Bitter chocolate with suger in large quantities.
〜ビターチョコにいっぱい砂糖を添えて〜

『マクゴナガル先生へ』
と記された手紙がマクゴナガル先生のデスクに置かれていたのは2月4日。
授業から帰ってきた先生はデスクの上にそれを見つけ、用心深く取り上げた。
封筒の裏にはただ小さく"H.G."とのみ書かれていた。
丁寧に蝋で閉じられた封筒、丁寧に書かれた文字。マクゴナガル先生はそれだけで
いったい誰からの手紙であるのか、また手紙の中味についてもおおよその見当がついたらしい。
人目につかぬよう自分の部屋に鍵をかけて、先生は静かに封を開けた。
素早く内容に目を走らせ、わかる人にしかわからないほどの静かな微笑みを目に浮かべ、
先生は洋皮紙にペンを走らせ始めた。

翌日、ハーマイオニーは授業が終ると図書館に寄るからと早々にハリー達と別れた。
二人に見えない位置まで歩くと、ハーマイオニーは踵を返して図書館とは別の方角へ足を進め始めた。
授業が終った直後だ、皆めいめいに自分の場所へ向かう。
教室から離れていく人の流れに逆らって、ハーマイオニーは真面目な顔で教室へと向かっていった。
やがてハーマイオニーが変身術の教室につくと、ノックもせずに中へと消えていった。
「先生。」
教卓に座ってペンを走らせていた先生が声に答えて顔を上げる。
「来ましたね、ミス・グレンジャー。頼まれた物は用意しましたが...くれぐれも、使いすぎないで下さいね。」
ハーマイオニーはなにも言わず、頷いて先生が差し出したごく小さな瓶を受け取った。
「いいですか、必ず一番最後に少しだけ加えて下さい。むやみに使うととり返しがつかなくなりますよ。
スネイプ先生に言ってこの薬を分けてもらうだけでもかなり苦労したんですから。」
「ありがとうございます、先生。」
ハーマイオニーは一礼して部屋を後にしようとした。扉に手をかけたところでまた先生に呼び止められた。
「ハーマイオニー、最後に言っておきますが。」
ハーマイオニーが振り返って先生を見る。
「成功を祈りますよ。先生としてでなく、一個人として。」
ここまできて、ハーマイオニーはようやく笑顔になった。

受け取った瓶を人に分からないようにしっかりと隠し持ち、ハーマイオニーは自分の寮へ向かった。
談話室にはまだまだ残る寒さを吹き飛ばすように暖炉で火がたかれ、
暖かな光をハリーとロンの顔を照らしていた。
ハリーがチェス盤を前にナイトを手にして考えこんでいる。
例え男であろうと女であろうと、思わずぎくりとしてしまいそうな真剣な顔。
真剣に物事に打ち込めば打ち込むほど、ハリーの顔は独特の雰囲気に包まれる。
と、その刹那。その緊張感に揺らぎが見えた。
「だめだ。ロン、僕の負けだよ。」
その言葉を口にした途端、力を失った盤上のキングがばらばらと崩れ落ちる。
「今日はロンの勝ちみたいね。二人とも、ずっと戦ってたの?」
ハーマイオニーが試合の終了を確認してから近づく。
「ああ、ハーマイオニー。今やっと終ったよ。長かった。ハリーも上手くなったよ。」
「とんでもない、まだまだ。こうしてロンに負けてる間は練習しなきゃ。」
チェスの駒は勝手にそれぞれの持ち位置へ撤退していく。
「でも、あなた達宿題は?魔法薬学のレポート、締切り間際にお手伝いなんて事はないようにしてよ。」
「大丈夫。僕らもそこまで馬鹿じゃないさ。」
「そう。じゃ、今回のレポートは見せてあげないからね。自分で考えてね。」
ロンが思わず困惑する。ハリーが吹き出した。
「冗談よ。そんな事は言わないわ。でも、自分でがんばりなさい。」
「ところでさ、」
ハリーが話を変えた。
「今週の土曜日はホグズミードに行くの?」
「ごめんなさい。」
真っ先にハーマイオニーが答える。
「土曜日は用事があってあなた達とは一緒に行けないわ。」
思いがけない返事にロンが顔を上げた。
「用事?何のさ。僕達と一緒じゃだめって事?」
「内緒よ。どうしても。土曜日でないとだめなの。あ、本を置いて来るわね。」
返事も待たずにハーマイオニーは自分の部屋へと向かって行った。
瓶は確かにハーマイオニーの手の中にある。

土曜日。ハーマイオニーは言ったとおり、一足先にホグズミードに到着していた。
ホグズミードの到着しても他の店には一切目もくれず、何やら荷物を持って
マダム・ロスメルタの待つ三本の箒へと向かっていった。
「あら、いらっしゃい。ハーマイオニー。さ、用意は出来てるわよ。」
ハーマイオニーの顔を見るなりマダム・ロスメルタは客席を素通りして、
ハーマイオニーを奥の部屋へと連れていった。
着いたところは小さなキッチンだった。
「いつも簡単にお茶を入れるくらいだけど、最低限の道具はあるから大丈夫だと思うわ。」
「ありがとう、マダム・ロスメルタ。」
マダム・ロスメルタがにっこりとして言った。
「人を想って作った物はみんな良いものになるのよ。がんばってね。何かあったら言ってちょうだい。」
マダム・ロスメルタが店に戻ると、ハーマイオニーはすぐに荷物を広げ始めた。

