白ふくろうが運んだ事実
『生き残った男の子 ハリーポッターに乾杯!』
僕は分厚い本にしおりを挟んでパタンと閉じた。
僕の名前はやま...いや違った、N.Y.Cityとしよう。
コンピュータという理工的な趣味を持ちつつ小説を書いたり音楽をかじっていたりする
工業高校生。現在2年生。
本を閉じて。いつもするように深呼吸を一つする。
小説の世界に引き込まれていた頭をリセットするためにいつもやっていることだ。
そんな時、コンコンと何かを叩く音がした。ドアを叩く音かと思ってドアを見るけれども
誰も入って来る気配がない。あ、全員出かけていたっけ。
再びコツコツと窓から音がする。そこには想像上の世界にしかいなかった奴、
白ふくろうがいた。 想像通り、白地に緑のインクで書かれた封筒を持って。
『拝啓 N.Y.City様
貴殿をホグワーツ魔法魔術学校見学会にご招待いたします。
次の日曜日、宵の口にお迎えに向かいます。』
事態を飲み込むまでの空白の時間の後、手放しで喜びいさんだのは言うまでもない。
日曜日。夜中に家を抜け出して外に出ては見たがいったい誰が、どんな形で向かえに来るのか
何も書かれていなかった。
家の前でどうするのかあれこれ考えてみるがそんなシーンは本に出てこなかった。
まさか空飛ぶバイクにでも乗って来たりして...と空を仰ぎ見ると
東京にしては珍しく明るい星が頭上に見えた。
(へぇ..珍しいな)
しかしどうも動いている様に見える。人工衛星なら赤い光を返すはずだし、そもそも
東京ではほとんど見えない。じゃあ、あれはもしかして...!
空にあった物が何かを悟ると、僕は迷わずに右手(杖腕)を天に掲げた。
するとその星は減速し、かわりにだんだんと大きくなってきた。
降りてくる、降りてくる、降りてくる・・・
予想はあたった。バスが信じられないスピードで降りてきた。
紛れもなく本の世界で読んだ、『夜の騎士バス』だ。
よいしょっと、乗車口のステップに足をかけて始めて中を見渡したとき、そこにいた顔ぶれは
なんとも意外な物だった。
目には談笑しているなのはな日和君、ありあさんが映った。
僕は運転手に招待状を見せると中へ入っていった。
二人とも僕の顔を見つけると隣の席を勧めてくれた。
「二人ともホグワーツ行きかい?」
「おう。招待状来ただろう?」
そういってお互いに招待状を見せ合いしていたが、いざ出発と言うところではたと思い出した。
「...小説通りだとするとこのバスはとんでもない運転をするはずだよな。」
「そ。気をつけたほうがいいよ。」
僕はあわててシートベルトを締めようとして..無いことに気がついた。
バスにシートベルトがあるわけないか。
(どうやって気をつけろというんだ〜!)
そんな心の叫びが届くはずもなく、僕は恐ろしい運転のバスに乗り、一路イギリスへと旅立った。
「大丈夫?」
「あ....うん。ちょっと目が回るけど。」
何ともすさまじいスピードで日本から英国まで飛んだせいでどうも平行感覚がおかしい。
ふらふらする体をなんとか制御し、転ばないようにバスのステップを降りると
そんな不調などはるかかなたに吹っ飛んでしまった。
思いのほか外が寒かったが、その澄んだ空気の中で、僕は身震いをするほどの興奮を味わった。
目の前に悠々とそびえ立つホグワーツ城を見上げたとたんに。
「君達が見学会の参加者かな?」
うしろから低い、若干つぶれた声で呼び止められた。
「「「Mr.ハグリッド!」」」
「いや、ハグリッドだけで結構。では改めて、ようこそホグワーツ魔法魔術学校へ。
私がこの学校の森と鍵の番人ハグリッドだ。寒いな。とりあえず中の大広間まで行こうか。」
こうして僕ら3人は声も出せぬまま、一歩を踏み出した。
重厚な作りの城の中はイギリスらしい教会のようであった。そこここに品の良い彫刻が施され、
ランプの柔らかな光がずっと中を照らしていた。
「さあ、ここが大広間だ。中で先生方がお待ちだぞ。」
これまた大きな木で出来た扉を押しあけるとそこには文字どおり、大きな広間。
そしてその奥にダンブルドア校長以下錚々たる先生が顔を並べ、出迎えてくれた。
「ようこそホグワーツへ。私がこの学校の校長、アルバス=ダンブルドアじゃ。こちらが副校長の..」
「マクゴナガルです。ようこそホグワーツへ、どうぞ、席にお付きになってください。」
てっきり、見学会というから他にも人が来ているのかと思いきや、先生方を除いては
僕達3人しかこの広間にいなかった。
「この時間、生徒は皆寝ておる。あぁ、君達の帰る時間は心配しなくてもよい。
こちらが呼んでしまったのだ。特別に魔法省に逆転時計(Time Terner)の使用許可をもらっておる。
実はだ、見学会というのは表向きで、あぁいや自由に見て行って構わないのだが、
君達に来てもらったのは他の理由でな。」
ダンブルドア校長は実に真面目に話をしたが、
僕らは顔を見合わせた。まさか?ホグワーツが僕ら3人を必要としている???
