「お弁当、おすそ分け。」
"sharing box lunch"
Harry & Ginny
「ね、サンドイッチ作ったんだけど...食べてくれない?」
「うんうん、僕には言えるのになぁ...。あとは本人に...だめ?」
グリフィンドールの談話室。
ジニーが自分の兄...ロンをつかまえて、ずっと練習をしているのだ。
自分で作ったサンドイッチを、ぜひともハリーに食べさせたいという、
実にジニーらしい申し出ではあった。問題は、どうやって切り出すか。
いつものジニーを見ている限り、彼女にとって自分からハリーに話しかけるのは容易な事ではない。
まして、自分の作ったサンドイッチ、言うならば自分の手料理を渡すなど、
うら若き、恥ずかしがり屋のジニーには到底一筋縄では済まない事だ。
かくてロンはジニーに捕まえられ、こうしてハリーがクィディッチの練習でいない隙を見計らって
作戦を練っているのであった。
もっとも、どんなに有効な作戦も、本人が実行出来なければ意味がない。
ロンは渋々ではあるが、かわいい妹のために。さらには
自分とハーマイオニーの熱々ぶりに、肩身の狭い思いをしている黒髪の親友のために、
作戦に参加することにしたのだ。
当のハリーから聞いたら、どう見ても体の良い邪魔者払いだと言うだろうが。
「ねぇ、本当に上手く話を誘導してくれるのよね?」
「あぁ、ハーマイオニーにも頼んでおくよ。いい、落ち着いて。絶対出来るって信じなきゃ。」
不安の色の消えないジニーの肩を軽く撫でてやり、ロンはハーマイオニーのいる図書室に向かった。
「...という訳なんだけど。」
バタン、とハーマイオニーは気晴しに読んでいた500ページ程の本人曰く軽い読み物、を閉じた。
「...どうでもいい事だけど、よくその量の本を気晴しに読めるね。」
想像以上の音に顔をしかめながらロンがつぶやく。
「あら、本には過去のありとあらゆる知識、知恵、希望、思想が刷り込まれているのよ。飽きないわ。」
「本当、君には感服するよ。」
やれやれといった顔でロンが隣に座り込む。
「で?優しいお兄さん。その計画、いつ実行するの?」
「...明日。」
「明日?!どうしてもっと早くに言わないのよ?」
図書館にはおよそ場違いな声を上げたハーマイオニーに一瞬ジトっ、とマダム・ピンスの視線が刺さる。
その様子に、ロンがさらに小声で話しかけた。
「しょうがないだろ?今日相談されたんだから。これだけの短時間で計画を立てた僕、すごいと思わない?」
「最初から私を呼んでくれれば話が早かったのに。」
「無理だろ?レポートを書いている君ったら、スネイプ先生でも声をかけづらいようなオーラだもん。」
本当、集中してるよね。ロンが小声のままつぶやく。
「あら、あなたに呼ばれたら一も二もなくペンを放り出すと思うけど?」
ロンの顔に額を寄せながらハーマイオニーが言う。
「嬉しい...けど...。僕のレポートを手伝っている時は絶対離してくれないよね...。」
後半はぼそぼそとハーマイオニーにも聞こえにくいような声にまで小さくなっていった。
ハーマイオニーが聞いていないはずないのだが。
「あら、その方があなたの近くにずっと長いこといられるからだわ。」
「それはそれで...嬉しい...のかなぁ?なんか誘導されている気がするけど...」
あまり小声で話すため、もう二人の顔は簡単にキスが出来そうな距離にまで縮まっている。
もう、この二人は人目も気にしない。...いや、少なくともロンは。
と、ロンの脳裏をよからぬ思いがふとよぎった時。
コツン、とロンの額にハーマイオニーのこぶしがぶつかった。
「だ、め。おあずけ。」
さっそく用意に行くわよ?腰を上げたハーマイオニーを、ロンは恨めしげな表情で見つめ、
