「check the expresson,checked expresson.」

活字保管庫。
活字アレルギーには苦痛の空間。
活字中毒者には至上の空間。
「誰が中毒者ですって?」
「いや、別に悪口じゃないだろう?!」
こんな会話をするのは、ご存じグリフィンドール、いやホグワーツ切っての
おしどり夫婦と噂される赤毛と金髪の二人。
「私が中毒なんじゃなくて、あなたのアレルギーが酷すぎるのよ。」
「そうかなぁ、みんな普通はこんなもんだと思うけど。」
「いいから、ちゃんと本を受け取ってよ。重いんだから。」
今、ハーマイオニーは、はるか高い位置にある、滅多に人の手の触れないような
分厚く、重たい皮張りの本をざっと10冊ほど取り出そうとしていた。
ロンの手でもちょっと届かないその本を取り出すのに、困っていたハーマイオニーは
『肩車しようか』という、良心なのか下心なのか計りかねるロンの申出をきっぱり
跳ね返し、律儀に脚立を持ってきて本を取り出そうとしているのであった。
「よくこんな本を読む気になるよな。 見ろよ、この活字の古さといったら!」
「いいからはい、最後はこの本。  ...っきゃあ!」
最後の10冊目を積もうとしたその時、積んでいた本の山がバランスを崩した。
慌ててロンがそれを止めようと身を乗り出したが、今度はハーマイオニーの奇声によって
調子を崩し、本を押えることは出来なかった。
「ロ、ロン!今スカートの下に入ろうとしたでしょう!」
「え、そんな、誤解だってば!今の状況見たらわかるだろ??」
大声で言ってしまってから、ロンははっとして口をつぐんだ。
ここは図書室。マダムピンスのお小言は、音楽がわりに1時間ほど聞いているにはちょいと辛すぎる。
「もう少し、状況を見てから動いてよね!」
「だから、これは不可抗力だって。」
「いくら不可抗力でも、デリカシーってもんが  ...っきゃあ!」
また、書架の隅々まで届きそうな奇声がロンの耳を突き刺した。
...いや...奇声と言うより、悲鳴?
今度は、本が崩れたわけではない。だからロンも、疑われるようなことは何もしていない。
その代わり、今度は、脚立がバランスを崩そうとしていた。
そう、脚立。そしてそれは、ハーマイオニーの乗っている、脚立。

3段ほどの、あまり大きくない脚立であるから、自分に向かって倒れてくる脚立を見ても、
ロンが怪我をすることはない。ハーマイオニーだって、然り。
だって、だって。ハーマイオニーだって、自分の方向に倒れてくるんだから。

脚立の上に立っていたおかげで、見かけ上の身長がロンよりわずかに高くなっていたハーマイオニーが
こちらに倒れてくる。ロンはとっさに逃げようとする本能と、支えて助けようとする理性が
せめぎあって、結局はその平均の行動をとってしまった。
つまり、一歩引いて逃げ出すのと、状態を上に反らして受け止めるのの、中間。
半歩引いて、受け止めた。

その場にいれば、上手いこと体を支えられたのに。 これは、ロンが後から考えたこと。
結局、半歩下がってしまったロンは倒れてくるハーマイオニーの重みを
腕を伝って100%自分が受けてしまい、ハーマイオニーもろとも床に倒れこんだ。

20秒ほど経っただろうか。
脳震盪に良くある鈍い痛みをこらえつつ、ロンはブラックアウトの世界から目を覚ました。
恐る恐る目を開くと、瞼を開けたはずなのに、世界は真っ暗。
いや、遮られて....る?
ちらちらと、細糸の束の間から、光が見え隠れしている。
それが、ハーマイオニーの髪だと気付くのに、また数秒かかった。
「えっ...おい!ハーマイオニー!!」
自分の体ごと、ハーマイオニーを起こそうとして、ロンは顔をしかめる。
倒れたときに、足を少し痛めたらしい。
しばらくハーマイオニーの体を揺すると、ぴくり、とその体に意識の兆しが見えた。
ゆっくりと、ハーマイオニーが意識を取り戻す。
ハーマイオニーが、わずかに上体を持ち上げる。
先ほどのロンと同じように、頭痛が残るのか、しばらく顔をしかめたまま。
そろそろと、ハーマイオニーが目を開けると、丁度目の前にはロンの瞳。
1度、2度と目をしばたたかせて、なおハーマイオニーは現状を良く把握出来ていない様子。
「誰ですか!図書室で騒いでいるのは!! ロン、あなたでしょう!」
珍しく、カウンターから飛び出してきたマダムピンスの足音が、こちらへ近づいてくる。
「まずい、ハーマイオニー。逃げるぞ。」
「え、ちょっと、本...」
「ここで見つかったら、それこそ1週間くらい、図書室に出入り禁止かもよ。」
ほら、とロンは無理やり腹筋を使ってハーマイオニーを起こし、手を取って
足音とは反対側の通路に滑り込んだ。
あとは、書架の向こうに見え隠れする影を避けて、出入り口に向かうのみ。
「走れ!!」
隙をみて、二人は図書室を飛び出した。

