聖夜特急 前編
12月18日 聖クリスマスの一週間前 そろそろ各個人のクリスマス休暇の予定が
固まり、ホグワーツの中は一足早く休暇気分になりつつあった。
ロン、ハーマイオニーの2人とて例外ではない。
朝食時、いつもの時間に飛来して来る何羽ものふくろうが運んでくる手紙も
赤、緑のクリスマスカラーで、離れた土地で勉強す子達を暖かいわが家へ招く手紙が増えていた。
ハーマイオニーにふくろうが手紙を落とした。
ハーマイオニーはすぐさま封を開け、横からロンが覗き込んだがさらに横にいるハリーは
見向きもしない。 勿論、気にならない訳ではなかったが自分はクリスマスに帰れる訳もなく
また帰る場所もない。
そのため、ハーマイオニーが文面を一読した途端に嬉しそうに表情を一変させたのにも
ハリーは気付かなかった。 その時、何かがハリーの肩を突ついた。
「痛い!! あれ、ヘドウィグ。手紙か、ありがとう。」
ハリーは我に返って、おねだりをするヘドウィグに皿のベーコンを一切れ与えた。
ハーマイオニーが笑いながら言った。
「ハリー、今年のクリスマスは楽しくなりそうよ。早く開けてご覧なさい。」
言われた通り封を開けると、そこには見慣れない筆跡で丁寧に文がしたためられていた。
『ハリー・ポッター様 常々 娘より、あなた様のお話を伺っております。
いつも、娘の良き友達でいてくれてありがとう。....』
娘?ハリーは手紙から顔を上げた。
「ハリー、今年はあなたを私の家に招待したいって!!」
いつも一人でクリスマスを過ごしていたハリーは、喜んでこの招待を受ける事にした。
「ロン、あなたはこのクリスマスはどうするの?」
その日の放課後 談話室の暖炉の前で、3人は紅茶を片手に話しこんでいた。
「今年も帰らないよ。また、今年もたぶんセーターが送られて来るよ。」
「栗色のだろう?」
ハリーが混ぜっ返して言った。ロンはそうだろうねと肩をすくめて見せた。
「じゃぁ今年はロンが少し寂しい思いをするかしら?私の親は休暇中いてくれて
構わないと言っているし...」
ロンが紅茶に手を付けてから答えた。
「大丈夫。そこまで子供じゃないさ。 ハリーも行ってみたいだろう?せいぜい楽しんでくるといい。」
普通に答えているように聞こえるが、ハリーの耳にはどうも若干すねているようにも聞こえた。
「じゃ、ハリーは私と一緒に25日に出発しましょう。キングズ・クロス駅に迎えが来るわ。
今から、今までの冒険の話をまとめておかないと、たぶん2、3日は質問攻めに会うわよ。」
ハーマイオニーはまるで気がついていないように見えた。
「質問攻め?」
「あなたの活躍は有名だもの。もう家の親が興味津々で、どうしようもないぐらいよ。」
ハリーは頷きかけて、疑問にぶち当たった。
「君の両親はマグルだろう?予言者新聞も読んでいないはずなのに...」
どうして、と聞こうとした時、珍しくハーマイオニーの目が泳いだ。
「君がいろいろ話してるんだね。」
ハーマイオニーはまだ居心地悪そうに目が泳いでいたが、突然口を開いた。
「ごめん、ただでさえ魔法に興味を持っているのに、ついつい喋っちゃったのよ。
一度話始めたらもう、止められなくなって...たぶん、今年急にあなたを呼ぶことにしたのもそのせいよ。」
ハーマイオニーはいかにもすまなさそうに片目をつぶって手を合わせてきた。
思わず、ハリーは何も言えなくなってしまった。
さて、時は流れて12月24日 クリスマス・イブの早朝。もう部屋の灯りもとっくに落ちて、
皆、すでに眠りに落ちている頃。
ハリーはベッドの中で始終寝返りをうっていた。眠れない。
緊張か?はたまた興奮か? まるで始めての遠足前日のようだった。
たしかにハーマイオニーの両親には会ったことがないし、緊張するのはわかるのだが
ここまで緊張する物だろうか? それとも虫の知らせで何か忘れている事があるのだろうか?
