秒針がカチリと音を立てて1/60回転する。
と同時に、長針は1/3600回転する。
と同時に、短針は1/43200回転する。
そんな、当り前の事が、当り前に思えない時がある。
例えば、こんな時。
「風をつかまえて、時の流れに乗って」
待ち合わせ場所に指定された3本の箒のカウンターで、
ハーマイオニーは腕時計を覗き込んでいた。
待ち合わせ時間からは、もう10分近くが経過しようとしている。
待ち合わせに早くついて、彼の顔をこの目で確認するまでの時間も長く感じるが、
待ち合わせの時間を過ぎてもまだ彼が来ないとき、時の進みは今までの10倍も、100倍も長く感じられる。
時間の長さをかみしめるのも、これでもう恐らく数十回目だろう。
時計の針は、いつまでたってもじりじりとしか進まない。
「...待てど、暮らせど来ぬ人を...」
汗をかいたグラスの中身をストローで軽く回す。
詩の一節が、ついとハーマイオニーの口に乗る。
「宵待草のやるせなさ、ね。 まだ来ないの?」
カウンター越しにマダム・ロスメルタが微笑みかけてくる。
「えぇ。もう、慣れましたよ。」
からからと笑って軽口を返す。
「その割には、さっきから指がリズム刻んでるわよ。」
はた、と指を見る。 勿論、指は動いていない。
しかし確かに、よくよく思い返してみれば、爪とグラスの当たるコツコツという音がしていた気がする。
自分でも気付かないうちに、ストレスになっていたらしい。
「こんな、かわいい子を待たせるなんて、罪な男よねぇ、ロン君は。」
ことん、とハーマイオニーの前に奇麗なルビー色のカクテルが置かれた。
「あれ、頼んでないですよ?」
「いいの。おごってあげるわ。髪形も変えて、彼氏に見て貰いたいでしょう?ゆっくりしていきなさいな。」
もらったカクテルを飲んでいたハーマイオニーは えっ、と顔を上げた。
「よく気がつきましたね...。後ろ髪をまとめただけなのに。」
「女ですもの。 すぐわかるわよ。」
「問題は、本人が気付いてくれるかどうかなんですけどね。」
ハーマイオニーは皮肉っぽくつぶやいた。
あるいは、自嘲っぽさも混ざっているように聞こえる。
「これは、長い事ママさん業やってた私の経験よ。男の人ってね、ガールフレンドのおしゃれに
気付いてても恥ずかしくてなかなか言えない人が多いから。 あんまり辛く当たっちゃ、だめよ?」
マダム・ロスメルタは、ちらとドアを見て言った。
「ほら、来たみたい。」
いやに焦った足音がドアの外を早足に歩いてくる。
ドアの窓に人影が映り、影がノブに手をかけ、少々乱暴とも思える速さでドアを開けるまで、
わずか1秒足らず。
これこそが、ハーマイオニーの待ち望んだ瞬間。
「ごめん、ハーマイオニー!!」
「ご、め、ん、じゃ済まないわよ? きっちり、15分の遅刻。」
ロンは、椅子に疲れた体を横たえるとマダム・ロスメルタが持ってきた水を一息に飲み干した。
「ほんっと、反省する。ごめん。....って、ハーマイオニー?!飲んでるの??」
先ほど、マダム・ロスメルタが出したカクテルの残りを飲み干す様を見て、ロンは仰天した。
「あぁ、それなら大丈夫よ。アルコールは入れてないから。」
「えぇ、大丈夫。まだやけ酒なんて飲まないわよ??」
ロンは額の汗を拭った。
「ハーマイオニー...やっぱり相当怒ってるでしょ?...まぁ、自業自得だけど。」
「わかってるなら、いいのよ。」
くすりと笑ったハーマイオニーは、グラスをテーブルに置いた。
「ごちそうさま、マダム・ロスメルタ。 ありがとう。」
「いいえ、こちらこそ。 楽しい休日を。」
バッグを持ってハーマイオニーがドアに向かう。
ロンもそれに続こうとして、マダム・ロスメルタに声をかけられた。
手招きされるに従い、ロンは一度離れかけたカウンターに戻った。
「今日は言う事、はっきり言いなさい? 上手くいったら、夜にまた来て。
とっときのカクテル、用意してあげるから。」
「え、それどういう...」
言い終わる前に、マダム・ロスメルタはポンと肩を一押しした。
「ぐだぐだ言わないで、気、引き締めて行きなさい。 待ってるわよ。」
言われるがまま、ロンはハーマイオニーの待つ外に出ていった。
外は、夏の暑いさかり。 昼に向かってじりじりと太陽が昇っていく。
夏休み中なので、生徒の姿は少ないとはいえ、人は多い。
「さぁ、ハーマイオニー。 どこへ行こうか。いつも通り、本屋に行ってみる?」
ハーマイオニーはふるふると首を振った。
「きょうは折角だから、いつもと違う所に行きましょう? 洋服を見に行きたいのよ。」
