「聖夜特急---その後」

外がこれほど寒いというのに、コンパートメントは暖かかった。
ハリーとハーマイオニーはすぐにコートを脱いで、座席に座った。
「楽しかった?」
ハーマイオニーが尋ねる。
「勿論。楽しくない訳ないじゃないか。色々な所にも行けたし、色々なものを見れたし。」
それと.....ハリーが一瞬の間を置く。気付かない人には気付かないくらいの短い間。
ハリーの口が小さく動いた。
れれdp、pハリーの言葉は、けたたましく鳴り響いた汽笛にかき消されて、
ガタン、と重い音をたてて鉄の塊がゆっくりと動き出す。
力強く車輪が動き出す。 煙突から湯気が立ち上る。
ホグワーツ特急は今日も動き出した。
二人の若き男女の心と共に。

軽快な音を引き連れて列車が進む。
「ハーマイオニー、百味ビーンズ、いるかい?」
「ありがとう。もらうわ。緑色は...あ、ミントね。」
「じゃあ、僕はあえてこの赤いのを。苺かな?...うわっ、酸っぱい!ザクロだ!」
ハリーが思いがけない酸っぱさに驚いて、思わず声を上げる。
「まだ、唐辛子でなかっただけありがたいとおもわなきゃね。」
笑いながらハーマイオニーがもう一粒つまむ。
ハリーのもっている箱に手を伸ばそうとして身を乗り出したその時、客車が大きく揺れた。
「おっと!」「わっ!」
ハーマイオニーはバランスを崩しかけ、肩に手を乗せられていたハリーははずみで押され、
ますますバランスを崩しそうになったハーマイオニーが前のめりになった。
結果。ハーマイオニーがハリーに抱きつく格好となってしまった。
何とかそれ以上バランスを崩すのは踏みとどまり、すとん、とハリーの真横に座る格好になってしまった。
二人とも、何が起こったのか理解出来ず、しばらくそのまま互いの顔を見ていた。
数秒の後、ようやく事態を飲み込んだハーマイオニーが慌てて手を離す。
同時にハリーも事態を飲み込んだ。
「あっと、ご、ごめん。」
「え?何でハリーが謝るのよ。謝るのはこっち...あれ?えっと...」
まだ混乱から抜け切っていない二人。しばらく事態を整理して、二人とも笑い始めた。
「何でこんなに...」
「慌てなくちゃいけないのかしらね。」
のぼせたように顔が赤い。気恥ずかしさから話の流れを変えようとハーマイオニーが話し出した。
「そういえばさっき列車が発車するときに何か言おうとしてなかった?」
「あぁ、あれは...」
言いかけてハリーが口ごもる。顔が妙に赤い
「何?どうしたの?」
「いや、うーんと...その、なんて言うか...」
ハリーの顔がますます赤くなる。言うのか?もう一度?真面目に聞こうとしているハーマイオニーに?
さっきはそれとなく会話に織り混ぜたからあの言葉が言えたのだ。今?改めて言うのか?
ぐるぐると色々な考えが頭を駆け巡る。どうしよう、誤魔化そうか、いっその事言ってしまおうか。
ハーマイオニーがなにやら意味ありげな表情を送ってくるようにハリーには見えた。
...決めた。
「素敵な君をたくさん見れたなって。」
ふっ、とハーマイオニーの表情が緩む。
「私もよ、ハリー。素敵な面をたくさん見られたわ。本当に。」
ハーマイオニーが手を差し出す。ハリーもその手を握ろうと手を出した。
そうした瞬間、ハーマイオニーは今度こそ、自分の意思でハリーに抱きついた。
心地よい温かさがハリーの体を包む。ハーマイオニーの髪がハリーの顔をくすぐる。
何よりも、誰よりも、嬉しい温かさ。
「嬉しいのよ。本当に、本当のあなたを見れて。」
耳元で囁かれた言葉に、ハリーはもうたじろぐ事はなかった。
「ねぇ、ハリー、どうして欲しい?」
「君が望むなら、なんでも。」
「...言った事には責任もってよ?どうなっても知らないからね。」
「幸せ者には幸せしか見えないものだよ?今の僕には幸せしか見えないもの。」
ハーマイオニーがハリーの目を覗き込んだ。しっかりと、人を見据えた目。
思わず吸い込まれそうになるほど、純粋な一対の瞳がハリーを見る。
「本当?」
ハリーが微笑んで言った。
「前言撤回。幸せの前に君しか見えない。」
「...馬鹿。...嬉しすぎるわよ。」
お互いの唇が近づく。もう、二人の目には幸せの色しか見えていなかった。

体が熱い。
隣にハーマイオニーがいるから?
そうじゃない。
幸せ者の自分がここにいて、幸せ者の君がいるから。
五感に伝わる信号も、汚れない幸せ以外の何物でもないのだ。
ハリーの手が、幸せそうな表情で眠る隣の少女を撫でた。
額に唇を寄せて。

「ねぇ、本当に僕の声は聞こえていなかったの?」
そんな言葉を、ハリーは甘い香りと共に飲み下した。
いいじゃないか、幸せだから。

Fin.

後書き
やってしまいました...。やるまい、やるまいと思っていたのに...。
ただただ、複雑な気持ちの
極超短編第1作。

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