荷物はまとめた、行き先についてはハーマイオニーと一緒だし迎えがあるはずだから心配ない。
クリスマスプレゼントは、不用意にマグルの目にふくろうが見えないように学校に送ってもらい、
緊急時にのみふくろう便をよこしてくれと連絡もした。
何も忘れていることはない。十分すぎるほど準備していると思うのに、眠れない。
ハリーは窓の外を見た。 月が空に金の光を放ち、星が周りを彩っていた。
あの月が、早く落ちてくれればいいのに、という思いと
ずっと落ちなければいいのにという思いが交錯していて、ハリーはベッドに入り直した。
同じ頃、グリフィンドール女子寮にも一人、寝返りをうつ子がいた。
眠れない。眠れない。 ハーマイオニーは横で丸まっているクルックシャンクスの
背中を撫でた。 月灯りに照らされた背中が微かに動く。
なんで?こんなに眠れないなんて事は今までなかった。
眠れないときにはいつでも教科書を開いて予習をしていた。でも今日は教科書を開いても
まったく頭に入ってこない。体は明らかに眠りたがっている。本を見ても目が霞み、
本を持つ手はだるさをしきりに訴えてくる。普通なら横になって10秒もたたずに眠れる状態。
なのに、眠れない。いったい何に緊張しているのか?
ハーマイオニーは窓の外を見た。月が空に金の光を放ち、星が周りを彩っていた。
あの月が、早く落ちてくれればいいのに、という思いと
ずっと落ちなければいいのにという思いが交錯していた。
クルックシャンクスが眩しそうに月灯りに背を向けた。
月が落ち、日が昇り、朝が来て。二人はいつもより早く起きて支度を始めた。
あまりにも早い起床に、ロンもまだ半分閉じたままの目をこすりながら起きて来た。
「ハリー、何もこんなに早く起きなくたっていいんじゃないか?」
「いざ目が覚めると何かしていないと落ち着かなくって。まだ寝てていいよ。」
ロンは苦笑いして言った。
「危なっかしくて見ていられないよ。ハリー、相当緊張しているよ。足をよく見なよ。」
ロンから目線をはずして見下ろしたハリーの足には左右違う色の靴下が履かれていた。
「.....そのようだね。」
ハリーも苦笑いして、ベッドから正しい靴下を探し始めた。
大広間はすっかりクリスマスムード満点になり、大きなツリーには金銀の飾り付けが輝いていた。
もうすでに十分すぎるほど飾りつけられているツリーに、フリントウィック先生は
まだまだ沢山の飾りをツリーにつり下げていった。
ハリー、ハーマイオニーの2人はロンと朝食をとった後、すぐに荷物をまとめて出かける事になった。
「ロン、駅まで見送りに来るのかい?」コートを羽織りながらハリーが聞いた。
「いや。ここで見送るよ。駅じゃ人が多いから大変だし。」
「じゃ、何かあったらハーマイオニーの家にふくろうを飛ばして。」
「ハリー、そろそろ出ないと特急に乗り遅れるわよ!」
横から支度を整え終わったハーマイオニーが荷物をもって現れた。
「うん、じゃ、ロン。行ってくるよ。」
「いってらっしゃい。待ってるよ。」
ロンの笑顔にハリーとハーマイオニーは手を降り、駅への道を歩きだした。
駅への道は家族の待つ家へ帰ろうとする生徒でごった返していたが、その中でもひときわ目立つ
大男を二人は視界に捉え、急いで駆け寄った。
「「ハグリッド!!」」
「よぉ!ハリー、ハーマイオニー。これから出発だな、楽しんで来いよ!」
「えぇ。ありがとう、ハグリッド。また、見送りに来てくれるのね」
「毎度の仕事だからな。おっとハリー急がんと汽車に乗り遅れるぞ。ほら、早く行くぞ。
あぁそれと。」
ハグリッドはかがんでハリーの顔を自分へよせた。
「あまり、羽目をはずさんようにな。」
「えっ?」
ハグリッドはそれだけいうとすっくと立った。
「さ、本当に急ぐぞ。ハリー、楽しんでこい。楽しいクリスマスが待っているぞ。」
そうこうしている間に駅に到着し、汽車はすでに白い蒸気をあげて発車準備を整えていた。
「さぁ!行ってこい! よいクリスマスを!!!」
僕らはデッキに乗り込み、ハグリッドの方に向き直った。
汽笛が鳴り響き、ホームがゆっくりと遠ざかっていく。 ハグリッドは見えなくなるまで手を振っていた。
ハーマイオニーとハリーは空いているコンパートメントを一つ見つけた。
ハリーが窓際に座って向かいの席に荷物を置くと
ハーマイオニーも続いて隣に座り、同じように荷物を置いた。
やっと落ち着いたクルックシャンクスが荷物の上で猫伸びをするのを見たとたん、
不意にハリーは安堵の気持ちに襲われた。それと共に強烈な睡魔が襲いかかってくる。
汽車のコトコトという小気味よい振動と、コンパートメントの暖かさ、前日の寝不足も手伝って、
ハーマイオニーが横で何か話をしようとしているのを耳が聞いてはいたが、
頭がそれを処理出来る状態でなく、ハリーはそのまま眠りの世界に引きずり込まれていった。
ちょっと大きめの揺れがハリー達の乗ったコンパートメントに伝わったとき、
ハリーはほんの半分だけ、目を覚ました。普通ならこのまま1秒後にはまた眠りに入ってしまう所だが、
ハリーは片方の肩に何か重みを感じた。
目が覚めていくに従って徐々に重みの原因を探るだけの頭が働きだし、考え始めた。
...肩が重い...という事は何かが乗っているという事だ...では何が乗っている?...
