この世に白ほど、バリエーションのある色はないという。
名前のついたものだけでも、ピュアホワイト、オフホワイト、スノーホワイト、他多数。
女の子なら、人生に一度は絶対夢見る日があるという。
自らを白で覆い、白で飾る日。
ハーマイオニーも、かつては夢に描いたそうな。
でも、それも今日で終わり。
今日が、ハーマイオニーにとって、夢見たその日だから。
「White and Black walked on Red」
高原の頂にたたずむ白い建物。
教会のバルコニーには、緑の風が吹き抜ける。
窓の外を見れば、はるかに続く山の景色。
そして、ゆるやかなカーブを描きながら丘沿いに走る道路。
そよぐ風に身を任せながら、ハーマイオニーはそんな景色を飽きること無く見つめていた。
はるか道路の向こうに、小さな黒い点が見える。
その点は、だんだん、だんだん大きくなって、
ハーマイオニーはよーく目をこらして、それが黒い車、それもこちらに向かう車だと確認した。
乗っている人に覚えは、ある。 というより、一人しかいない。
ハーマイオニーはくるりと向き返って下の階へ向かえに行こうとして、横にいたお母さんに止められた。
「花嫁は、ドレス姿を式直前まで見せてはいけないのよ?」
ドアノブに手を掛けかけていたハーマイオニーも渋々といった面持ちで手を放した。
楽しみは、後に取っておこうと自分に言い聞かせて。
さて、教会までの道のりを車でひた走るロンに、そんな余裕はなかった。
人生の大きな節目を目前に控え、緊張で心臓が高なるのと、
ちょっと家を出るのが遅れてしまって、遅れやしまいかとはらはらどきどきして心臓が高なるのと。
ロンの心臓は、もうすでに若干オーバーワークぎみだった。
街を抜けて丘への道を突き進み、やっと目の前には目的地のやや小さな教会が見えてきた。
この分ならなんとか遅刻はしないで済みそうだ。
心の片隅で安堵しながらも、心の反対側では
この車が進んでいくに従って近づい来る、人生の一大儀式への緊張がどんどん大きくなっていくのだった。
人生に、一度だけの晴れ舞台、大きなへまだけはしたくなかった。
ドライバーが焦りすぎて、ギアチェンジを忘れられている車は、がたがたとひどい振動を発しながら、
低いギアで猛スピードを出しているせいで、マフラーからもうもうと黒煙を吹き出しているが、
ドライバーはなお意に介さない様子。 というより、気付いていない様子。
もはやエンスト寸前、という時。やっとロンは重厚な教会の扉の前に車を乗り付ける事ができたのだった。
ハリーは、教会の椅子に、静かに座っていた。
その隣に男性がひとり、すっと足を組んで座った。
一点の曇りなく磨き上げられたエナメルの靴。その長い足を包むのは艶のあるシルクのズボン。
ハリーはうつむいていた顔を上げ、隣の客を静かに見つめ返した。
「相変わらず、騒々しいやつらしいな。」
「君も、負けず劣らずだったんじゃないの?」
顔を上げるにつれ、足先から、膝、ベルトを見ながら、ハリーの視線はなお上へ。
「あいかわらず、だね。ドラコ。」
純金の輝きをもつ髪を一本の残りもなくきっちり後ろにまとめたドラコは、
相変わらず冷ややかな視線をまぶたに湛えている。昔と変わらない表情とはうらはらに、
ホグワーツに集っていた頃の刺のある物言いは、わずかではあるが丸くなっている。
「あの赤毛坊主は、“結婚は人生の墓場”という先人の知恵を知らんのか?」
「まして、‘あの’ハーマイオニーが相手なんて、とでも言いたそうだね。」
「あぁ、僕はああいうのは好かないね。もっとこう、なんと言うか...」
「そっか。それでジニーに...」
言葉と息をつまらせ、ドラコが顔を赤く染める。
「おい、ハリー!!」
「いいじゃん、ジニーもあれでなかなかかわいいじゃない。」
ほんと、僕の回りの男共はどうも僕に近い女の子からかっさらっていくよね。
何か反論しようとおたおたするドラコを尻目に、ハリーは自嘲ぎみにつぶやいた。
「あ、ほら。始まるみたい。 静かにしろよ、ドラコ。」
ついでにハリーに嗜められる始末で、ドラコは憤慨しつつも椅子に座り直した。
粛々たる宴の始まり。
パイプオルガンの響きが壁を、窓を、扉を、椅子を、全てを、震わせる。
音が教会の空気をみたし、命を吹き込まれた空間が祝福を告げる。
ワインレッドの絨毯を、二人の一歩が踏みしめる。
純白のドレスに身を包んだハーマイオニーと、純黒のタキシードに身を包んだロンが
ゆっくりと、歩を進める。
その後ろで、3人の女の子が雲のように広がるドレスの裾を支える。
ラベンダー、パーバティという二人の旧友と、ジニー。
「へぇ、かわいいじゃない。ジニーのブライドメイド。」
にやにやと笑みを浮かべながら、ハリーが茶化す。
「…五月蝿い。」
まだ、ぶすっとした顔のドラコ。そうは言いながらも目線は座席の間を通る花道を追っている。
主役の2mほど後ろを追っているのは、ご愛敬だろうか。
ロンの後ろには、アッシャー役を買って出たジョージ、フレッド、パーシーの姿。
ゆっくりと赤いじゅうたんの上を進み、祭壇の前へ。
ぴたりと止んだ音楽。張り詰める空気。
「では、始めましょうか。」
神父さんの一言が、二人の耳に染みた。
Ronald Weasly, do you take Hemione Granger to be your
wedded
wife, to live together in marriage.