どこをどう走っただろうか。
気がつくと二人は、滅多に人のこない、離れの小さな小屋にたどり着いた。
禁じられた森に程近い場所にあるその小屋は、ハグリッドの小屋よりさらに小さく、
物置...というよりも、狩り小屋のようだった。人一人ならまだしも、二人だと、ちょっと狭い。
「何も、こんな所まで逃げ込まなくたっていいじゃない。」
「いや、ちょっとした駆け落ち気分を...」
言ってから、腕に爪を立てられて、ロンは小さく悲鳴をあげた。
空には、鉛色の雲が垂れ込めていて、今にもぐずつきそう。
気圧と共に、気温も急激に下がり始めていた。
カタ、と微かに肩を震わせたハーマイオニー。敏感にそれを感じ取ったロンが、
さりげなく、自分の上着の中にハーマイオニーの体を押し込める。
「...ロン」
「いいから。戻ろうにも、戻れなくなっちゃったし。」
灯り取り程度にしかならないほどの小さな窓。そのくすんだガラスに、空からの涙粒が
ひとつ、ふたつと流れ始めていた。
ロンの胸からハーマイオニーは何も言わずに体温だけをおすそ分けしてもらっている。
かくん、と首をまげて、ロンはそばかすの残る鼻をハーマイオニーの髪に埋めた。
頬に当たる温もりと、くすぐったさが心地良い。温かいし、良い香りだし。
窓に伝わる雨は、わずかの間にかなりの大雨になっていた。
「結構、降ってきたわね。」
「通り雨だと思うよ。それまで、ここに居させて。」
図書室にいるつもりが、それもできなくなったし。たまにはこういう日もいいか、と、
ハーマイオニーは小さくうなずいた。

しばらく、静かな時が流れた。
「やらずの雨、ね。」
ふいにハーマイオニーが口にした。
「やらず?」
「好きな人と一緒にいる時、あたかも帰すまいとするように降る雨の事よ。」
「へぇ、好きなんだ。」
揶揄するようなロンの一言がハーマイオニーの顔を加熱させた。
「じゃあ、もう一つだけ、お願いしていいかな?聡明なる君ならわかると思うけど。」
ロンの腕を通じて、深呼吸が伝わった。
「いいわ、聞きましょう?」
ロンは静かに唾を一飲みして、伝えた。
「embrasser ou baiser?(アンブラッセ?それともベーゼ?)」
ハーマイオニーはきょとんとして、それから笑い出して。
「それ、どっちも意味、似たようなものじゃない。」
「でも、ちょっとだけ意味が違う。 どっち?」
「...baiser.」
ハーマイオニーは、ほぼ即答に近いような早さで答えを出した。

embrasser(仏)---挨拶代りの包容、キス
baiser(仏)---(恋愛感情の表現手段としての)キス

ロンは頭の中で改めて一旦辞書を引き直した。
念のため、意味を再確認して、行動に移す。
「あ、待って、ロン。 私からもお願い、一つだけ。」
言われて、ロンは慌てて起こしかけていた行動を止めた。
「その...キスしてる最中は...目、閉じててくれない?」
気丈なハーマイオニーにしては珍しく、ゆっくり、小さく、ともすれば消えそうな声。
ロンはきょとんとしてその申出を聞いていた。
「...OK、わかった。」
出端をくじかれちまったな、とちょっと困惑しながら、この先どうしようかと、ロンは戸惑う。
様子を察してすっ、とハーマイオニーから行動をおこした。
ロンの首をくるんだ腕にぐっと体重をかけられ、半ば強引にロンは背をかがめる。
あとは、目を閉じて。
顔を近づけて。

...ダメ、って言われるとやりたくなるよね...
...でも、やっぱりやめたほうがいいかな...
...でも....さ。...
本音の欲求にいともあっさりとロンの理性は道を譲った。
すこしだけ、すこしだけ、薄目の向こうにまつげの覆い。
覆いの向こうに、目を閉じている、ハーマイオニーの顔。
普段なら、絶対に見れないような構図。
すこしだけ、のつもりが、そのままロンは目を離せなくなってしまった。
さすがに唇を離すその瞬間は、目を閉じて、証拠隠滅。

雨はもうほんの少しだけ、降っていたけれども、その勢いはすっかり弱まり、
薄くなった雲から、太陽の光がわずかににじみ出した。
「行こうか。ハリーが心配する。」
「そう、ね。」
ぎしぎしと錆びた蝶番を無理やり押し動かすと、湿った空気が小屋のなかに流れ込む。
「駆け落ちには、ちょっとムードが合わないわね。」
「まぁいいさ。 君、かわいかったし。」
濡れた草を踏みしめ、二人は小走りに寮へと向かった。

「...ロン。」
「...ん?」
「キスしてるとき、見たでしょ、私の事。」
「い、や!!まさか!」
「...嘘、見てたもの。」
「.....なんでわかったのさ。」

ハーマイオニーは恥ずかしいのか、赤く染めた頬をロンに向けて、
ちょっとふくれたようにいった。

「.......私もだからよ。」

「check the expresson,checked expresson.」 Fin.

後書き
あ、甘ったるい(汗)
構想メモにあった項目4つをごちゃまぜにしたら とんでもなく甘ったるい感じに(汗
ちなみにその項目は「やらずの雨」「髪」「図書室」「目を閉じていて」でした。
ロンは髪フェチである、という意見をネットで発見して、激しく同意したのが
この小説の始まりです(笑)
ちなみに構想メモには他にも7個くらい項目がありますが、使えるかどうかよくわからんのまで
含まれてますね...。あと、HRHに出そうとして考えた構想も含めると結構量あります。
どんな項目で、どんな内容になるかはお楽しみに。

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