言うが早いか、ロンの袖を引っぱってハーマイオニーが歩き出す。
「へぇ、珍しい。」
君にも女の子らしい所が...と、心に思ってもロンは口には出さなかったが、
ハーマイオニーには通じてしまったらしい。
「まぁ。私だって洋服くらい買うわよ? 制服だけじゃ、デートの時困っちゃうじゃない。」
ロンの手を引いて、二人は人ごみの中を歩いていく。
そして、人ごみから少し離れた裏通りに折れた所でロンは言った。
「そのデートって、僕との、でしょ?」
生真面目にそんな事をロンが言ってくるものだから、先程まで腹を立てていたのも忘れて
ハーマイオニーがくすりと笑う。
「あら、とんだ自信屋さんね。」
「だって、君が僕以外の男と上手くやっていけるか...イテッ!」
握っていたロンの手の平に軽く爪を立てて、ロンの二の句を止める。
「あーら、じゃあ今日服を買ったら、着るのはハリーとデートする時にしようかしら?」
ぎくっとするような事を言われて、ロンの体がこわばる。
「な、いや、その!そういう事じゃなくて、、、」
しどろもどろで、ロンが弁解を試みる。も、上手く文章が出てこない。
真っ赤にオーバーヒートした頭で、なお言葉を紡ぎ出そうとするロン。
しかし、紡ごうにも軸に糸が絡んでいては紡ぎようがない。
その様子を見かねて、ハーマイオニーが頬に優しくキスをする。
「心配しないの。 ちゃんと、次のデートもロンとよ。 こうして、キスするのもね。」
それこそ、殺し文句にも匹敵する台詞を囁かれて、ロンの頭はさらに加熱しそうになった。
「あ、ほら。ここよ、来たかったお店。」
そこは裏通りに面したこじんまりしたお店で、表にディスプレーされた洋服は皆
デザインこそ控えめであるものの、趣味の良さが引き立って見える、落ち着いたデザインの服だった。
「へぇ、こんな所にお店があるなんて、知らなかった。」
「でしょ? パーバティが紹介してくれたの。」
店の中を見ると、スカートから、ワンピース、小物までがたくさん並んでいた。
「あ、これ可愛い。 どう思う?」
そう言ってハーマイオニーが手に取ったのはデニム地のワンピース。
紺色の、シンプルなもの。
「んー、かわいいとは思うけどね。 どっちかといったら、こっちのほうがいいんじゃない?」
そう言ってロンは、パステルカラーで構成されたマドラスチェックのワンピースを取った。
生地も軽く、爽やかに風が通り抜ける。
少し背中の開いたデザインが、よりいっそう、夏らしさを演出していた。
「えっ、派手じゃないかしら?」
先に手に持ったものと見比べて、言う。
「いや、そのくらい鮮やかな方が似合うと思うな。 髪も奇麗な栗色なんだし、明るく見えるよ。」
「そう? そう見える?」
まだ信じられない、といった様子でハーマイオニーが尋ねる。
「うん、絶対そっちの方がいい。 着てみてごらんよ。」
結局、しばらく考えていたハーマイオニーは、ロンの選んだ服を持って試着室に入っていった。
しばらくして、ワンピースに袖を通して出てきたハーマイオニーの姿は、ロンの目にすごく新鮮に映った。
逆に、ハーマイオニーの方は慣れない柄にとまどい気味のようだ。
「どう?ロン。」
「うん、いいよ。 気に入った。」
「知らなかったわ。ロンに、服を見立てる目があったなんて。」
鏡の前でくるりと一回転してみせると、ワンピースの裾が1テンポ遅れて踊る。
「ジニーの服を見たりするからね。 好きだよ、その色使い。」
ロンに褒められて、すっかり機嫌を直したハーマイオニーは、結局そのワンピースを買うことに決めた。
お金を払っているハーマイオニーをよそに、ロンがまだ何か店の中を歩きまわっている。
「ロン、終わったわよ。」
ロンは、何もいわないで、棚に置かれていた麦わら帽子を一つとると、ハーマイオニーの頭に乗せた。
広めのつばに、黄緑色のリボンが飾られた麦わら帽子。
ちょっと離れて遠目にその姿を見て、満足そうにロンが頷く。
「やっぱり、思ったとおりだ。 似合ってる。」
やっぱ、夏は暑いし帽子がいるよねー、なんて言いながら、ひょいと頭から帽子を取り上げると
ロンはそのままレジに向かっていった。
「あ、ちょっと、ロン??」
「これは今日の遅刻のおわび。 プレゼントしてあげるよ。」
店を出てきたハーマイオニーの姿は、たった今買ったワンピース。
ご機嫌顔で、ハーマイオニーはロンの腕に抱きつきながら、歩いていた。
勿論、頭にはプレゼントされた帽子。
「...嬉しいけど、ちょっと恥ずかしいかもしれないわね。 このデザイン。」
やはり、慣れない服に戸惑いぎみなのか、ハーマイオニーが言う。
