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Why_cryptocurrency_does_works?

仮想通貨はなぜ働く?

「仮想通貨(ビットコインなど)はなぜ貨幣として働くのか?」という質問を学生からされました。自分の知識の中で答えてみた内容を改めて整理しておきます(専門家でもなんでもないので、もしも間違えていたら教えて欲しいです)。

そもそも通貨(お金)とは

仮想通貨の話をする前にまず、そもそも通貨(お金)とはどういうものなのか、をしっかり理解する必要がある。

基本の基本は「物々交換」

「おなかが空いたからお肉が欲しい。手元には森で採ってきた薪がある」Aさんと、「寒くなってきたから焚き火用の薪が欲しい。手元には肉の貯えが余っている」Bさんが出会うと、薪と肉を交換できてお互い幸せになる。

これが最も単純かつ基本的な「物々交換」という取引方法である。

誰でも欲しい物(=金)を介した取引…金本位制

数日後「またおなかが空いたからお肉が欲しい。手元には森で採ってきた薪がまだある」状態だとしよう。ところがBさんはもう肉を持っていなかったので、肉を持っているCさんから肉をもらおうとする。しかしCさんはもう十分な量の薪を持っていて、魚が欲しいとする。森に住んでいるAさんは魚を持っていないのでCさんと物々交換ができない…という状況が起こる。

このように物々交換には『「欲しい物」と「余っている物」がマッチングできている相手を探すのが大変(もしくは見つからない)』という問題点があってとても不便である。しかも肉は余っていても長く経てば腐ってしまう(滅失)し、薪は夏の暑い時期には不要(需要変動)かもしれない。

直接の物々交換は不便だが、もしも「(取引相手となりうる人なら)誰もが欲しいと思うもの」(仮にXと名付ける)があればどうか。Aさんは肉が欲しい時、肉を持っているCさんに手持ちのXを渡して肉を得る。Cさんは入手したXを使って魚を持っている人を探しXを渡せば魚が手に入る。このような「誰もが欲しいと思うものX」を介した交換が上手く連鎖するようになれば、『「欲しい物」と「余っている物」のマッチング』を考える必要がなくなる

誰もが欲しいといっても、Xが例えば水のように無尽蔵に存在するものではいけない。取引によって取得しなくても雨を貯めたり川にいけば手に入ってしまうから、価値がなかなか生まれない。必要十分な量があり、かつ(取引以外の方法では)容易に手に入らない希少価値が必要となる。

このXは様々なものが用いられたが、最終的に世界中で広く使われるようになったのは「金」であった。産出量が少ない(=希少価値があり、価値が暴落する危険性が少ない)、加工がしやすい(=細かい取引に使いやすい)、色が特徴的(偽造しにくい)などの理由があるとされる。

金本位制によれば、人々が「欲しい物」はすべて、対応する量の「金」で価値が表せる。金を蓄えておいて、必要な時に必要なものを手に入れることができる。そうして、実際に金を含む貨幣(金貨)が使われるようになった。

この金貨には、金(カネ)すなわち『貨幣としての価値』と、金(キン)すなわち『貴金属としての価値』があることに注意が必要である(以下ややこしいので単に金と書いたらそれは貴金属としての金(キン)の意味とする)。貨幣としての価値は取引によって変動する可能性があるが、金貨としての最低限の価値は金貨に含まれている金そのものの(貴金属としての)価値で保障されている。

余談~狼と香辛料の世界~(1)
支倉凍砂のライトノベル『狼と香辛料』の中で、両替商が精密天秤を持っていたり、「貨幣の純度」に関する言及があったり、「鋳つぶす」という発言が出てくるのは、全て金貨に『貴金属としての価値』があるからに他ならない。リュミオーネ金貨が2枚あったとしても、その2枚が等価値である保証はない。なんらかの事情で片方の金純度が低ければ価値が変わるし、摩耗したり誰かに削られたりして体積が減っていればその分金も減っているから価値が下がる。だから両替の時は金貨の質(純度・密度)や大きさをよく見なければならない。そしてリュミオーネ金貨が流通しない辺境の国に行ってどうしてもお金が足りない場合、リュミオーネ金貨を鋳つぶせば、少なくとも金地金としての価値はどこの国に行っても変わらないので、金地金の価値の分だけ取引ができる。(そうなるともはや物々交換であるが…)

金は重いから運びたくない…金兌換券と信用

金貨を大量に流通させようとすると、金貨は重くてかさばるのが難点である。そこで、「金」そのものを交換するのではなく、あるチケットを持ち込めば、国(または信用できる誰か)がいつでも「金に変えてくれる」という仕組みを作れば、いちいち重い金を移動させなくて済む。この金と交換してくれるチケットの事を「金兌換券(だかんけん)」という。金兌換券自体はただの紙だから、『貴金属としての価値』はもはや存在しない。その代わり「この紙はいつでも金に変わってくれる」という『信用の価値』がある。

