「風、立ちぬ。」
夏と秋の狭間、ほんのわずかの期間だけ味わえるさわやかな風が、体をくすぐりながら駆け抜けていく。
夏特有の草の匂いを抱えているのに、秋風の涼やかさをもったその風は
誰の身にも心地よく、中庭でくつろぐ人を楽しませてくれる。
ロンもまた、やっと秋風が立った喜びをかみしめている一人だった。
木陰で横になりながら、何をするでもなく、ただのんびりと時を過ごしている。
うとうとと、夢うつつのまま、起きるわけでもなく、熟睡するわけでもなく。
目を開ければ、ロンの碧眼に鮮やかな景色が写る。
...そう、「映る」のじゃなく、「写る」。
なぜなら、視線の向こうにハリーを見つけてしまったから。
ハーマイオニーと、何やら話しているその姿を見た瞬間、頭にその景色が焼き付いてしまったから。
釘付けになりそうな視線を無理にはずして、ロンは目を閉じた。
...自分が、ハリーを密かに想っていることは、誰も知らない。
もとい、知る由もない。
今まで、必死になって自分の心を表に出さないようにしてきた。
人を好きになって、それを自分の中に押し隠すことが、どんなに辛い事か、始めてわかった気がする。
自分の気持ちは、外に出ようとしているのに、それを押し留める。
それはまるで、川の流れをせき止めるダムのようなものだ。
ただちがうのは、人の心はダムほど頑丈に出来ていないこと。
もう、今にも崩れ落ちそうなのに。
ハリーと始めて会ったのは忘れもしない、ホグワーツ特急のコンパートメント。
入学してから数日間は、ハリーの英雄っぷりを見事に僕に見せてくれた。
ハリーが通れば廊下を行く人、街を歩く人、皆が必ず立ち止まる。
確かに友達にはなっていたけど、はっきり言って、僕はあまり良い気分はしなかった。
かたや、世界に名を知られた少年、それに比べて隣の僕のなんと惨めなことか!
だから、僕は心に決めた。 こいつには、いつかどこかでぎゃふんと言わせてやる、って。
それは、自己完結した宣戦布告だったのかもしれない。
でも...僕はすぐに白旗を揚げた。別に、ハリーに比べて、僕の全てが劣っていた訳じゃない。
チェスの腕前は僕の方が上だし、まぁキャリアの違いで魔法界の事については僕の方がよく知ってた。
それでもなお、僕があきらめたのはハリーの人柄があったから。
ハリーは決して、幼いときにつけられた名声をドラコ見たいにひけらかそうとは思っていない。
それでもなお、今だに人気が衰えないのはそれこそ、ハリー本人の人望とか、人柄があるからだと、思う。
そう悟って、ハリーを見たとき。僕の心は、まったく今までと逆の方に倒れた。
その、不思議な視線に、打抜かれたといっても間違いじゃないだろう。
真面目になればなるほど、ハリーの目は独特なで魅力的な不思議さをたたえる。
敵に対しては鷹よりも、虎よりも冷たい目を。
仲間には、これ以上にないほどの勇気と、優しさと、信念を。
ハリーはそれぞれに放つ。
だから僕は、白旗を揚げた。 そのかわり、自分を磨くための努力は、なお一層に増やしたつもりだ。
それでも、まだ足りない気がする。
まだまだ、磨きが足りないんだ。
...ひょっとして、これが人を好きになるってことじゃないか...って気がつくのに
それからそんなに時間はかからなかった。
目を開けると、まぶたにたまった涙で視界が少しにじんでいた。
目をしばたたいて涙を落とすと、二人が僕に気づいたらしい。
ハリーとハーマイオニーがこちらに向かってくるのが見えた。
最後に残った涙の雫も吹き抜ける風が消してくれる。
ハリーが近づく度、心臓が歩みを早める。
もう、僕の心はハリーに一途。
だからこそ、胸が痛い。
いつか、僕の想いはハリーに通じるだろうか。
風、立ちぬ。 Fin.
後書き
珍しく、ロンの一人語りを書いてみました。
短いですし、なかなか慣れないので、難しいんですが...。
これも、まぁロンハリになるんでしょうか??
課題曲は「ハートを磨くっきゃない」、TOKIOの曲。
曲は比較的元気な曲なんですが、こっちはえらくシリアスになりました。