...荷物ではない...僕の横にあったのは.....あったのは....あったのは!!
ハリーはぎくりと目を開けた。自分の横には荷物などない。あるのはただ一つ.....
ハリーは余計な振動を起こさぬように注意しながらそろそろと横を見た。
ハリーはわかっていた。その答えに間違いなどない。ありうる答えはただ一つ.....
ハーマイオニーが自分にもたれかかって寝ているのだと。
そしてそれは全く真実だった。ハリーの心臓が突然早鐘のように打ち始める。
大丈夫、ハーマイオニーも眠かっただけなのだ。生ける物が眠るのは自然の摂理、何らおかしな事ではない。
ハリーは目を閉じて深呼吸した。これで少しは落ち着くはず。
しかし目を閉じて呼吸に意識を集中しようとしたとたん、寄りかかったハーマイオニーの温もりが
急に強く感じられた。その上肩を動かすことが出来ない。肩を動かさずに深呼吸するのは至難の業で、
結局深呼吸で自分を落ち着けようとするのは無理だった。
意識から追いやろうとしても、ますます五感がありとあらゆる手段を用いて現状を認識させようとする。
視覚には眠っているハーマイオニーの純真無垢な顔が焼き付いて、
聴覚には眠っているハーマイオニーの寝息が聞こえ、
嗅覚にはハーマイオニーのシャンプーの香りがかすかに感じられ、
触角にはハーマイオニーの心地良い重みと温かみが感じられ、
味覚は緊張のために口の中がカラカラに渇いていく様子が感じられた。
どうしよう。ハリーは悩んだ。
とりあえず、このままでは少々狭い状態だったので、ハリーは少しだけ自分の体勢を整えるために
ハーマイオニーの肩に手をかけた。そして動こうとして、やめた。
すやすやと安らかに眠っている顔を見ると、あまりにも動かすのが忍びなくなってしまった。
ま、いいか。
たかだか自分が狭い思いをするぐらいなら我慢しよう。ハリーは極力余計な振動を起こさないように
注意して椅子に座り直した。
ハリーはもう少し、ハーマイオニーの温もりを感じていたかった。
その温もりは寒さに冷えた体を暖め、まるでその人自身の心の温もりのようでもあった。
ハリーの五感が心地よさを伝えていた。
ホグワーツ特急がイギリスをひたはしり、遠くにロンドン市街が見えた頃、
もうそろそろ用意しなくては、とハリーはハーマイオニーを起こすことにした。
「ハーマイオニー、起きて!用意しないとキングス・クロス駅につくよ!」
ハーマイオニーは呼びかけに応えて2、3度目をしばたたかせ、目を覚ました。
窓の外を見るなり慌てて置いておいたコートを着始め、外に出る用意を始めたので
ハリーも一緒にコートを手に取った。
ハリーの目には、気持ちハーマイオニーの頬が赤かったように見えたが、
車両がブレーキの軋みを上げてキングス・クロスに滑り込んだため、
そんな事を気にする余裕もなく、すぐにハリーは荷物を持ってデッキに向かった。
あるいは、ただ単に寝起きで体温が上がっていただけかもしれない。
でも、まさか....まさか....。ハリーがこんな思いに駆られるのはもうしばらく過ぎた後だった。
キングス・クロス駅の柱へ飛び込むと今までの世界とは一転、マグルの世界となる。
荷物の中の白ふくろうが人の目を引くが、もうそんなことはハリーも気にしない。
不意に、ハーマイオニーが歩調を上げて小走りに前へ進んで行った。慌ててハリーも追いかける。
「お父さん!お母さん!」
視線の先に映った家族はあぁ、幸せな家族なのだとハリーに実感させる姿だった。
ハリーはそんな親子水いらずの会話に入る糸口を見つけようとした。
ハーマイオニーの両親がすぐこちらに気付いたようだった。
両親の視線に気がついたハーマイオニーが慌てて紹介する。
「彼が、ハリーポッターよ。」
お父さんらしき人物がハリーに手を差し伸べた。
「始めまして、ハリーポッター君。ハーマイオニーの父のテーナー・グレンジャーです。」
優しい笑顔で、少し背の高い人。人当たりが良くて話し易い人だった。
「母のノース・グレンジャーです。お噂はかねがね娘から。」