「でもやっぱりかわいいよ、それ。...その、髪形にも似合ってるし。」
およそ予想外の言葉をかけられて、ハーマイオニーははっと息を飲んだ。
「....気付いてたの?!...」
今度はその返事が、ロンには予想外の反応だったらしく、はぁ、とため息一つついて、首をうなだれた。
「え、そんなに僕には見る目がないと思われてるの?」
本当、チェス以外に取り柄がないみたいに思われてるのかなぁ。などとぼやいたり。
「でも、今日から考えを改めなきゃね。 ありがとう、ロン。」
照りつける太陽の下、ロンはわずかに頬を赤らめた。
服と一緒に、心まで軽くなったようにはしゃぐ。
まるで、小さな子供のように、太陽の暑さも気にならないように。
そこにいるハーマイオニーは、本当に心の底から楽しんでいるようだった。
「決めた。 ロン、今日はめいいっぱい、遊ぶわよ?」
「おう、望むところさ。」
そんなハーマイオニーを見ていたら、ロンの方までどんどん楽しくなって。
こういう時、本当にこの彼女でよかった、と実感する。
「始発帰りも覚悟しなきゃね、ハーマイオニー?」
「そんなに遅くなるわけないでしょ!」
いつもなら痴話喧嘩っぽく聞こえる会話も、今日は恋人同士がじゃれているようにしか、
到底聞こえないのだった。
火ともし頃の3本の箒は、活気に満ち溢れている。
明るい照明、人の声、陽気な音楽、グラスのぶつかる音、食べ物や飲み物の匂い。
ありとあらゆる要素が、室内の空気を楽しさで満たしている。
今、扉を開けて、そのムードの中に入ってきた一組のカップルがいる。
勿論、あの二人。
一丁前に、ロンは腕にハーマイオニーをつかまらせて、エスコートしていた。
「マダム・ロスメルタ!来たよ、約束通り。」
その声に反応して、カウンターの向こうでマダム・ロスメルタが振り返る。
「まぁまぁ、来たわね。ハーマイオニーも、かわいくなったじゃない。」
これほど人がいるのになぜか2席並んで空いていたカウンターに、ロンとハーマイオニーは誘われた。
「絶対、来てくれると思ったから、予約にしといたのよ。」
などと、嬉しいことを言ってくれる。
まもなく、マダム・ロスメルタが持ってきたのは
グラスの縁にパイナップルとレッド・チェリーが飾られていて、
クラッシュ・アイスの中に注がれたカクテルはピンク色という、
まさに夏らしいトロピカルな雰囲気のカクテル。
ミルク・ベースなのか、見た目はシェイクのよう。
しかし、何より二人を驚かせたのは、一つのグラスに2本のストローが添えられていることで。
しばらく二人はそのまま顔を見合わせたまま、止まってしまった。
どちらからともなく、顔が緩んでいって。 切り出したのは、ハーマイオニーの方だった。
「ありがたく、いただきましょうか、ロン?」
「そうだね。 もらおうか。」
二人は、乾杯の代わりに、各々のストローをちょっと重ね合せて、二人仲良く飲んだとか。
「弱いとは言ってもアルコールだから、気をつけてね!」
なんてマダム・ロスメルタの忠告は、もはや二人の耳には入らない。
ホグズミードの夜は、今日もかわらぬテンポで更けていく。
秒針がカチリと音を立てて1/60回転する。
と同時に、長針は1/3600回転する。
と同時に、短針は1/43200回転する。
そんな、当り前の事が、当り前に思えない時がある。
今の二人には、時の流れは速すぎる。
「風をつかまえて、時の流れに乗って」 Fin.
とはいえ、わかりやすいところに隠れてますねー。ハーマイオニーがもらった帽子のリボンの色は?
下の****の中に、書き入れて下さい。(どこかでみたことある隠し方ですが...(笑))
http://homepage3.nifty.com/nycity/deta/for_gallerly/Harry/for_HRH/******-*****.html
後書き
...一応、「ちょこっとLOVE」のつもりで書いたんですが....ちょっと無理がありますか?(汗)
ハロプロ計画、提出作品...ってことで。
また、お酒使ってるし...。
このカクテルは、STRAWBERRY COLADA(ストロベリーコラーダ)というカクテルです。
(詳しくはこちら)
一応、ストーリー上で韻を踏んだつもりなんですが、わかりにくいですね...。
麦わら帽子はSTRAW HAT、後半のかなめはこのカクテルと、2本のストロー。
説明がいるようじゃ、まだまだですね..。
あ、この後の二人の様子が気になる方は頑張って探して下さい。
ささやかながら、隠しておきます...。