「お弁当、おすそ分け。」

"sharing box lunch"
Ron & Hermione

ケトルが鳴っている。
お湯が沸いたと知らせる、汽笛にも似た甲高い音が耳に入って、ロンは目を覚ました。
なのに、目を覚ましたとたん、ケトルの音は消えてしまった。
...夢?...
霞のかかった目をこすりながら、寝ぼけた頭をゆっくりと動かし始める。
ケトルの音が消え、次に聞こえるのはとんとんと啄木鳥が木を叩く音。
...違う。家の周りに啄木鳥なんかいない。
「...あっ...」
新たな1日のスタートにしては情けない声を発しつつ、ロンはようやく状況を理解した。
「包丁の音だ。」
いやでもロンの顔が緩む。そんな顔をロンは隠そうともせず、
音の原因を見つけにベッドから抜け出した。

別にロンが魔法で勝手に料理をさせていた訳ではない。
答えは、もっと単純。キッチンには料理を作ってくれている「誰か」がいるということだ。
栗色のふさふさしたくせっ毛に少し大きな前歯。
...ちょっと手つきがぎこちない気がするのはご愛敬といったところか。
「おはよう。」
ロンが背後から忍び寄って驚かそうとする前に、当の彼女が先手をとった。
「あれ、ダメか。どうしてわかったの?」
「あなた、背が高いんですもの。影が床に映ったわ。」
「変わってないね。僕の負けだ。おはよう。ハーマイオニー。」
「お生憎さま。結婚しただけで少しは女らしくなるとでも思った?」
包丁を持つ手を休めて、新妻...もとい、ハーマイオニーが答えた。
「...いや。むしろそのままの方が嬉しいな。一番慣れ親しんだ姿だもの。」
ロンは言いながら、横に盛ってある苺に手を延ばした。
「イテッ!?」
ペシッ、という小さな音と共に、ロンの手は空中に弾かれた。
「ダ、メ。それはデザート。」
楽しみは、とっとくものでしょう?嗜めるハーマイオニーに渋々諦めるロン。
こんな関係は、学生の時から変わっていない。
もっとも、こんな関係になったのはついぞ最近の事...ほんの1週間ほど前に結婚したばかりなのだから。

「さ、食べましょう。早く食べて、出かけましょうよ。」
おあずけを食らってダイニングで待つロンの前に、湯気をたてる黄金色のフレンチトーストが運ばれて来た。
「食べよう。お腹がすいた。」
ハーマイオニーの言葉を聞くか聞かないかといううちに、ロンはもうフォークに手をつけていた。
「変わってないわね、本当。」
ハーマイオニーも、苦笑いしながら食事に手をつけ始めた。

朝の光に照らされたフレンチトーストはあっと言う間になくなり、
ハーマイオニーはキッチンへ先ほどの苺をとりに行った。
よく熟れた苺の鮮やかな赤と、ヘタの緑がみずみずしく光り、
真っ白の器に盛られてさらに鮮やかに輝いていた。
「はい、あなたの分。」
「なんか、『あなた』って呼びかた、まだ慣れないなぁ...ん?」
ちょっと、とロンがハーマイオニーを呼び止める。
「何?」
問いかけにも答えず、唯ひたすら、ロンは手招きを繰り返した。
「もう、だから何?」
自分の分の皿をテーブルに置き、ロンの方にハーマイオニーは近寄った。
と、ロンの腕が掴める範囲に入ったとたん、くっ、とハーマイオニーは腕を引っぱられ、
つられて上体を屈めた。...その瞬間。
...ペロッ...「...?!..」
「口の横に、卵がついてたの。もったいないからね。ご馳走様。」
ハーマイオニーは状況をよく把握できず、態勢もそのままで固まっていた。
顔が、自分の運んできた苺と同じ色に染まっている。
「お弁当のおすそ分け、もらったよ?ありがとう。」
なっ...。やっと口を開こうかとハーマイオニーがした瞬間。
またロンの腕がハーマイオニーを抱え込み、文句を言おうとした唇をふさがれた。
2秒...3秒...4秒...5秒...
ぱっと、息つぎに合わせて離された唇。
「これは、デザートのおすそ分け、だね。」
器に入った苺についた、水滴が一滴、下に滑り落ちた。

Fin.

後書き
え?このストーリーの元ネタは何かって??
どっかの、誰かならわかるはずなんですけどねぇ。
この裏ページを知ってるなら、すぐに連絡がくるんじゃないかなぁ...。(個人的な話ですみません)

え?この後二人はどこへ出かけたって?
それは勿論、ベッ...(自粛)とっとと、違う。そうじゃなくて。
二人で仲良く買い物に行ったらしいですよ。(うわ、白々しい。)

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