「そうです。突然で申し訳ありませんが、御三方には、マグル学の特別講師として教鞭を取っていただきたいのです。」
マクゴナガル先生のこの言葉に、僕らはますます耳を疑うばかりだった。
これは夢か?幻か? まさか、そんな事があるわけない。
確かに目の前の世界は存在している。
「まぁ、突然こんな事を言われても驚くだけじゃろうて。今晩はもう遅い。
とりあえず今晩は御休みになってはどうだろうか。N.Y.City殿、なのはな日和殿、ありあ殿。」
「呼び捨てで結構です。ダンブルドア校長先生。」
僕は言った。
「僕もです。」「私も。」
「ならば私のこともダンブルドア先生で結構。あなたがたはもうここの先生だ。気がねすることはない。」
信じられない会話を交した後、マクゴナガル先生が静かに口を開いた。
「他の先生の名前は...わかりますね。ではハグリッドに部屋まで案内してもらいましょう。」
ハグリッドはもうすでにドアに立っていて、ドアをあけて招いてくれた。
「ではこちらへ、N.Y.City先生、なのはな日和先生、ありあ先生。」
僕らは客室に通された。一通りの説明と注意の後、彼は出ていった。
客間と、数室の寝室がある部屋だった。
ひとまず、水さしから水を1杯飲んだが、まだ興奮が収まらない。
しかし、すぐには寝付けず、3人は僕の部屋に集まった。
「何がどうなったんだ?」
「私も訳がわからない。」
「それは僕もだ。」
結局、明日詳しいことを聞いて納得するのが得策だと意見が一致した。
少なくとも、校長先生は逆転時計の利用を許可している。帰りの心配をする必要はない。
3人は各々のベッドに入った。
結局僕は事態を考える暇もなく、横になるとすぐに眠ってしまった。
次の日、目を覚ましたときにはもう夜が白々と明けていた。
客間に出ると、そこではもう二人が朝食をとっているところだった。
呼び鈴を鳴らすと、すぐに自分の分も運ばれてきて、僕は遅めの朝食をとり始めた。
「少なくとも、夢ではないわけだね。」
「うん。冗談事でもなさそうだしね。」
「ということは...本気?」
朝食をとったら校長室に来てくれとのことだったので、食べ終わってすぐに行くことにした。
廊下に出たところでスネイプ先生がこちらに歩いてきた。
「校長室に行くのなら私が案内しよう。いくら我々の事を知っている君達とはいえわかりにくいだろうから。」
僕らは素直にその好意を受け取った。実際この学校のなかは動く階段があったり、奇妙な扉があったりして
普通に動けるものではない。
何も言わずについて行くと、校長室についた。
校長は机に向かって何か物を書いていたようだったが、すぐに手を止めて。迎かえいれてくれた。
「おはよう。よく眠れたかな?」
「えぇ。とっても。それで早速ですが...」
「ふむ、よろしい。確かに一番気になっておるじゃろうて。今回君達に来てもらったのは..」
そうして話されたのは昨日の発言に間違いなく、特別講師として教壇に立って欲しいと言うことだった。
ここ最近、マグル界の技術の発展は目覚ましく、いままで行われてきたマグル学は実用的でなくなった。
特に魔法使いの世界には「電気」という物は使われていない。
しかしマグルの社会は電気を中心に発展を重ねてきたため、マグル学の専門の先生でも教えに困ってきた。
そこで御三方には「電気情報工学」と、その応用として生徒がこの学校に来るときに使っている
ホグワーツ特急のかわりとなっている「電車」、そして「日本文化」...これは
クィディッチ・ワールドカップで日本の『豊橋天狗』が注目を浴び始めているので
日本を知りたいという生徒の希望に応えるため。以上3時限分を教えて欲しいということだった。
しかし、魔法使いでもない人間を魔法魔術学校に招き入れ、まして教壇に立たせるなどけしからん
という考えの魔法使いも少々いる。そこで見学会という形で、この学校に招いた。
敷地に入ってしまえばもう手出しは出来ない。....と。
「お話しはわかりました。でも私たちなんかに勤まる仕事でしょうか..?」
そう聞いたありあさんの質問にダンブルドア校長は笑って応えた。
「私はあなたがたこそ適任だと思っています。大丈夫、あなたの思ったとおりに教えて下さい。
そうそう、この授業は学校の先生も参考にするそうです。必要な物はそろえますから頑張ってください。
ついでに、これは公開授業です。といっても親ではなくて、全生徒が見れる様になっています。」
かくて僕らはホグワーツで教鞭をとるという信じられない事態に立ち向かうことになった。
頭では理解している。これは素晴しく名誉な事だと。しかしその責任の重さに僕らは言葉も出ずに
青ざめた顔を思わず見合った。
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