Do you promise to love her, comfort her, honor and keep her
For better or worse, for richer or poorer, in sickness and health.
And forsaking all others, be faithful only to her.
So long as you both shall live?
...I do...
Hemione Granger do you take Ronald Weasly to be your
wedded
husband to live together in marriage
Do you promise to love him, comfort him, honor and keep him. For
better or worse, for richer or poorer, in sickness and health.
And
forsaking all others, be faithful only to him.
So long as you both shall live?
...I do...
Say Exchange of Vows.
I Ron take you Hermione for my lawful wife
to have and to hold from this day forward, for better,
for worse, for richer, for poorer, in sickness and health,
until death do us part.
I Hermiony take you Ron for my lawful husband,
to have and to hold from this day forward, for better,
for worse, for richer, for poorer, in sickness and health,
until death do us part.
聖堂に言霊が響き渡る。
意味を込められた言葉が力を持って響き渡る。
結婚の誓約を宣言した後は、指輪の交換。
差し出された台座に小さく輝く指輪が二つ。
そっと、取り上げるとダイアモンドにステンドグラスの色が映って
ちらちらと虹色の反射を見せる。
ロンは緊張で震えそうになる手をゆっくり静め、指先にとった指輪をゆっくりと薬指にはめていく。
ほんの数秒で終わる出来事が、ロンには長く感じられた。
ハーマイオニーもまた、然り。
無意識のうちに息をつめて、ゆっくりと指輪を通した。
そしてここからが結婚式のメイン・イヴェント。
ハーマイオニーの視界を遮っていた薄いヴェールを取り去ると、見えるのはロンの顔。
これからするのは、別段普段と変わりない事。
普段と変わりない、ただのキスなのに。
でも、今は。
人生で一度きりの時で。
一度きりのキスで。
ロンの瞳が、優しくハーマイオニーを見つめ返す。
「Kiss the bride.(誓いのキスを。)」
その言葉に押されるように、ロンが口を開いた。
「これから、よろしくね、ハーマイオニー。」
「こちらこそ、ロン。」
顔が近づく。距離が縮まる。熱が伝わる。
人生特別な日の、人生特別なキスは。
どういうわけだか、甘いというよりちょっと酸っぱい、始めてのキスのような味だった。
離れようとするロンを、思わずハーマイオニーは引き止めるように目線を合わせた。
視線に気付いたロンが、目だけで返事をする。
(…また、後で。…)
ロンの唇が離れた瞬間、ハーマイオニーの体から、緊張が抜けた。
「おめでとう。晴れて二人は神の前で結婚の誓いを交わしましたよ。」
その言葉を聞いた途端、上気した顔にどちらからともなく満面の笑みを浮かべて。
次に聞こえたのは、喝采の拍手。
「おめでとう!」「いい式だったね!」「きれいだったわよ!」
数々の言葉と共に、二人の体に米の粒が振りかかる。
青空の元、ライスシャワーを浴びる二人。ここに居る皆が自分達を祝福してくれている。
照れ臭いのか、ロンは頭をかきながら、ハリーと話していたりする。
「ハーマイオニー!ブーケを頂戴!!」
どこからか聞こえてくる声。
その声を皮切りに、集まっていた女の子がどっと前に押し寄せてくる。
「わかったわ!さぁ、投げるわよ!」
ハーマイオニーは階段を上り、勢いをつけて後ろ向きにブーケを放り投げた。
青空を舞ったブーケはくるくると回りながら太陽の光に入り、
そこからさらに落下を続けて、皆の視線がそれを追いかけて...
