も下っていった階段を3人で降りながら真面目な顔で授業を聞こうとする
たくさんの生徒達の前に立った。ダンブルドア校長他数人の先生も見に来てくれている。
ハリー達3人は最前列の目の前に座っている。少し手伝ってもらうつもりなので優先して前に来てもらった。
少々ざわついている生徒に僕は手を2回高らかに叩いて静めた。
〜1時限目 電気情報学 N.Y.City〜
「それでは、皆さん。まずは私、N.Y.Cityから電気と情報について授業をします。
しかし、まずその前にハーマイオニー、君の羽ペンを教卓の上に置いてくれるかな?」
ハーマイオニーはペンを手に取って立ち上がろうとした。
「おっと、ハーマイオニー。私はぜひとも君の浮遊術を見てみたいんだけど。」
ハーマイオニーは怪訝な表情を見せたが、杖を出して振った。「ウィンガーディアム・レヴィオーサ」と。
羽尾ペンは軽々と宙に舞い、真直ぐ前の教卓に向かって飛んできた。
しかし、そのペンが教卓の上に来た瞬間、ペンは突然落下して机の上に落ちた。
ハーマイオニーが慌てて杖を振るう。しかしペンは微動だにしない。
「ありがとう、ハーマイオニー。」
慌てるハーマイオニーを静めて僕は話し始めた。
「今見た通り、この教卓の周りは全ての魔法力が消えるように結界が張られています。目的は二つ、
一つはマグル界の装置が魔法力に干渉されて誤作動する事を防ぐこと。そしてもう一つは
魔法というすばらしいエネルギーがマグル界で全く使われていない事を証明するためです。
この結界はダンブルドア校長先生が張って下さいましたから、効力は確かです。」
僕は教卓の上のペンをとってハーマイオニーの手に返した。
「ありがとう。驚かせちゃったかな。」
ハーマイオニーが少しむくれた顔をしている。ロンもその様子を見て思わず肩をすくめた。
「後で、もっと色々な魔法術を見たいので、その時にお願いしましょう。 それでは授業を始めます!」
真剣な目と耳がこちらに向いているのがわかる。僕は咳払いを一つして、
横に置いてある電池と電球をコードでつないだ。勿論、電球が光る。
「ハリー、電気って何だと思う?」
しばらくハリーは考えてから答えた。
「エネルギー、ですか?」
「素晴しい。人間は電気をエネルギーとして考えます。そして全てのエネルギーは相互に
変換出来ると考えている訳です。電気そのものは物質中の電子の流れがその正体ですが、
装置によって運動エネルギー、光エネルギー、熱エネルギー等に変換出来ます。
今皆さんが見ているのは電気を光と熱に変換している訳です。これとは逆に光や熱等から
電気を生み出すことも出来ます。勿論、全てのエネルギーに変換することは出来ないのですが、
机上論では全てに変換できるのです。」
手始めの電球から次々と、“魔法ナシ”のお墨付をもらった道具が鮮やかに披露されるのを、
皆、興味津々といった面持ちで見てくれた。特に、コンピュータが瞬時に計算結果をはじき出すのにも、
また、ただの計算にとどまらず、ありとあらゆる処理を高速にこなすさまには、感嘆の声が上がったほど。
僕の授業はあっという間に終った。さすがにこの短い時間では教えたい事のほんの少ししか教えられないが、
少しでも、楽しく思ってくれたのは嬉しい。
「それでは、次はなのはな君。電車の授業ですよ。」
いつになく緊張した面持ちでなのはな日和君が前に立った。
〜2時限目 電気応用・電車 なのはな日和〜
「皆さん、電車はご存じですよね。日本は世界にも類を見る正確さで、それも大量に電車を運行しています。
電車の運行は秒単位、10秒も送れたら定時着とは言いません。
東京都心の通勤電車など、3分遅れたらダイヤは大混乱と言えるでしょうね。勿論、通勤電車のみならず、
日本には世界にも類を見ない高速鉄道、新幹線が走っています。
現在、新幹線の最高運用速度は310km/h、そんな速さの列車が東京では30分ごと位に発車しています。
これほどの規模で高速鉄道を運行しているのは大変に珍しいのです。しかも、大きな事故はほとんど
発生していないと言っても良いでしょう。
先ほど、通勤電車の話をしましたね。通勤電車が一番混雑している時間帯は朝の通勤時間です。
さあ、だいたいこの時間帯の乗車率は何%ぐらいでしょう?乗車率はおおよそ乗車人数÷定員人数
で計算されます。山手線の場合、1編成の定員はおよそ2000人と考えてよいでしょう。じゃあ、ロン。」
突然あてられたロンが困った顔をしつつも考え始めた。
「150%ぐらい...かな?」
「150%ぐらい?残念、大はずれです。関東で一番混んでいるのは山手線上野〜御徒町の間、
時間は朝8時頃から9時頃まで。乗車率は237%です。」
予想以上の数値に、教室にどよめきが走る。 イギリス他、他の国ではまずありえない数字だ。
「1編成の定員を2000人とすると4740人。わかりやすく、ホグワーツ特急のコンパートメントに
換算してみましょう。定員は4人。ハリー、コンパートメントに何人入る事になる?」
「4×2.37は..9.48人、か。」
「そう。到底考えられない数字だよね。ではこの区間だけ飛び抜けて混んでいるのかというとそうでもない。
2位から5位まで、乗車率は上から235%,234%,231%,228%。なんと5位でも200%を超えています。