とはいえ、結局貨幣の価値は信用の裏に存在する金が決めていることに変わりはない。貨幣は国家が発行するので、金兌換券の『信用の価値』を維持するのは国家の仕事である。だから各国の中央銀行には、国内に流通している金兌換券に対応する量の金が常に確保されている必要があった。

余談~狼と香辛料の世界~(2)
『狼と香辛料』の中でも、船や馬車を使って貨幣を輸送するというシーンが何度か登場する。(大量の貨幣は数えるのも大変だから、船の上では「箱」単位で扱う。それを逆手にとって中抜きをする悪徳商会の話があった)。

金(カネ)さえあれば金(キン)はいらない

金兌換券は便利だが、もう一つ問題がある。それは金兌換券と金が常に一対一対応する仕組みである以上、世界に存在する金以上の兌換券を作ることはできないという問題である。人が増えれば買い物の全体量も増えるのに、地球上に存在する金の量には限界がある(おまけにアクセサリーなど、貨幣でないものにも金は使われる)。

しかし考えてみれば、一つの貨幣を数千~数億の人々が使うようになり、すべての人が同時に金兌換券を金に交換するという事はまずありえない。貨幣にとって大事なのは「この紙きれ(=貨幣)は、いつでも額面相当価値分の何かと交換できる」という信用さえ残っていれば、中央銀行に同等量の金が保管されているかどうかは問題にならない、という事になる。こうして現在の貨幣は金の縛りから解放され、地球上に存在する金よりもはるかに多い量の貨幣が流通できるようになっている*1。人類はここでようやく、貨幣の本質は『信用の価値』という無形の情報と、それを交換できるしくみである事に気が付いた。

その代わり貨幣が持つ最低限の価値はもはや保証されなくなるので、同じもの(例えば金1g)を買うのに必要な額面金額が貨幣発行国の経済状態(信頼度)によって変化する(変動相場)ようになる。ひとたび信用を失えば札束も文字通りの「紙屑」になってしまう。これがいわゆるハイパーインフレで、2007年以降のジンバブエの事例が記憶に新しい。ジンバブエ・ドルの貨幣価値が信用されなくなり、紙くずとなった。しまいにはリヤカーに山盛りの札束を運んでもパン一つ買えない状態となり、100兆ジンバブエ・ドル札を作っても使い物にならず、デノミネーション(通貨単位の見直し)をしてもまだ使い物にならず、最終的に2009年に新規発行を停止、2015年には正式に通貨廃止された。

余談~狼と香辛料の世界~(3)
信用で取引するという意味では、『狼と香辛料』でしばしば重要な役割を果たす「為替」もまた似ている。ある商品を取引先に売った時、本来は商品の対価として貨幣を受け取るべきだが、それをいったん保留しておいて(現在の会計用語でいう「売掛金」)、その取引先と関連のある別のところから商品を買い取るときに貨幣を支払わず(現在の会計用語でいう「買掛金」)におけば、後は帳簿上の差し引き(情報伝達)することで貨幣を物理的に運ばずに双方の会計が完結する。

ブロックチェーンとは

次に、仮想通貨の基本原理である「ブロックチェーン」について簡単にまとめておく。

ブロックチェーンは、単純に言えばインターネット上に分散した台帳に情報を書き込んで管理する技術である。この時、暗号技術(ハッシュ関数*2)を用いてデータの改ざんができないようにしておくこと、そして台帳のコピーを世界中に作っておくことで、データの改ざんを極めてやりにくくしている(ハッシュ関数を逆算すること自体が難しい上、コピーが世界中に存在するので一部を書き換えたとしても残りのコピーがそのままならば不正データとして無視できる)事に大きな特徴がある。さらに(改ざんではなく正当な)書き換えの履歴をチェーン上につなげながら記録していくことで、さらに改ざんをしにくくしている。