渋々後をついて図書室を抜け出して行った。
次の日。休日の朝。
クルックシャンクスが奇妙な鳴き声をあげた。慣れない、でもおいしそうな匂いに反応したようだった。
それもそのはず、クルックシャンクスの横では
おぼつかない手つきでジニーが包丁をふるう。
その横でハーマイオニーがパンにバターを塗っていた。
二人とも滅多に見せないエプロン姿。手に持つ道具も杖ではない。
...やっぱり、料理は手でつくらなきゃ。
これは、マグル出身のハーマイオニーの考え。
全てを魔法界で生活して来たうえ、食べること以外、料理というものにはとんと無頓着ロンには
あまりピンとこない発想だったが、女の子らしいジニーの考えにハーマイオニーは大賛成した。
「そんな男の子は、女の子のささやかな心づかいにも一生気付かないわよ。」
「そんなもんかなぁ...」
「好きな男の子に丹精込めて作った料理が、『おいしかった』だけで片付けられたら、
話にならないでしょう?」
ロンがかくのごとき乙女心を理解するのは、もう少し時間がかかりそうである。
「ハーマイオニー?ハーマイオニー??」
ジニーに肩を叩かれ、はっと気がつくと、ハーマイオニーは先ほどから
ずっと同じパンにバターを塗り続けていた。
「あ、ごめん。考え事してたらつい..」
こっち、切り終りましたけど、とジニーが刻んだ野菜を見せる。
「うん、上手ね。これなら見栄えよく出来そうだわ。あと少しよ。」
「よっ、進んでる?」
ドアからにゅっと首が出て、ロンの顔が突き出した。
「ロン、あなたはここに来てはいけないって...」「君には言われたくないよねぇ。」
ハーマイオニーの小言を、あっさりとロンがさえぎる。
「え?ハーマイオニー、男子寮に行ってるの?」
ジニーが素直に疑問をぶつける。ハーマイオニーが顔を真っ赤にして言った。
「ロン!!!そんな事より作戦をちゃんと成功させなさい!!!」
今度こそ、きっぱり想い人に怒られたロンは、苦笑いしてそそくさと部屋を出ていった。
「ハリー、ポーカーしない?」
「え、ポーカー?珍しいね。どうしたの?」
手筈通り、ロンはハリーを誘う。
「いや、たまには違うゲームもいいかなって。
それにチェスじゃ食事に間に合わなさそうだから。やろうよ、暇だろう?」
確かにハリーは自分の部屋で本をぱらぱらとめくっていただけで、暇であるといえば暇ではあった。
「よし、やろうか。久しぶりだなぁ。」
「じゃ、7回勝負ね。負けたほうは今日の昼飯抜きだよ。」
ちゃっちゃとロンはカードを配り始めた。
「え!ちょっと、お昼抜きって..それは...。」
「問答無用。ポーカーなんてそのくらい賭けなきゃおもしろくないもん。ほら、配ったよ。」
勿論、なんの勝算もない勝負で作戦を立てるほどロンは抜けていない。
ハーマイオニーが魔法をかけた特製カードを使えば、ロンはカードの順番を変えることができる。
古典的ないかさま魔法だが、マグル界出身のハリーはそんな魔法を知らない。
ハーマイオニーの言葉通り、本には古くの知識多く刷り込まれている。
そのおかげで今回の作戦は成り立っているのだ。
(いい?最初はハリーに勝たせるの。1度勝たせるといかさまなんて露程も頭に浮かばないはずよ。)
ハーマイオニーの教訓を頭に反芻させながら、カードを操作する。
最初は...ノーペアで、っと。
(次からだんだん強くしていくの。重複しないように、ある程度変動をもたせること。)
次は...ツーペア。
(ロイヤルなんて使っちゃだめよ。せいぜいフォーカードまでだわ。)
次は..ちょっと強くしてスリーカード。
(たまには弱くする。どんどん強くなるのもだめ。いい?本当のポーカーよりポーカーフェイスが大事よ。)
次は、ワンペアにするか.....
