「お弁当、おすそ分け。」
"sharing box lunch"
Harry & Hermione
目が、霞む。
目の筋肉が緊張して、ピントが合わなくなってきていた。
そりゃあ、小さな文字の本とにらめっこして4時間近く机に向かっていれば
誰だってそうはなるだろう。まして、今はもう夜11時だ。
ハリーは羽ペンを机の上に投げ出し、大きく背伸びをした。
机の向こう側では、ハーマイオニーが黙々と洋皮紙に文字を書き綴っている。
うわ、多い。
これが、ハリーの素直な感想だった。同じ時間、レポートを書いていただけのはずなのに、
もうすでにハーマイオニーはハリーの2倍近い量のレポートを書いていた。
淀みなく動いていた手が、数秒止まったと思うと、ハーマイオニーも羽ペンを置いて、
大きく伸びをした。
「あぁ、さすがに長いこと書くと疲れるわね。」
ハーマイオニーとは言えやはり目が疲れたのか、ごしごしと目をこすり、
2、3度瞬きをして、本を閉じ始めた。
「本当に。疲れた。」
ふと、足元に気配を感じてハリーが机の下を覗き込むとけだるそうにしていたクルックシャンクスが、
猫伸びをしつつ大欠伸をするところだった。
「君もかい?クルックシャンクス。」
ハリーの問いかけに、いやにぶっきらぼうな声で何か唸ったかと思うと、
クルックシャンクスはまた丸まって眠り始めた。
そろそろ戻りましょうか。ハーマイオニーがそう言って立ち上がろうとする。
「ね、ハーマイオニー、もう眠い?」
「別に、まだ平気だけど。まだ何かあるの?」
薮から棒の問いかけを不思議に思いつつ、ハーマイオニーは答えた。
「君の部屋、行っていいかなぁ?いいものがあるんだけど。」
すぐ持ってくるから。ニヤッと笑って、ハリーが何か意味ありそうな言い方をする。
ハーマイオニーはしばらく考えてから、答えた。
「えぇ、いいわよ。別に。」
「じゃ、すぐ行くよ。先行ってて。」
ハリーは自分の部屋につくと、持っていた本をベッドに投げ出し、
引き出しの奥から何やら包みをとりだした。
「なに?ハリー。勉強は終ったの?」
眠りかけていた、あるいはもう寝ていたかもしれない。ロンが顔だけ出して聞いた。
しかし、ハリーが何も言わないうちに、持っている包みを見るだけで、ロンはさっさとベッドに戻った。
「あぁ、ハリー。そういう事か。いってらっしゃい。」
ロンは、その包みが何かを知っているらしい。
ハリーも、それが当り前のように何も言わず、部屋を出ていった。
ハーマイオニーは石作りの廊下を歩いて部屋に戻った。
いいもの?話をもちかけた時のハリーの顔は、何か企みがある時の顔...のようにも見えた。
まさか、危険な物を持ってくることはないだろうが、いったいなんなのか、気になる。
幸い、他のルームメイトは皆寝静まっているようで、誰一人としてカーテンを開けている人はいない。
寮の中を静寂がひたひたと満たしている。 かすかに廊下から、何か人の気配を感じた。
ハリーだ、と思ってハーマイオニーは部屋の扉を開けようとして、はたと手を止めた。
外にいる人は、監督生かもしれない。もしかしたら、マクゴナガル先生かも。
不用意に扉を開ければ。いや、そうでなくともドアノブに手をかけただけで、まずいことにならないか。
困った事になった。これではうかつに扉を開けられない。
ドアが静かにノックされたのを確認して、ハーマイオニーは素早くドアを開けた。
「見つからなかった?」
「僕が、そんなヘマをするわけないじゃない。」
片手には、しっかりと忍びの地図が広げられていた。
ハリーは呪文をつぶやいて地図を消すと、さらに手に持っている包みを見せた。
「これが、"いいもの"さ。」
渡された包みを持つと、かすかにカラン、と澄んだ音がした。
開けて見るとそこには一本の瓶とグラスが二つ。
瓶の中味は琥珀色、ラベルには"オグデンのオールド・ファイア・ウィスキー"とあった。
「あきれた。学校にこんな物を持ち込むなんて。」
「残念、僕が持ち込んだんじゃないんだよね。」
フレッドとジョージがホグズミードから持ってきた。それをロン経由でもらったのさ。
「受け取ったら、同じ事よ。」
「飲まない?」
ハーマイオニーはちらと瓶を見て、しばらく考えてから、言った。
「いいわ、飲みましょう?ただし、飲みすぎないでね。明日に響くわよ。」
どこから出てきたのか、ちゃっかりハリーはクリームチーズにクラッカーと、おつまみまで持ってきていた。
用意がいいわね、とハーマイオニーもあきれたが、さすがに、ウィスキーはストレートでは飲めない...
