「お弁当、おすそ分け。」

"sharing box lunch"

Ron & ginny

「ご飯よぉ!」
モリーおばさんの元気な掛け声に合わせ、どやどやと兄弟がテーブルに集まってくる。
大家族、それも食べ盛りを沢山抱えたこの一家にとって、食事時はまさに修羅場である。
大量に作った料理もあっという間に家族全員のお腹に収まり、また早々に散っていく。
ある兄は、ドラゴンの研究のためにまた部屋に戻り、
ある双子の兄は 次の悪戯を考えるために、そろって部屋に入り、
ある妹と、自分は テーブルに残って食後の紅茶を飲んでいた。

今は夏休み、完全寮生活のホグワーツ魔法魔術学校の生徒も各々の家に戻り、
各々なりのくつろぎかたをする時期。
勿論、この大家族、ウィーズリー家とて例外ではない。
「あぁ、ジニー。今朝ふくろう便が届いたんだ。ハリーがまた、来るって。」
突然、かつ予想外の発言に、ジニーの顔がぱっと明るくなる。
「え?!本当に?何日?何時頃に来るの?」
ロンに向かって続けざまに質問を並べ、逆にロンのほうが目を白黒させてしまった。
「あ..っと、いや。今週末だから...5日後だったかな?」
しかし、質問したはずのジニーは、もう上の空。
「あぁ、もう!そうと聞いたらそれまでにクッキーの作り方復習しなきゃ!
こんど家に来るときは絶対、クッキーを作ってあげるって決めてたんですもの。」
クッキーだけならいいものの、当日の服装、言葉使いまでぽんぽんと滝のごとく気にし始めた。
「ちょ、ちょっと。来るのはまだ先だよ?」
こんな台詞はジニーの耳には届かないだろうと半ば諦めつつ、ロンは言って見た。
案の定、ジニーはまったく気付いた様子はない。
...まったく、引っ込み思案が直ってきたのはいいけど、これじゃ度が過ぎてるような気が...
ロンは苦笑いするより他なかった。 だって、クッキーをつくる練習だろ?
試食する人間が必要だろ?
「お兄ちゃん、作ったら、食べてみてよ?」
...ほら、来た。

ばたばたと、足りない材料を買いにジニーは家を飛び出していった。
しっかり、でがけにロンにバターの前準備を頼んで。
「えぇっと。バターを室温に戻しておく、と。」
キッチンの中からバターを探しだし、取り出す。
一応、ハリーのおかげ...なのかな。ロンがぼんやりとした頭で考える。
有難いことに、僕はめでたくハーマイオニーと出会った訳で。
あわや、仲間外れか....と思いきや。ジニーが、ハリーに熱を上げるとはね...。
さしずめ、僕とハーマイオニーがハリーを置いて行ったとすれば、
ジニーはそれを後ろから拾ってあげた、という事で。
『捨てる神あれば、拾う神あり』なんて言葉がロンの頭を通過したりした。
いや、勿論、ハリーを捨てた訳じゃないけど。
ロンが考えていることをハリーが知る訳ないが、なんだかこのままではハリーに
相当怒られそうな気がして、ロンは心のなかで小さく謝った。
「おっと。」
バターの表面が液体に変わりつつあった。全体を練っておくんだっけ。
なんで、僕がクッキーの作り方を覚えてるんだろう...。
いくら、何度もクッキー作りの練習に付き合ったとはいえ、そんなに簡単に覚えるものかな。
「ただいま!」
うわ、早。まだ、そんなに時間経ってないぞ。
とりあえず、目の前のバターを軽く練ると、ロンはジニーを向かえに行った。

「おかえり。早かったね。」
「そりゃ、もう。走って来ちゃったから。用意しておいてくれた?」
「あぁ。キッチンに...」
って、言い終る前に走って行くくらいなら聞くなよ...。
キッチンに飛び込むジニーの背中を見ながら、ロンは自分にも聞こえるか、聞こえないかくらいの声で
つぶやいた。
ロンが、ワンテンポ遅れてキッチンに入ると、ジニーはもうかちゃかちゃと準備にとりかかっている。
「お兄ちゃん、バターを練ってくれる?」
「はいはい。泡立て器、貸して。」
ジニーは横で粉をふるおうとした。
「お、おい!ジニー、ストップ!!」
はっと、粉ふるいに粉を出そうとしたジニーが手を止める。
手に持った紙袋には、"Enriched flour"(強力粉)の文字。
「あ....あれ、間違えちゃった。」
緊張したのか、めったにしないミスをしたジニーは慌てて、他の粉を取りに行った。
「危なっかしいなぁ。ハグリッドのロックケーキじゃ..」
あるまいし、と続けようとして、またロンはわずかな罪悪感を味わった。
ハグリッドに、悪いよね。好きで作っているんだから。

オーブンから、良い香りが立ち上ってくる。
直ぐにでも、手をつけたくなる衝動を、ロンは抑えていた。
今触ったら、火傷は必須。でも、なんだかんだ言って、甘いもの、好きなんだよね。
「お兄ちゃん、まだダメよ。」
後ろからの手厳しい指摘に、ロンはすごすごと戻っていった。
冷めるまでの時間が、長く、長く感じる。
おかげで、ジニーがお皿に焼き上がったクッキーを持ってきたときには、
ジニーの言葉を聞くのもそこそこに、1枚、手をつけていた。
「うん、正解。おいしいよ。」
紅茶にも、コーヒーにも合うだろうな。シンプルな甘さが丁度いい。
「そう?今回も、成功かしら。」
「あれ?」
今まで作っていたのとはちょっと違うクッキーが中に入っていた。
「あぁ、それ。レーズンを入れて見たの。ちょっとラム酒の香りがするでしょう?」
確かに。ちょっとばかし、大人の香りがする。ハリーには、こっちも好評だろうな。
ふと、ジニーを見ると、嬉しそうに自分の作ったクッキーをほおばっている。
「ん、ジニー。」
ジニーの振り向きざま、口の端についたかけらをロンが指先で拭って、そのまま口に入れた。
状況が理解出来てないジニーが首をかしげる。
「いや、かけらがついてたからさ。びっくりした?」
ふるふると、ジニーは首を振った。
「ううん、ならいいの。お兄ちゃんだし。」
「勿体ないからね。おいしいもの。」
「ありがとう、お兄ちゃん。あ、紅茶。入れ直して来るわね。」
通りがけ、ロンの頬にキスを一つして、ジニーはキッチンに向かった。
普通のように見えて、ちょっとだけ、顔が赤かったような気もしたが。

その日の夜、ロンの家からまた1通のふくろう便が送られた。
次の日の朝、ハリーの家にまた1通のふくろう便が届いた。
『ハリー、お願いがあるんだけど。僕の家に来るときね...』
クッキー、出るから。その時...唇の端をさぁ...
そんな手紙を、ロンは送った。なんでこんな手紙を書いたかって?
ハリーが、こんな事をしたら、ジニーはどんな顔するかな?
って好奇心が半分。
ほんの一時でも、ジニーを独り占めした罪悪感が、半分。

Fin.

後書き
ロン×ジニ?....ありゃ、兄妹カップリングだ。
こりゃぁ...ちょっと控えめにしないと....まずいな。
ってことでちょいと、おとなし目の小説になりました。
その割には、長くなりましたね...。

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