ジニーの手の中に落ちた。
一瞬の静寂とともに、わっと、歓声が上がる。
「よかったわね、ジニー!あなたが次のお嫁さんみたいね。」
ジニーは恥ずかしそうではあるけれども、とても嬉しそうだった。
「おーい、ロン!あれもやってくれよ!」
「なんだいジョージ、あれって?」
今度はロンに声がかかる。
「おいおい、勘弁してくれよ。ブーケトスときたら、次は。なぁ、フレッド?」
「あぁ。決まってるよな。」
意味深な微笑みで、双子が顔を見合わせる。
「あ、僕わかった!」
ハリーまでそれに参加して。息をそろえて、3人は言った。
「「「ガータートス、だよ!」」」
それを聞いて、ギャラリーがどっと沸いた。
「え、えぇ!やるの!!」
ロンの顔が、一気に酢だこの様な赤さに染まる。
「どうせやるなら、本式のやり方でやれよ!」
ロンが、おそるおそる隣のハーマイオニーを見た。
「...だって。どうする、ハーマイオニー?」
「あら、おもしろいんじゃない?構わないわよ、私は。」
ハーマイオニーはしれっと返事を返した。
「...念のため聞くけど。本式のやり方って意味、わかってるよね...?」
「えぇ。どうぞ、お構いなく。」
ロンは数秒そのまま固まった。
「じゃ、お言葉に甘えて。」
そうつぶやいて、ロンはやんやとはっぱをかけるギャラリーに向かって大声で宣言した。
「よーし、やるぞ!」
その宣言に、喝采の声はいよいよ大きくなり、ハリー、フレッド、ジョージ達を含めた
男共が今度は前へ前へとやってきた。
ごめんよ、ハーマイオニー。
そんな言葉をちょっとつぶやいて、ロンは大きく息を吸い込んで。
白い布の海へと潜っていった。
ガータートスは、花嫁が左足につけているガーター(靴下止め)を花婿が抜き取って、
未婚の男に投げる、いわばブーケトスの男版。
そして、本式のやりかたというのは、立った花嫁のドレスの中に新郎が潜り、
口でガーターをはずすという方法。
まぁ、平たく言えば、新郎は公衆の面前で花嫁のスカートの中に潜れということで。
ロンは意を決して、ガーターをはずしにかかった。
ひとつひとつは薄い生地でも、それが幾重にも重なって渦巻くと
思いもかけないくらいの障害になる。
水の中にいる、というよりは落ち葉の中にはまり込んだような感じ。
掻いても掻いても体は進まず、それなのに疲労だけが腕にたまっていく。
それでもロンはがしがしと生地を掻き分けて、やっとハーマイオニーの足を見つけた。
指先でつつくと、ハーマイオニーは直ぐに左の靴を脱いだ。
...覚悟はしていたけど、すごくやりずらい。
はっきり言って、自分の体を低い姿勢のまま維持するだけでも辛い。
まして、今の自分はさらに顔を低い位置に持っていく必要があるのだから。
息をすれば、ハーマイオニーのにおいでいっぱいだし。
自分のか、ハーマイオニーか、渦巻く熱気も堪えながら、ロンはなんとか足からガーターを
はずす事に成功した。
一気に水面に浮上する。もとい、抜け出る。
解放された視界と聴覚に、フレッドやハリー達の揶揄する声が聞こえる。
「さぁ、受けとって!」
くらくらする頭で方角もよく見定めずに、ロンは宙にそれを投げた。
投げられたガーターはハリーのいる中心付近からは若干それ、
ハリーの延ばした手をかすめてその後ろにある手へ。
純金の輝きをもつ髪を一本の残りもなくきっちり後ろにまとめた、ドラコ。
「ちょ、ドラコ?! 君、結婚願望あったっけ??」
なんでいつのまにこんな人ごみの中心まで?
「ふん、人ごみに任せていたら偶然ここまで来ただけさ。まぁ、もらって嫌なものではないしな。」
ドラコだったら絶対人ごみに逆らってでも来ないと思っていたのに...などと
ぶつぶつ考えるハリーを尻目に、ドラコは受け取ったばかりのガーターを天に掲げた。
「ありがたくもらったぞ、ロン。」
かくて、二人の結婚式は、大盛り上がりのうちに、お開きとなったそうな。
ギャラリーが解散すると、そこは嵐の後の静けさ。
「ありがと、ロン。」
「ん、なにさ、突然。」
ロンの運転する隣で、ハーマイオニーがつぶやく。
「いや、なんとなく。」
いつになく優しいハーマイオニーの微笑みは、
バラ色の微笑み。
ちなみに、この後まっている結婚祝賀パーティはおろか、
先々までこの日のことが茶化されるのは、また別の話である。
おそまつ。
White and Black walked on Red Fin.
後書き
えーっと(汗)
最初は裏に回すつもりなんて毛頭なかったんですが。
キスシーンはあるわ、その先スカートが(以下略)
...裏にまわさなきゃ(汗)
という紙の刑事が...じゃない、神の啓示が下ったのです。
ちなみに、この風習は本当にありますので、気になる方は調べてみてください。
私はやるかどうか...というのは、別の話。
では!(脱兎)
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