というかそんな飲み方をしたら次の日は良くても午前中は頭痛に悩まされるだろう。
水割りに、おつまみ。この飲み方が一番よさそうだ。とハーマイオニーは考えていた。
「ハリー、どのくらい?」
「ん。オン・ザ・ロック、ツーフィンガー。」
ピクっと、ハーマイオニーの手が止まる。
「そんなに飲むの?」
「冗談、シングルを適当に割って頂戴。」
酒を知らない人のために説明すると、ツーフィンガーとはグラスに指2本分の高さ(およそ60cc)の事。
オン・ザ・ロックは氷の上にウィスキーを注ぐだけで飲む事。
シングルはその半分、およそ30cc.
ハリーはそれを水割りにと頼んだのだ。
「ハリー、随分お酒に詳しいわね。」
「ロンと話してればね、随分知識はつくよ。君こそ、ストレートに通じたじゃないか。」
「ま、まぁ。多少はね。はい、出来たわよ。」
カラン、と乾いた音をたてて、ハーマイオニーはグラスを渡した。
「じゃ、ハーマイオニーにはとっておきの割り方、作ってあげる。」
ハリーはグラスに半分ほど水を注ぐと、マドラーを水面につけ、
静かにマドラーに伝わらせてウィスキーを注いだ。
「うわぁ、奇麗!」
一見、ウィスキーと水はすぐに混ざり合ってしまうように思えるが、実際には
水の上にウィスキーが浮き、グラスの中に透明と琥珀の奇麗な2層を作り出した。
「ウィスキー・フロート。最初はストレートが飲めて、後から水割りになるの。」
洒落た飲み方だろ?ハリーがそう言って、グラスを手渡す。
「でも、最初にストレートなんて、早く酔いそうね。」
「大丈夫さ。立て続けに飲むんじゃないし。 乾杯。」
「乾杯。」
二人はグラスをちょっと掲げ、グラスを傾けた。
甘くて、辛くて。冷たいのに、熱い。それは何かと尋ねたら、手の中の琥珀色の水。
ハーマイオニーがグラスの中味を一口嚥下すると、なにか喉に粘つくような熱さが残った。
その熱さを静めるよう、すぐに一口水を飲む。
これをチェイサーといい、ストレートの後にはこれを飲まないと、かなり辛い。
「いい香り。甘いわね。」
2層に分かれていたグラスの中は、だんだんと混ざりつつあった。
「ほら、水割りになるでしょ? いいお酒なんだから。楽しまなきゃ。」
時折、氷が動いてグラスとぶつかり、澄んだ音を立てる。
心地よい音と共に少しづつ飲んでいくと、飲んだ量に比例してだんだんとアルコールが体を巡り始める。
こころもち、二人共顔が赤くなった。
熱さに似た口に残る後味に、クリームチーズの塩気がまた良く合う。
ハリーは、2杯目。ハーマイオニーも、もう1杯軽く飲もうかといったところ。
「ねぇ、ハリー。」
大分アルコールが回っているのか、とろんとした甘い声で、呼びかける。
「どうして、突然お酒なんか?」
体温の上がった体をハリーに近づけて、ハーマイオニーがつぶやく。
「んー。単純に、飲みたかったのさ。君と。」
とうとう、ハーマイオニーの体が、ハリーにくっついた。
「ハリー、体が熱いわ。」
「君もだよ?ハーマイオニー。...あ、ちょっと。」
じっとしてて。
ハリーが顔を近づけると、モルトの香りが漂う。
自分の香りか、それともハーマイオニーの香りか。そんな事を考えながら、ハリーは