勿論、結果は5勝2敗でロンの勝ち。
「あーあ...お昼抜きか。こんなにはっきり負けるとは思わなかったな。強いよ、君。」
あからさまに悔しそうに、ハリーがベッドに身を投げ出す。
「まぁ、そう言うなって。人間万事塞翁が馬って言うしね。」
ハリーが目を丸くして顔を上げる。
「随分難しい言葉を知ってるね。」
「ハーマイオニーに鍛えられたのさ。じゃ、悪いけど食事に行ってくるよ。」
ひらひらと片手を振って、ロンは部屋を後にした。
大広間に向かう談話室を素通りし、女子寮に向かう。
コン。
ドアを叩くノックの音も待ち切れないのか、1回叩いただけでドアは直ぐに開いた。
心配そうな顔をしてジニーが顔をだす。
「お兄ちゃん、上手く行った?」
「ばっちり。ハーマイオニー、ありがとう。感謝するよ。」
ドアの奥で見守っていたハーマイオニーが遅れて体をあげる。
「さ、ジニー、あとはあなた次第よ。がんばってね。」
生真面目な顔で、ジニーはこくこくと頷くと、片手にバスケットを持ってゆっくりと部屋を出て行った。
改めて、回りに人の目がない事を確認して、ロンが部屋に入る。
「ありがとう、大変だっただろう?」
「えぇ。でも、大丈夫よ。彼女なら、上手くやるわ。」
つけていたエプロンはすでにきれいに畳まれて横に置いてあった。
「あなたの分もとってあるわ。食べるでしょう?」
サイドボードに乗った皿の上に数個のサンドイッチがきれいに並べられていた。
「うん。でも、その前に...」
ベッドに座っているハーマイオニーのとなりに座り、
くい、とロンがハーマイオニーの袖をひっぱる。
「昨日から、おあずけがまだ残ってる。」
思いがけない答えに、一瞬の間を置いて、ハーマイオニーが笑いだす。
「やあね、ちゃんと覚えてたの?」
「だって、欲しいもん。おあずけのままなんて、やだ。」
「いいわよ、おあずけ、撤回してあげる。」
数秒の後、ちゅっと、ロンの唇に感触が残った。
微笑んだハーマイオニーの顔が目の前にある。
「これで満足?甘えんぼさん?」
ロンの手は、まだハーマイオニーの腕をはなさない。
「これは、昨日の分。今日の報酬はこれから頂戴?」
こんなに働いたんだよ?ハーマイオニーの耳もとで、ロンが言う。
「...っ、もう!贅沢。」
口では文句を言っても、顔はちっともそんな風に見えない。
ぐっ、とロンが押し倒されるくらいの力でハーマイオニーが身を乗り出して。
支払われた今日の分の報酬は、10秒ほどにも渡る、大判振るまいだったとか。
さて、こちらは作戦の残りを任されたジニー。
ハリーの部屋の前で、ドアをノックするために、呼吸を整えていた。
一つ...二つ...
気を落ち着けるために深呼吸しているのに、息をする度にますます緊張してくるような感覚に
襲われていく。
(落ち着いて..大丈夫。きっと上手くいく。)
コンコン、と軽い音を立ててドアを叩く。
「何、ロン?賭けは無しな...」
ハリーがドアを開けると、すぐ目の前に、ジニーの顔があった。
...の? 最後の1文字は口からかき消え、予想外の客人にハリーの方が二の句を告げなくなった。
「あ、あのね。ハリー、その...。」
ジニーが、焦って、話を持ちかけようとする。
しかし、ジニーが話に入る前に、ハリーがそれを止めた。
「ふうん、そういう事か...。ま、入って。」
有無を言わさずそのままジニーを部屋に招きいれ、ジニーを椅子に座らせる。
ジニーは言われるがまま、ベッドサイドの椅子に座った。
「さて。ジニー、何を作ってくれたの?」
ぽすん、とベッドに腰掛け、ハリーが問いかけた。
「え?あ、どうしてわかったの??」
文字どおりジニーが目を丸くした。
「ロンがわざわざ、自分の食事を賭けて何かをするとは思えない。それなのに誘ってきた。
ハーマイオニーの姿が今日は見えないし、何かおかしいとおもわなきゃ。」
そこに、君が来て。ハリーは続けた。
「足音は聞こえたけど、ドアの前でやけに時間を食ってからノックした。
手にはバスケットだ。これで大体見当がついたよ。」
「そうよ、ハリー、あなたのためにサンドイッチを作ったの。...食べてくれる?」
か細い声で、控えめに、控えめにジニーは言った。
「勿論、喜んで。一緒に食べよう?」
予想していたとはいえ、食べ盛りはお腹が空く。
かなり多めに作ったサンドイッチも瞬く間になくなってしまった。
「ごちそうさま、おいしかったよ。」
「ありがとう、ハリー。勇気を出した甲斐があったわ。」
一つだけ、やけにバターがいっぱい塗られたパンがあったけど...
