白ふくろうが運んだ事実 中編
「電気の方で必要なのは電池、電球、コード、ソケットに...コンピュータについては電卓..いや
パソコンだな。」
校長室で信じられない願いを受けてからしばらく後、僕らは早速授業の準備にかかっていた。
テーブルに先生に用意してもらった紙を広げ(と言ってもやっぱり洋皮紙だ!)
慣れぬ羽ペンにせっせとインクをつけて話し合っていた。
「電車の解説は...どうしよう、実物を持ってくるわけにもいかないし..。」
「模型を見せて、仕組を説明するしかないんじゃないの?」
「だな。じゃあNゲージ基本セットと車体は動力車が2台に...文化の授業はどうする?」
「文化っても範囲が広すぎるよね。何か話すってもなぁ..。」
「いっそ、3人で質問に答えるってパターンは?」
「あ、それいいかも。じゃあこっちは特に用意するものは...」
「何冊か資料を用意しておけば?」
「いいね。そうしよう。」
あっけらかんと決めているように見えるかもしれないが、
本人いわく教える内容や説明には相当苦心したらしい。
そうして机の上の洋皮紙が埋って来た頃、控えめにドアが叩かれた。
「お客さんじゃ」
ドアを開けるなりそう言って微笑むダンブルドア校長先生。
そしてその後ろには初対面の、でもよく知っている3人がいた。
今にもこちらに飛び込んで来そうな顔でこちらを見つめている。
「どうしても、会いたいって頼みこむもんだからな。ま、喉も渇いたころじゃろうて、
アフタヌーンティーと洒落こんだらどうじゃ?」
言われた通り、確かに後ろには香り高い紅茶とクッキーが用意されていた。
僕ら三人は言うまでもなく3人を大歓迎した。
陶器がふれあう音を立てながらありあさんが手際よく紅茶を入れていく。
その澄んだ音は間違いなくそのカップが一流の物であることを示し、
その優雅な香りは間違いなくその紅茶が一流の物であることを示していた。
僕は全員が席についた事を確認してから、僕らは簡単に自己紹介をした。
僕ら3人は突然の訪問者に緊張気味だったけれども、ここで緊張していたらとてもじゃないけど
教壇に立つことはできない。
こちらの紹介が終わると、訪問者3人が自己紹介を始めた。
そう。そこにいるのは紛れもない、Mr.Potter,Mr.Ronald,Miss.Hermionyその人だった。
「えっと...この中でマグル学をとっているのは?ミスターポッターとミスターロナルドでしたっけ?」
「ハリーで結構です。Mr.N.Y.City。」「僕もロンで結構です。」「私も呼び捨てで結構です。」
なんだか自分らに敬語で話されるのが気恥ずかしく思えて来る。
「では、私たちもそのまま呼び捨てで構いませんよ。皆さんは私たちの講義は聞きに来るのですか?」
ハーマイオニーが即答した。
「勿論です。こんな機会、滅多にありませんから。私は両親ともマグルですが、電気に関しては
専門外の事であまりわかりませんし、遠い日本の事もはっきりとは..。」
ハーマイオニーは想像通り、語頭の母音をはっきりと発音するクイーンズイングリッシュ
で、きっぱりと会話を進めた。
なのはな日和君が口を開いた。
「いくら先生といっても、私達は突然呼ばれただけですし、歳もそれほど離れてない。
どうぞ、敬語でなく普通に話してください。」
確かに。このままだと何だか立場に格差がありすぎる様で話しずらい。
ありあさんもこの機会を逃すまいと話に入って来た。
「日本文化についてはどんな事を聞きたい?」
ハリーが答えた。
「昔からの料理とか、そんな事も聞きたい。教科書や本に乗っているような事だけでなくて...」
「あと、仕事。日本の人はどうしてあんなに働くのかな?"Oshiya"って呼ばれている仕事もあるぐらいだし」
Oshiya...オシヤ?なのはな日和君とありあさんが首をかしげているとき、僕は思い出した。
「あ!押し屋だ!ラッシュの時の日本の車掌を形容して言う言葉。」
押し屋...日本の通勤ラッシュの時に、ドアからはみ出そうな人を中に押し込めるシーンは