青い目がすきとおるように美しく、こちらも優しい笑顔で向かえてくれた。
にこやかにハリーは手を握り返した。
「ハリーで結構です、グレンジャーさん。」
「そうか。よし!すぐ出発しよう。このままでは寒いしね。さぁ乗って。」
車は荷物を乗せて直ぐに出発した。
町の皆に親しまれている。まさしくそんな雰囲気のする小さな医院。
しかし、隅々まで手入れが行き届いて、この家の主を表わすように温かな雰囲気だった。
庭の木には色取り取りのイルミネーションが輝き、クリスマスムード満点の中でハリーは招かれた。
すぐに応接室に通され、ひとまず休もうと紅茶が入れられた。
アップルティーの爽やかな香りが立ち上り、テーブルの上に様々な形をしたクッキーが並べられた。
お母さんの手作りらしい。こんがりとしたきつね色に長旅に疲れたハリーとハーマイオニーは
十分食欲をそそられた。
「うれしい!久しぶりにお母さんのクッキーが食べられるわ!」
ハーマイオニーがまず皿に手を伸ばし、ハリーも1枚口に運んだ。
「あれ、甘くない。」
「そう。砂糖をあまり使っていないのよ。お口に合わない?」
お母さんの言葉にハリーは首を振った。
「とんでもない!美味しいですよ。遠慮なく、いただきます。」
ハリーはそう言って次のクッキーに手を伸ばし始めた。
長旅の疲れにコンパートメントでの一件が重なって、ハリーはやけにお腹がすいていた。
その様子を見て、お父さんが笑った。
「でも、ここで食べすぎると折角のディナーを食べ損ねることになりますよ。」
「そうね。先に用意を始めましょうか。」
「あ!私も」
お母さんが立ち上がると、ハーマイオニーも一緒に立ち上がり、一緒にハリーも立った。
「僕も手伝いますよ。」
慌ててお父さんが遮る。
「いやいや、君は...」
ハリーは笑って応えた。
「いいえ、やらせてください。新しい家族とのクリスマスを楽しみたいんです。」
ハリーはよく働いた。包丁を振るい、鍋を見て、盛り付けからテーブルセッティングまで。
両親を知らないハリーにとって、キッチンとはダーズリー夫妻に仕事をさせられる場であった。
無論ホグワーツでキッチンに立つことはなく、ハリーは始めてこの日楽しくキッチンに立つことが出来た。
笑いながら包丁を、鍋を、皿をもてることが嬉しくて、たまらない。
始終ほくほく顔で話をしながらディナーの支度を整えた。
セッティングが終ったテーブルの上には純白の皿に銀の食器、クリスタルのグラス。
各々が周りの明りを反射して美しく輝いている。クリスタルグラスに淡い金色のシャンパンが注がれ、
一層食卓が華やかになり、クリスマスの食卓が完成した。
飴色の七面鳥が湯気と共に食欲をさそう香りを漂わせ、4人は食卓についた。
「ミスター・ポッターの歓迎と幸せなクリスマスを願って!」
「「「「メリークリスマス!」」」」
グラスが軽く音を鳴らした。
ハリーは本当に自分の家族がそこにいるような、そんな満ち満ちた気分でディナーを楽しんだ。
ハリーにとって、まさしく理想のような家族だった。
そうして楽しい時間が過ぎ、皿の上の料理もグラスのシャンパンもなくなりかけた頃。
案の定、ハーマイオニーの心配は真実になり、ハリーの話がやっと2年の終わり頃にさしかかった。
普段ならこれほどまとめて話をすると、もうげんなりとして続きを話すつもりにもならなくなるのだが、
不思議と今日のハリーは疲れも感じずに延々と話を続けることが出来た。
途中、適度にハーマイオニーが解説を引き受けてくれるたのも理由の一つだが、
それよりも、この人達には話して然るべきという思いがハリーの中にあった。
そう、まさに小さな子供がその日の出来事を両親に得意げに話すように。
不意にお父さんが話を切った。
「あぁ、もうこんな時間だ。二人共、今日はもう寝なさい。 ハリー君、ありがとう。
おもしろい話だったよ。もし、君がよければ続きを明日に聞かせてくれるかな?」
「えぇ、喜んで。」
「さぁ、さぁ。二人共、部屋は2階よ。ハリー、階段を登ってすぐ右の部屋があなたの部屋ですからね。