ブロックチェーンのしくみにより、ある一つの「情報」がいつ、誰から誰へ伝達されたのかという履歴が、改ざんのおそれなく正確に記録できる仕組みが出来上がった。

仮想通貨はどうしてお金になるのか

さて、ここまででようやく本題に入る準備ができた。

ブロックチェーンでお金の移動を実現

貨幣の基本は「物々交換」であった。何かを入手するために、その代価となるものを渡して取引が成立する。そしてお金の本質は「信用」という無形の情報であったわけだから、ブロックチェーンは『信用の価値』を移動させる方法として使用できる。そこで(金兌換券が紙きれと金の交換を保証してくれたように)現実世界の通貨(円とかドルとかユーロとか)と交換可能な電子データを作り、そのデータをブロックチェーンで管理すれば、インターネット上で容易にお金の取引が可能になる(仮想通貨と現実通貨の交換業務は国ではなく世界中に設けられた「取引所」が担っている)。ただし、実際に存在しない取引データがどんどん新しく生み出されては信頼が生まれないし価値が暴落する。そこで仮想通貨は「原理上世の中に存在しうる仮想通貨の量には上限がある」「勝手に新しい仮想通貨を産み出せない」ようなアルゴリズムを取り入れた。

マイニング(採掘)

「勝手に新しい仮想通貨を産み出せない」ならば、どうやって仮想通貨を手に入れればいいのか。そこで登場するのが「マイニング(採掘)」という考え方である。

先述した『(改ざんではなく正当な)書き換えの履歴をチェーン上につなげながら記録』を世界中に分散した台帳に対して行うためには相当な計算資源(コンピュータの処理能力×時間)が必要となる。そこで仮想通貨ではこのブロックチェーン上の情報を管理するために必要な計算資源を提供してくれた人に対し、一定の報酬を仮想通貨で与える事にしている。これを「マイニング」といい、仮想通貨を新規に発行する唯一の方法である(ブロックチェーンの情報を改ざんするにも相当な計算資源が必要であり、改ざんするよりもマイニングのために計算資源を使った方が得になるように調整されている)。仮想通貨の量には上限があるが、上限に達するまではまだまだ時間がかかるため、当面の間はマイニングに対して新規発行による報酬を与えて問題ない。

マウントゴックスの衝撃

仮想通貨は『(取引所の働きによって)現実世界の通貨(円とかドルとかユーロとか)と交換可能』という信頼に基づいて(いわば「現実通貨本位制」)貨幣として成立した。2014年に起こったマウントゴックス(Mt.Gox)の破産は、黎明期の仮想通貨の信頼を揺るがした。マウントゴックスは2013年4月の段階では全世界のビットコイン取引量の70%を扱う取引所だったが、ハッキングにより管理していた仮想通貨(ビットコイン)を失うなどの不祥事や資金繰りの悪化により破産した。取引所はほかにもあるので致命傷にはならなかったが、現実通貨本位の信頼を揺るがした衝撃的な事件であり、市場価値に一時混乱をもたらした。

それでも仮想通貨のしくみは残り、現在も取引が続けられている。(最初に流行ったビットコイン他、多数の仮想通貨が存在する)一度仮想通貨を通貨として信頼する人が増えれば、仮想通貨はもはや現実通貨本位から脱却して独立した通貨としてふるまう。実際今(2020年)では業務の報酬を仮想通貨で支払う事も可能だし、一部の店舗では商品の支払いを仮想通貨で行うことも可能である。

余談~Suicaやポイントとの違い~
Suicaのチャージ金額や、各種店舗で独自に実施しているポイント制度も、データを商品やサービスと交換できるという意味では仮想通貨に似ている。しかしこれらが仮想通貨と本質的に異なるのは「チャージ金額やポイント」が円という現実通貨と必ず一対一対応していることと、「チャージ金額やポイント」を「チャージ金額やポイント」のまま他人に渡したりもらったりできない点にある。この結果「チャージ金額やポイント」には価値の変動が起きず、また自由取引が成立しない。「チャージ金額やポイント」はあくまでも現実通貨を別の形で表現したもの(銀行預金と一緒)である。

まとめ

ここまでの話の要点をまとめると以下の通り。

  • 貨幣の本質は「自分が欲しい物と貨幣を(額面に応じた量だけ)交換できる」という信頼、そして取引相手と交換ができる環境
  • ブロックチェーンはデータのやり取りを、取引履歴全てまるごとインターネット上で管理する仕組みを提供した
  • 容易には産み出せず、産出量に上限があるようなデータの仕組みを作り、それを貨幣という信用交換のしくみの担い手として採用
  • 仮想通貨そのものは単なるデータだが、現実世界で使えるという市場の信用があるので、独立した通貨としてふるまう

*1ただし、「信用による貨幣」という考え方自体は新しいものではなく、例えばヤップ島の石貨などといった形で使われていた。

*2元データpに対し、ある処理h()を行ってq=h(p)を求める事は簡単にできても、qからpを逆算することが難しいような処理h()を「一方向関数」という。一方向関数によって元データが改ざんされていないことを検証するための情報(ハッシュ値)を作る関数をハッシュ関数という。


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