東京では毎朝見る。特に山手線などは乗車率200%ぐらいになることもあるらしい。
そっか...。イギリス等他の国ではそんなになるまで電車に乗せないし、乗せる必要もない。
うん。これはいい授業内容かもしれない。そう言うとなのはな日和君は急いで先ほどの洋皮紙に書き残した。
僕らは時間も忘れるほど、話し込んだ。窓の外ではもう昼間の太陽がさんさんと降り注いでいた。
突然ドアが叩かれ、ドアを開けるとそこにはまたダンブルドア校長がいた。
「いや、すまんすまん。一つ伝えねばならぬ事を忘れとった。 今日の夜、君達3人の
歓迎パーティをやることになった。」
僕は慌てた。だって、パーティと言っても僕らは礼装も持ってきていないのだから。
いくら何でも歓迎会を開いてもらえる以上、主賓が普通の服では申し訳が立たない。
ダンブルドア校長先生はそこまで見通して、次の瞬間には僕らを喜ばしてくれた。
「と、いうわけで、御三方は今日中に服を用意せねばならんだろう。急いで
ダイアゴン横丁で一張羅を仕立ててきなさい。あぁ、代金は気にしなくてよいぞ。
こちらでちゃんと払ってあげるからな。」
ふと、視線を下げるとハーマイオニーが何か物欲しそうな目で校長先生を見上げていた。
ダンブルドア校長先生は苦笑した。
「よしよし。確かにあそこはわかりにくいからな。君ら3人も一緒に行ってあげなさい。」
「でも特急の時間が...」
僕は言いかけてロンが僕の袖を控えめに引っぱっているのに気がついた。
そして振り向いた僕を視線で誘導した先では.....赤々と火が燃えていた。
ダンブルドア校長が粉を自分に差し出した。
僕は説明を聞くまでもなく、するべき事を全て理解していたから、
暖炉に煙突飛行粉(フルーパウダー)を少量投げ入れ、
意を決して僕は暖炉へ入っていった。 煙を吸い込んでしまうことのないように先に空気を吸っておき、
吸い込む間もないくらいの勢いで叫んだ。
「漏れ鍋へ!」
その刹那、僕は平衡感覚を失った。
上って行くかと思ったら今度は下へ。右へぶれたら次には左へ。
前へ傾いたら1回転し...もう自分は平衡を保つ努力をやめた。
どのみち無駄だ。もうどっちが上だかわからなくなっている。
僕は感覚が示す無茶苦茶な位置情報に身を任せた。
突然、僕はドシンとどこかに尻餅をついた。思わず小さく呻いてしまったが、すぐに目を開けて
周りを確認する。 暖炉の中だ。つまり少なくともどこかには到着した事になる。
問題は自分がどこの暖炉についたか。急いで暖炉から外に出た。
しかし、まだ平衡感覚がなく、前を見ようにもぐるぐると目が回っていて確認できない。
しかし、かろうじて自分が今出てきた暖炉から後続のメンバーが出てきた事は確認できた。
大丈夫。行き先は間違っていなかった。そう確信した僕はまだ回る目を手で押さえ、
感覚の回復を待った。
もう大分収まったと思って目を開けると、ハリー達3人が心配そうに覗き込んでいる顔が
目に飛び込んできた。びっくりして飛び起きて見たがなんの事はない。慣れていない僕達3人の
回復が遅かったので、心配していてくれただけのようだ。
なのはな日和君にありあさんも完全回復とまでは言えないものの、歩ける状態なので
僕らはやっと、歩き出すことができた。
トムに挨拶をしながら、裏庭に抜け、ハリーが壁を叩いた。
目の前に広がったダイアゴン横丁は沢山の人でごったがえしていた。
僕ら6人は皆黒いコートを着ている。胸には臙脂(えんじ)色と金色の刺繍が入っている。
そう。まさしく僕が着ているのはグリフィンドールの制服に指定されたコート。
外の寒さと、外に出ている今もホグワーツの目が行き届いていることをよからぬ魔法使いに示すためだ。
見慣れない子供が制服を着て、しかもハリーポッターと一緒に歩いている。
これではとにかく人の注目を集めてしまうが、このさい仕方がない。
「マダム・マルキン洋装店」にはもうすでにふくろう便で連絡がいっていたので、