ハーマイオニーの口の端から、クラッカーのかけらを舐め取った。
「かけらが、ついてた。ご馳走様。」
ふふっと、ハーマイオニーが笑った。
「ありがとう、ハリー。」
くたん、とハーマイオニーは体重をハリーに預けている。
「ハリー、飲みましょう?もう少し。」
もう、明日の事、気にするのやめた。
「わかった。付き合うよ。相当、好きみたいだね。」
「えぇ。これでも、結構嗜みますのよ。」
そっか。ハリーがグラスを空にした。
「じゃ、次は"ウィスキー・オン・ザ・ロックス、スモール・ビア・フォー・チェイサー"でも...」(※)
「こ、ら。調子に乗るんじゃないの。」
注ぎつ注がれつの晩酌は、まだ終わりそうにない。
早朝。
「「頭、いてぇ(たい)...。」」
奇しくも同じ時間、同じタイミングに二人は似たような台詞をつぶやいた。
ハーマイオニーと同じベッドに倒れ込むという、不覚はかろうじて避けたものの、
二日酔いという不覚は回避しようがなかった。
「ハリー、いくらなんでも飲み過ぎだって。一晩で1本空けるちゃうんだもん。」
ルームメイトの気づかいも、今のハリーにとってはただの頭痛の種。
でも、親友の心配があるだけ、ハリーは幸せだった。
こちらは、ハーマイオニーの部屋。
「ハーマイオニー、昨日は随分遅くまで飲んでいたわね。」
ルームメイトのラベンダーが問い詰める。
ぎくっ、と目を見開き、また顔をしかめて衝撃で響く頭をかかえる。
「なん、で、知っているの?」
極力、響かないように低い、小さな声でハーマイオニーが聞く。
「そりゃあ、あんなにベタベタされちゃあ、こっちだっておちおち寝てはいられないもの。ねぇ?」
「えぇ。その通りだわ。ラベンダーと一緒に、こっそり見てたわよ。」
...パーバティまで...低くつぶやいたハーマイオニーも、これ以上答える気にはなれなかった。
マダムポンフリー監視の下、医務室で顔を合わせた二人は、思わず顔を見たとたん噴き出してしまったとか。
勿論、次の瞬間二人して頭を抱えたらしいけども。
酒は百薬の長といいますが、酒は飲んでも飲まれるな。
世界一軽く、世界一重い恋の病も、酒はどんどん悪くするばかりなようで。
互いの心を追いつ追われつの"Twin Chaser(対の追跡者)"は、今日1日だけ、
"Twin Drunkard(対の酔っ払い)"に、なってしまったとさ。
お後がよろしいようで。
Fin.
(※)"ウィスキー・オン・ザ・ロックス、スモール・ビア・フォー・チェイサー"
ウィスキー・オン・ザ・ロックス:ウィスキーをオン・ザ・ロックスで飲み、
スモール・ビア・フォー・チェイサー:チェイサーにビールを一口。
後書き
ありゃん、やっちゃった。
酒ネタは好きですが...二日酔い落ちってのはあまり見ませんね。
え、私?今の所、飲みませんよ。未成年ですもの(笑)
お酒に強いのは確かなんですが。
ウィスキーっていい香りしますからねぇ、飲んで見たいなぁ。
あぁ、でもお酒の専門用語は、かなりインターネットで調べました。
http://www.suntory.co.jp/jiten/
このサイト、大活躍でした。
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