あぁ、神様。 あなたって人は。
どうして私に、こんなにも複雑怪奇な無理難題を押し付けるのでしょうか。
どんな呪文より、魔法薬の調合より、難しい課題をあなたは私に課した。
アボリアに突き当たった私に、せめて、せめて。
アリアドネの糸を一本でも。 与えてはくださいませんでしょうか。
「A String of Ariadne.」
ハーマイオニーがゆっくり目を開けると、世界は球状に歪んでいた。
.....もちろん、そんなはずはない。
まだ頭全体には、白なのかグレーなのかピンクなのかよくわからない霞がかかったままで、
ハーマイオニーはぼんやりと視線を泳がした。
時は遡り、9月19日の午前中。
すでに自分の夫となっている、世界的チェス・プレイヤー、ロン・ウィーズリーは
珍しく、妻の誕生日を忘れてはいなかった。 しかしながら、どうにもはずせない大事な試合が
よりにもよって、9月19日に行われることになってしまったため、当の本人は現在出張中。
試合の相手もかなり手ごわい相手だし、悪いけど帰りは何時になるかわからないよ。
などと言われ、ちょっぷりふくれぎみだったハーマイオニーも、
大事な仕事だし、いい子で待っててね、などとささやかれた挙句、額にキスなど落とされては
さすがにハーマイオニーもこれ以上文句を言うわけにはいかず、ハーマイオニーは黙って夫を見送った。
折りしも、学生時代の級友であるパーバティやらラベンダーたちと、近いうちに会いたいね、などと
話をしていたので、一人じゃなんだから、と彼女達を呼んで久しぶりにティータイムと相成った。
久しぶりに会う友達と、これはこれで結構楽しい時間をすごしたのだが...。
悪ノリして、飲めないアルコールに手を出したのが失敗だった。
お祝いと称してラベンダーの持ってきた白ワインをハーマイオニーは最初、試合から帰ってくる
ロンのためにとっておこうとしたのだが、『それはあなたへのお祝いなの!』という
ラベンダーの意見に押され、ハーマイオニーはコルクを抜いてしまった。
案の定、眠り姫なハーマイオニーはグラスに注がれた白ワイン1杯であえなく撃沈し、
やっとのことでベッドに運ばれて...記憶の糸はそこで途切れた。
「Mrs.sleeping beauty?」
不意に耳元でささやかれた言葉に、ハーマイオニーはびくっと体をこわばらせた。
だめじゃないか、僕がキスする前に起きちゃぁ。 などとからかう声の出所は、モチのロン、
ロン・ウィーズリーその人だった。
「ちょっと、ロン! あなた帰ってくるの明日じゃなかったの?」
まだ重たい体を無理やり動かして、ハーマイオニーが体をロンに向ける。
「ん、そのつもりだったんだけど。 試合の後にラベンダーから緊急コールがかかったから、
無理言って先に帰ってきた。」
思わずきょとんとするハーマイオニーに、ロンはさらに続ける。
「早く試合を片付けようと思って急戦を仕掛けたら、加減がうまくいかなくて、
ボロクソにやっつけちゃったよ。 ちょっとかわいそうな事したなぁ...」
きょとんとした顔で聞いていたハーマイオニーが、思わず吹き出した。
「じゃあ、あなた最初からそのつもりで...」
言われてロンはしまった、隠すつもりだったのに。とおどけて見せた。
「まぁ何にせよ、僕の愛妻ぶりは魔法界全体がよく知ってることだし?」
「普通自分で言う?その台詞。」
「いいじゃん、おかげで今日も説明の手間省けたし。ラベンダーからコールがなくても、
『妻の誕生日なんです!』の一言で問題なかったと思うよ?」
「...馬鹿。」
やさしくロンに向かって突き出した拳をロンはあっさり平手で受けてするりとかわし、
ハーマイオニーのほほにキスを落とした。
「誕生日おめでとう...ただいま。」
「おかえりなさい、ロン....ありがとう。」
つづく言葉は、互いのキスで封じられた。
「それにしてもさ、ハーマイオニー。」
ひとしきり、ベッドの上でじゃれあった後、ロンが口を開いた。
「頼むから、僕のいないときにアルコールは勘弁してくれる?」
どんだけ心配したか! 家を出かけるときとは打って変わって、こんどはロンの方がふくれ気味。
「あら、こうしてロンが看てくれるなら、二日酔いも本望よ?」
そう言われてもなぁ、と頭をかくロンに、ハーマイオニーはさらに畳み掛けた。
「たとえメタノールを飲んで失明しても、あなたを見る心は忘れないもの。 怖くなんかないわ。」
言ってしまってから、自分がかなり小っ恥ずかしい台詞を言っていることに気づいたハーマイオニーは、
頬にさしてくる赤みを隠すように、布団をがばっと頭からかぶった。
自分の髪より真っ赤になったロンが落ち着くまで、あと十数秒。
恋愛のアボリアには、神様の差し出すアリアドネの糸よりも、ロンの長い手のほうが有効らしい。
ロンの腕に包まれる幸せは、安心の糸にくるまれる幸せ。
Fin.
後書き
できた、できた。
昨日の夜中に、ハーマイオニーの誕生日を思い出して、とっさに思いついた草案から
急遽ひねりだした小説。
ま、ハーマイオニーお祝い小説ってことでー。
日記に仮アップしたまま、放置してました(汗
ちゃんとアップしときます。
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