入るとすぐにサイズを見てビシッと格好いいグレーのスーツを用意してくれた。
なのはな日和君にはブルーがかった黒のスーツを、ありあさんには落ち着いたベージュのスーツ。
どれもこれも目を見張る一級品ばかり。 そうして、僕らは服を受け取って店を出た。
「ね、ハリー?」
きょろきょろと物珍しそうに周りをみるなのはな日和君とありあさんを見かねて、
僕はアイスを食べないかと誘った。
ハリーはあまりにも自分の事をよく知っている僕に驚いたみたいだけど、次の瞬間には
笑って答えてくれた。
「ナッツ入りのチョコレートとラズベリー・アイス、だね。」
そうしてちょっとだけ、ちょっとだけ寄り道をしていたら、結局最後にはかなり大急ぎで学校に戻ることに
なってしまった。
学校に戻るとハリー達3人と一旦わかれ、僕らは直ぐに 買ったばかりの服に袖を通した。
程なくして3人がいままで見たことのないような格好で揃い、
恥ずかしくてお互いにくすくすと笑いながら、ハグリッドの案内で僕らは大広間に向かった。
中に入ると、うわぁっという歓声に部屋が包まれた。それこそ圧倒されそうな量の声が聞こえてくる。
その中に、クリスタルの澄んだ音色が響き渡った。とたんに全ての生徒が静かになる。
ダンブルドア校長が手元のグラスを叩いた音だとわかった。
「それではこれより、今回の特別授業を受け持って下さる先生を紹介しよう。
遠く日本から来て下さった。若く、君達と歳の近い先生じゃ。いろいろ質問もしやすいじゃろうて、
今度の特別授業はぜひとも見に来るといい。」
ダンブルドア校長が席に着くと、マクゴナガル副校長が続いて立った。
「それでは3人の先生をご紹介いたします。 Professor N.Y.City!
Professor NanohanaBiyori! Professor Aria!」
各々の名前が呼ばれる度に盛大な拍手が会場を包んだ。僕らはそれぞれ席から一礼して、
その声援に答えた。
「それでは、先生方から挨拶をいただきましょう。」
え、挨拶?! 予想外の一言に僕は少々まごついた。 しかし、ここはぐっとこらえて
落ち着いて、僕らは段上に立った。
「えぇ、始めまして。N.Y.City です。今回の授業では『電気情報学』を担当します。
本当に、本当に簡単な基礎を教えますが、みなさんに十分興味を持ってもらえる授業にしたいとおもいます。
歳もそれほど離れていませんから私も、そして残りの2人もどうぞ敬語など使わずに話してください。」
「始めまして。なのはな日和と言います。『電車』の授業を担当します。
日本の電車技術は世界でもかなり上の技術を誇っていますから、こちらも興味をもって
楽しんで、授業を聞いてもらえると思います。 よろしくおねがいします。」
「ありあです。先に挨拶した2人と一緒に『日本文化』を教えます。
皆さんの日本に対するイメージという物に私も非常に興味がありますから、遠慮せずに
どんどん発言して活力ある授業を作って下さい。」
いつまでも止むことなく拍手と歓声が部屋を包んでいた。
歓声の中にダンブルドア校長の声が割って入った。
「さぁ、皆、宴の始まりじゃ! 楽しみなさい!」
一際大きく声高く宣言すると、パン!と手を一回叩いた。
その刹那、まるで映画でも見ているかのように、目の前の皿に端から順に豪勢な料理が並び、
いっそうその場が華やいで見えるようになった。
僕らはしばし、時間を忘れて美食を楽しむ事が出来た。(勿論マナーには十分に注意して。)
空腹が満たされると、僕らは心地よい満足感に包まれていた。
相変わらず、楽しげな空気が大広間に流れていて、かねがねここの生徒達と親睦を深めたいと思っていた僕は
突然ある名案を思いついた。
他の二人にもこっそり耳打ちし、そんな僕らの様子を見て何か察したように聞き耳をたてた
ダンブルドア校長にも、こっそりと耳打ちし、快諾を得た。
まず僕らは一番なじみ深い“友”にあうためにグリフィンドール寮の席へ向かった。