大きめの鍋に湯を沸かし、金属ボウルになにやら茶色い物を入れている。
チョコレートだ。丁寧に、丁寧にゆっくりとヘラを回す度に甘い香りが立ち上ってくる。
艶のあるなめらかなチョコレートがボウルのなかを踊る。
その間に、隣の鍋では生クリームがふつふつと温まって来ている。
生クリームとチョコレート。 ごく基本的なトリュフの作り方だ。
クリームにチョコレートを加えたガナッシュを絞り出す。
丸く整えられたチョコレートが几帳面に天板に並べられた。
普通、これを冷ましてから溶かしたチョコレートをくぐらせるのだが、
ハーマイオニーはその溶かしたチョコレートのうちほんの少しを別に取り分けた。
そして、広げた荷物の中から最後に取り出したもの。例の瓶だ。
取り分けたチョコレートの中に瓶の中味を落とす。
一滴、二滴...数滴加えると、ハーマイオニーは他のガナッシュとはわけて数個のトリュフを作った。
ココアパウダーをかけて丁寧にそれを包む。結んだリボンに小さなカードが結ばれた。
『ハリー・ポッター』と。

マクゴナガル先生が渡した物。
それはスネイプ先生が最初の授業に言った言葉、人の心を操る魔術。“愛の妙薬”。
人の心を惑わし、人を操る術のある一つの最高峰だ。
こうしてハーマイオニーは特別なチョコレートを特別な人のために作った。

時は流れて2/14 聖バレンタインデー。
ハーマイオニーは自分の思いつく限り親しい人物にチョコレートを渡していた。
勿論、ここで渡しているのはもう一つのチョコレート、まった普通のチョコレートだが。
勿論ロンなどは真っ先にハーマイオニーからのチョコレートを受け取ったのだが、
どういう訳だろうか、ハリーには一向に来ない。
忘れているのだろうか?それともタイミングが合わないだけか?いや。タイミングならいくらでもある。
ハリーが首をかしげて考えていると、突然耳に羽の音が聞こえた。
「ヘドウィグ!」
舞い降りてきた白ふくろうは嘴にカードをくわえている。ハリーはヘドウィグの頭を撫でて
カードを受け取った。 几帳面な文字が綴られている。
『ハグリッドの小屋の近くで待ってます。』
肩に乗ったヘドウィグが覗きこんでくる。下に書かれたHermioneという名前を確認するのもそこそこに
ハリーは歩き出した。

ハーマイオニーは庭の木の下でじっと下を見て待っていた。
さすがに人に見られるのは恥ずかしいのでハグリッドの小屋の近くといえども
ある程度離れた場所にいる。ヘドウィグには案内をするように頼んであるけれども、
下手をすれば見つからない場所で、見つけられない可能性もある。
もしそうなったら...
しかしハーマイオニーの不安は杞憂に終った。
向こうからふくろうが飛んで来る。純白の翼、ヘドウィグだ。
そしてその後ろにはちゃんと待っていた人がいる。
待っていた人、ハリーポッターの姿が。
「やあ、ハーマイオニー。えぇっと...その...何かな。」
出来る限りの微笑んでハーマイオニーが包みを差し出す。
「ハッピー・バレンタインね。ハリー、あなたの分よ。チョコレート。」
嬉しさを隠し切れない、といった風でハリーは包みを受け取った。
「ありがとう。開けていい?」
「えぇ、もちろん。どうぞ。」
ハリーは包みのリボンを丁寧にほどくと、中から少しだけお酒の香りの混じった
トリュフが出てくる。ハリーはいよいよ嬉しそうに、そのうちの一つを手にとって口に運んだ。
チョコレート独特の苦味の中にお酒の香りが口の中にいっぱい広がる。
甘さを控えた上品な味だ、とハリーは思った。
「おいしいかしら?がんばって作ってみたんだけど。」
「おいしくないなんて言うはずないじゃないか!その....君が作ったんだし。」
ハーマイオニーは思わずハリーの腕に抱きついた。
「ありがとう、ハリー。嬉しいわ、何より。あなたから言われたから。」
ハリーも素直に嬉しいと思った。ここに自分がいることが。ここに彼女がいることが。
ハーマイオニーの耳元でハリーが小声でささやいた。
"Me too, lovely Girl."

夜。グリフィンドール寮監でもあるマクゴナガル先生は談話室を見回りに来た。
暖炉の火もとろとろと置き火になっているが、ランプの光を頼りに教科書を広げている生徒が一人いた。
「成功したようですね。」
ランプの影からハーマイオニーが顔を上げる。
「ええ。ありがとうございました。」
ポケットから瓶を取り出し、マクゴナガル先生に手渡す。瓶の中に少しだけ液体が残っている。
先生は瓶を受け取るとおもむろに栓を開け、中の液体を飲んでしまった。
「わぁ!先生!!」
慌ててハーマイオニーが止めようとするが時すでに遅し。
しかし先生は慌てる様子もなく、ハーマイオニーに少しおどけた顔を見せる。
「おいしいブランデーだわ。良い香り。」
ハーマイオニーは2度驚く事になった。
「ブ...ブランデーですか?」
マクゴナガル先生が静かに頷く。
「恋愛のスタートに一番必要なのは少しの勇気ですからね。嘘も方便、成功したでしょう?」
ハーマイオニーにもふつふつと笑いが込み上げてきた。
「はい。ありがとうございました。」
「さぁ、寝なさい。もう遅いですよ。」
ハーマイオニーのチョコレートをずっと、甘くしたのは
そこに託された気持ち...だったようだ。

Fin.

後書き
滑り込み、セーフッ!バレンタインデーにぎりぎり間に合いました。
ただ今2/13 午後10:05 間に合わないかと思ったけれども駆けこみで書き上げました。
内容は...どうですかね。同時公開の聖夜特急(後)共々料理をするハーマイオニーが出てきますが...
これは偶然です。さ、間に合うように、急いで公開しますかね。(笑)

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