片付けてあるけれども、ここにいる間は好きに使ってちょうだい。」
ハーマイオニーが席を立った。
「行きましょう、ハリー。明日が辛いわよ。医者の朝は早いんだから。」
ハリーは、名残惜しそうに席を立った。
「そうそう。確かに早いわよ。診察の準備が杖一振りで出来たらどんなに楽かしらね。」
「おいおい、ノース。二人はここにいる間は魔法は...」
お父さんが全てを言わないうちに、声はさえぎられた。
「わかってますよ、それくらい。でもね...」
ハーマイオニーの性格はお母さんに似たらしい。
思わずハリーとハーマイオニーは顔を見合わせて笑った。
「「おやすみなさい。」」
二人は両親にそう言って、階段を登っていった。
「ハリー、もう少し起きてられる?」
「あぁ...うん。平気。」
「じゃ、部屋に来て。」
ハリーの部屋の向かいがハーマイオニーの部屋らしかった。
さすがに普段学校にいるだけあって荷物はそう多くは置いていなかったが、
本棚にある本の数がまず目を引いた。
部屋の中に椅子はなく、二人はベッドの上に並んで座った。
目の前にある窓からはさっきとはまた少し違った夜景が見えた。星が瞬いている。
いや、違う。白い粉雪がちらちらと空から舞い降りて来ているのだった。
「ホワイト・クリスマスになったわね。寒いわけだわ。」
横から室内着を一着もって来ると、ハーマイオニーは自分の肩に羽織った。
「あ...ハリーもいる?」
自分だけ温かい格好をしている事に気がついたハーマイオニーが聞いた。
「いや、僕は大丈夫。気にしないで。」
粉雪が量をだんだんと増してくる。ハリーも寒くない訳ではなかったが、まだ我慢できると思った事と、
余分な気づかいをさせたくないのとでハリーは断わった。
"I'm dreaming"
曲の一節がハリーの頭から口へ思わずついて出た。
"I'm dreaming of a white christmas."(ホワイトクリスマスを夢見て)
"Just like the once I used know"(昔のあの日のように)
「ハリー?」
「あ、ごめん。何だか急にこの曲を思い出してさ。今日の君たち家族を見ていたら
あぁ、僕の両親も昔は一緒にこうしてクリスマスを楽しんだんだろうなぁって。」
「寂しい?」
ハリーはすぐに首を振った。
「とんでもない。羨ましいだけ...かな。これを寂しいって言うのかも知れないけど。」
「いいじゃない、それで。また来年も来れば良い事だわ。そしていつか、その家庭を自分で作らなきゃ。」
ハリーが何か言う前に、ハーマイオニーが突然、こちらに肩をあずけて手を重ねてきた。
「やっぱり、手が冷たい。寒いんでしょう。早く、温かい格好しないと。もう寝ましょう?」
そうはいっても、再び高なりだしたハリーの鼓動はしばらく収まりそうにないのだった。
部屋の暖かさよりこの温かさをもう少し感じていたい。
「いや。もう少しここにいさせて。」
外の粉雪がまた多くなった。
Fin.
後書き
あぁ。やっちゃった...。って感じです。
しばらくこういうの書いていないとだんだん書きたくなってしまって....。
今回はクリスマスまで!っていう〆切を自分に設けて、間に合わない、間に合わないって
焦っていたのに いざシーンが決まると乗り気で書くんですから収拾がつきませんね。
さて、内容、さすがに甘いですね....。
ハーマイオニーの両親の名前は一時的にこちらで創作させていただきました。
どちらもラテン語から取らせていただきました。
(あれ、なんの単語からとったんだか忘れてしまった...。)
ところで、この話、メインはハーマイオニーの家に遊びに行ったハリーの話なのに
なぜかタイトルは『聖夜特急』。 だって、一番先に決まった一番書きたいシーンが
この話の前半、コンパートメントでのシーンなんですもの。
最近、実は自分の書いているシチュエーションこそが自分の趣味なのでは?と
自分を疑い始めているN.Y.Cityでした。
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