じゃあ、これだけ混んでいたら中の人はいったいどうなると思う?」
潰れちゃうよ!という声が上がった。
「うーん、そこまでは酷くないかな。混雑率200%で、かろうじて雑誌が読める程度と言われています。
230%では読むのはちょっと辛いかな。慣れない人は全く身動きがとれないでしょうね。
電車が揺れたって皆一緒に斜めになるから転べない。最近は本腰を入れて混雑緩和を目指しているんです。」
「よく、そんな電車に乗ってられますね。僕なんか、とてもじゃないけど乗る気になれない。」
誰かがあげた声に、共感のどよめきが広がる。
「...日本人の人間性でしょうね。そこのところは、私でなく、この後のありあさんの、担当。」
上手いこと次の授業に話を続け、割れんばかりの拍手に包まれ、なのはな君が教壇を降りた。
〜3時限目 日本文化 ありあ〜
「日本人のイメージってどんなのかな?誰か、言える人はいる?」
ぱらぱらと手が上がり、指名された男の子が少し、まごつきながらも答えた。
「眼鏡をかけて...時間通りに、仕事ばっかりしている...かな。」
言われたことをありあさんが素早く手元の紙に走り書きする。
「旅行の時ね、必ずカメラもって、写真撮ってる。景色を見るより、写真を撮る時間のほうが多いかもね。」
ありあさんとなのはな君が一斉にN.Y.Cityを見た。
「...おいおい、いくら僕が写真をやっているからって、僕を見なくたっていいじゃない。」
「いや、君だね、絶対。カメラを下げて、あちこち見回す眼鏡をかけたオジサンなんて。」
なのはな君がにやにやと笑いながら言った。
「おい、誰もオジサンなんて一言も言ってないぞ。なぁ?」
そう言いながらありあさんに助けを求めても、ありあさんは助けてくれない。
「イメージ通りじゃないの?ほら、みんな笑ってるし。」
たしかに、言われて見れば授業を聞いている皆がそれぞれ微妙に笑い出している。
「だからって..あんまりだよなぁ、ハリー?」
ハリーはしゃあしゃあと、あっさりと、冷たく答えた。
「No comennt.」
「ハリーまで...。」
「他には?何かある人...じゃ、君。」
僕の嘆きも空しくかわされ、授業は先へ。
スシ、テンプラといった料理の事から日本史、政治に生活まで。出てくる出てくる、
その答えを一度に言うには時間が足らないほど。
それでも、活発にディスカッションは続いた。
「日本人が時間に厳しいというのは本当ですか?」
「昔からよく日本人は時間に厳しいと言われているね。私たち日本人からしたらそんな実感はないけど、
世界からみるとかなり厳しいようですね。ロン、例えばハリーと出かける約束をしたとする。
中庭に正午集合としようか。ハリーが何がしかの理由で10分遅れたとする。ロン、君は怒るかい?」
ロンは即答した。
「怒らない。たかが10分くらいじゃあね。」
「なのはな君、君がロン、僕がハリーなら?」
なのはな君がまじまじとN.Y.Cityを見た。
「考えやすいね。君、似てるから。」
まったく焦点のずれた解答に思わず転びそうになりながらも、N.Y.Cityは続けた。
「いいから!どう思う?」
「...ちょっと、小言くらいは言うだろうね。小言では済まないかな?」
N.Y.Cityが前を向いた。
「ま、これは国民性なんでしょうね。」
ぶつぶつと、余計なことを言いそうになるなのはな君を、
僕は無理やり話を終らせることで斬り捨てた。少しは、仕返ししないとね。
こうして授業は無事、終った。
はたしてこれが授業と呼べる代物なのか、自分達には判断しかねるが、
まぁ、生徒達にはすこぶる好評だったようなので、よしとしよう。
教壇から降りる3人をハリー、ロン、ハーマイオニーの3人も立ち上がって送ってくれて、
改めて、僕達は皆の温かさを実感した。
授業が終わって1時間もした頃、僕らはもう荷物をまとめていたんだ。
名残惜しいことこの上ないけど、これ以上長居すると時間を戻したときの危険が大きすぎる。
ハリー達が、外まで見送りに来てくれた。
「みんな、ありがとう。授業にならなかったかもしれないけど...楽しかった。」
「ありがとう。」「ありがとう。」
お互い、極力明るくふるまっていた。
もうまもなく、時間が戻される。
時間が戻ったら、また日本までの長旅だ。
「こちらこそ、楽しかった。ありがとう。N.Y.City先生?なのはな日和先生?ありあ先生?」
ハリーが前に出て言うと、さらにそのまま続けた。
「今度は、私たちが会いに行きますから...」
さよなら、とは言わなかった。
ハリーの最後の言葉を信じて、ぼくらは、ただこういった。
「また、今度。See you again!」
そうして、時間の流れに逆らう旅に向かったんだ。
また、いつもと同じ日常が始まった。
Fin.
後書き
長々お待たせしました。(待っている方がいれば、ですが。)
完結しました。
いや、小説そのものは大分前に完成していたんですが...アップできなかったんです...m(_ _)m
しかも、なかなか書きにくくて、かなりぎこちない文章に。
すんません。
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