「ね、3人ともさ、歌は歌える?」
僕の質問にロンが答えた。
「いいよ、何を歌うの?」
今度はなのはな君が言った。
「君たちはマザーグースを歌う。Twinkle,Twinkle Little starさ。」
ありあさんが続けた。
「その後、日本語で私たちが歌うから。皆が知っている曲を歌いたいの。
その後、日本の曲をいくつか歌えたらなって思って。」
ハーマイオニーが嬉しそうに言った
「おもしろいじゃない!!やりましょう!」
ハリーも協力してくれた。僕はその場に立つと、手を振ってダンブルドア校長に合図を送った。
フリントウィック先生がクッションの上に精一杯背伸びをして、まるで緩やかなワルツを指揮するように
腕を振った。かなり遠いが、僕にははっきりと呪文が聞こえるようだった。
『ウィンガーディアム レヴィオーサ』と。
その刹那、僕達6人は空中に舞い上がった。ハリー達3人は椅子ごと浮き上がり、僕ら3人には向こうから
自分に向かってジャストのタイミングで椅子が飛んできた。おかげで僕は恐怖を感じる前に
椅子に座る事が出来た。
他の生徒達は突然のこのパフォーマンスにやんやの喝采を送った。
上から見ると各々の顔がよく見える。僕が見る限り、その誰もが皆、温かい視線で僕らをみてくれていた。
その視界の隅で、ダンブルドア校長が杖を振るうのが見えた。それが僕が頼んでおいた合図だった。
6人の椅子は中心を向いて円を組み、ゆっくりと回っていた。
他の5人に目線で合図をした。右手で拍子を切り、振り上げた腕を下に降ろす。
まずは3人。
Twinkle, twinkle, little star,
How I wonder what you are!
Up above the world so high,
Like a diamond in the sky.
"When the blazing sun is gone,
When he nothing shines upon,
Then you show your little light,
Twinkle, twinkle, all the night.
Then the traveller in the dark,
Thanks you for your tiny spark,
He could not see which way to go,
If you did not twinkle so.
In the dark blue sky you keep,
And often through my curtains peep,
For you never shut your eye,
Till the sun is in the sky.
As your bright and tiny spark,
Lights the traveller in the dark,
Though I know not what you are,
Twinkle, twinkle, little star."
自動演奏を始めたハープが美しい伴奏を響かせ、その中でも
口先に紡がれた言葉が何の苦労もなく部屋のなかに響き渡る。
先ほどの合図でダンブルドア校長が魔法をかけてくれたからだ。
残りの僕達はさらに続けた。
「またたく星よ きらきら星よ
あなたのうちは おとぎのうちよ
光りのはなが よごとにひらく
またたく星よ きらきら星よ
遠くのほうで 近くのほうで
あなたは呼ぶよ にこにこ顔で
またたく星よ きらきら星よ
世界の人の 希望がかよう
みんなの夢も わたしの夢も」
曲が終ると、一瞬の静寂の後、また喝采がおきた。
僕らはその後、お互いの国の曲を幾つか交互に歌いあった。
こうして、突然の歓迎会は、突然の思いつきの、突然のパフォーマンスで突然盛り上がり、
突然、生徒との交流を深める結果となった。
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