ああ、それは。とジニーがころころ笑って説明する。
はーん...意外と勘の鋭いハリー大先生、どうもその理由が色ボケっぽい事は容易に想像がついた。
「相手が、相手だしねぇ...。」
「え、何?何か言った?」
思わず感想が口について出たハリーが慌てて否定する。
「いや、何でもない。 あ、ちょっと、こっち。」
ジニーをこちらに向かせると、ハリーはジニーの頬に唇を落とした。
直ぐに、ジニーが顔を自分の髪より赤くする。
まるで、始めてハーマイオニーにキスされた時のロンにそっくり。当り前か、兄妹だから。
「頬にトマトの種がついてたよ。お礼かたがた、さ。お弁当、ごちそうさま。いやデザートかな?」
びっくりした?
突然の出来事にうつむいて恥ずかしがったジニーを、ハリーは優しく抱きとめた。
くしゅん!!
先程もらった報酬の名残で、 ベッドの上でじゃれあっていたロンとハーマイオニー。
ロンの腕枕の中で、ハーマイオニーは突然くしゃみをした。
「風邪?」
「いいえ。熱もないし、誰か噂したんじゃないかしら。」
折しもその時、ジニーはバターの話をしていた時だったから、ハーマイオニーの予測は正しい。
「熱、あるみたいだよ?」
ロンがつぶやく。
「え?嘘。全然そんなつもりなかったけど。」
冷えたのかしら。なんてハーマイオニーが言う。その姿を見ながら、ロンがくすりと笑って言った。
「僕への熱に、うかされてるみたい。」
「ばか。びっくりしたじゃない。」
そう言って、ハーマイオニーがロンの胸を小突く。
また、何ともなしに二人はじゃれあい始めた。
「ねぇロン、ジニーは成功したかしら?」
ふと思い出したようにハーマイオニーが言った。
「もう30分は経つもん。成功したんじゃない?」
「仲良くなればいいけど。」
「なると思うよ。ハリーなら。」
一時期は犬猿の仲だった僕らがこうしてるんだし?
ハーマイオニーの唇にまた自分の唇を重ね、ロンが言った。
「そうね。あの二人なら大丈夫よね。」
奇しくもその時、ハリーとジニーが同じ事をしているとは、
妹思いの兄とは言え、ロンも知る由がない。
「ありがと。」
「こちらこそ。」
二人の台詞まで、一緒だったことも、神様だけが知っている。
Fin.
蛇足
[雰囲気をぶち壊しにしたくない人はさっくり無視してください。そうでない人は反転ドウゾ。]
「なぁ、ジョージ、どう思う?」
「あぁ、勿論。伝えなきゃな、フレッド。」
これは、双眼鏡を覗き込み、外から事の成り行きを見守る双子の台詞。
その日、夜中にひっそりと一羽のふくろうが手紙をくわえて飛び立っていった。
そうしてすっかり忘れた頃、モリーおばさんに突っ込まれたロンとジニーは
そろって顔を赤くして、自分の部屋に飛び込んだとか。
後書き
ハリ×ジニなのに、やけにロン×ハー色が色濃く含まれたお話。
いったいこの小説1本だけで、何回<よく天ぷらにする白身魚>するんですか...本当にもう。
(当り前ですけど、<>の中は暗号です。 簡単ですね。)
なぜか、始めて書いた割には長いし...。
蛇足については....ノーコメントです。
(この蛇足だけでも十分小説のネタになりますね...。)
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